「親が心から自然好き」が子にもたらす科学的効果 脳科学者に聞く、子の脳が健康に育つ条件とは
「愛着」と「自己主体性」が脳の発達を左右する
――最初に、瀧先生の研究分野を教えてください。
瀧:5歳から80歳までの脳のMRI画像をデータベース化し、脳の発達や加齢のメカニズムを研究してきました。近年は脳の発達と生活習慣、脳の特性と性格の関わりなどを調査しながら、個人の幸福に必要な因子を明らかにする研究に軸足を置いています。また、子どもの脳に関する研究にも焦点を当てています。例えば、300人の子どもたちの脳画像を数年単位で撮影し、加えて心理・認知テストを実施。脳の特性のみならず、親との関係や環境が子どもの脳の発育にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする研究です。
――子どもの脳が健やかに発達するためには、どのような要素が必要ですか?
瀧:脳は生まれてからどんどん発達しますが、身体的な健康や、周辺環境からの刺激によって発達状態が左右されます。例えば、肥満は海馬(記憶や空間学習能力に関わる脳の器官)を萎縮させる要因になります。また、親など身近な大人との「愛着形成」は、とくに非認知能力(自己肯定感、自立心、自制心、自信などに関する力)に大きな影響を及ぼします。愛着とは、特定の人物との間に築かれる愛情や絆、信頼関係のことを指します。
――愛着はどのようにして形成されるのでしょうか?
瀧:必要条件は、愛情を感じられるコミュニケーションです。人は、愛情を生後すぐから理解できるといわれています。愛情は目に見えないので定義が難しいですが、受け手がポジティブな感情を持つものはすべて愛情といえます。言語を要する会話だけではなく、抱っこされたときの肌感覚や自分を見つめる目線など、非言語的なコミュニケーションからも感じ取ることができますし、肯定してもらったり共感してもらったりした経験からも形成されます。
――愛着は子どもが幸福な人生を歩むうえで、どれくらいの重要度を占めるのでしょう?
瀧:脳の発達において、愛着形成は最も大切なものです。愛着形成を基盤にして、母国語の習得や好奇心、運動などのさまざまな能力が獲得されていくと考えられています。とくに、親との愛着形成は他者とのつながりの基礎でもあり、まさに愛着形成の基盤ですので、脳の発達においては非常に重要な役割があるといえます。
――愛着形成のほかに、子どもの非認知能力の育成に好影響をもたらす働きかけはありますか?
瀧:親や保護者自身がさまざまな物事に興味関心を持ち、心から楽しむこともその1つです。子どもは成長段階で身近な大人を模倣します。大人が、義務感からではなく自分の意思でやりたいことを貫く姿勢を示すことで、子どもは自己主体性(自分の意思・判断で行動しようとする態度)の大切さを感覚的に理解できます。子どもが自己主体性を身に付けることは、自分の個性を見つけたり得意分野を伸ばしたりするきっかけになりますから、非認知能力の中でも子どもの成長にとくに重要な「自己肯定感」を高めることにもつながります。
親子の知的好奇心を呼び起こす自然体験
――「趣味を楽しむ時間や余裕がない」「好奇心を振り向けられる対象がない」という親や保護者もいるかもしれません。
瀧:私たちは、「自分にはできない」と壁をつくってしまうと、どうしても思考停止に陥ります。ですから、とにかく「できない」という思い込みを取り払いましょう。人間には現状維持バイアス(変化や未知のものを避けて現状維持を望む心理作用)があるので、変化を好まないのが普通です。しかし、一方で脳には可塑性(状況に応じて変化する能力)があり、実は何歳からでも、どんなことでも身に付けることができるんですね。まずはスモールステップで、どんなに小さなことでもいいから始めてみてください。休日に近所の公園まで散歩してみる、それだけでも構いません。
――なるほど。自分はこうだという決めつけで自分を縛らずに、いろいろな物事にトライしてみることが大切なのですね。
瀧:そのとおりです。また、意外にも好奇心の対象が多い人ほど、一つひとつの習得が早くなるといわれています。
――それはなぜでしょうか?
瀧:物事を探求する方法にはブロック学習(1つのことを反復する学び)と多様性学習(複数のことを同時進行で知る学び)とがありますが、多様性学習のほうがさまざまな知識や経験同士がつながり、効率的に考え方やコツを会得できるからです。例えば私は、スポーツと楽器演奏にどこか似たものを感じます。この2つはまったく違うジャンルのようですが、実は体の動かし方や上達するためのアプローチに共通点があるのです。こうした多様性学習の積み重ねは、物事を俯瞰的に捉える力をも育みます。
――大人が夢中になれて、かつ子どもと一緒に探求できる体験として、どのようなものが望ましいですか?
瀧:虫捕りや釣りをはじめとする自然体験は、親子で取り組むにはうってつけではないでしょうか。まず、好奇心といってもさまざまな種類がありますが、自己主体性につなげるには、知的好奇心(知識と理解を深めたいという欲求)が必要です。その意味で、自然はゲームとは違って人工物ではない分、どこを切り取っても計り知れない奥行きと無限の広がりがありますから、知的好奇心の宝庫のような環境です。能動的な体験を通して、虫や魚はなぜこんな形をしているんだろう、夕焼けの色はなぜ変化するんだろうと、知りたいことが次から次へと湧き出てきます。これは、受動的な体験や、動画や文字の情報だけでは得がたい経験でしょう。
親の楽しんでいる姿は、子どもに伝播する
――大人と子どもが一緒に自然体験をすることは、どのような点でプラスに働くと考えられますか?
瀧:愛着につながる共感や、子どもの探求心を刺激する問いかけができる点です。でも、無理に意気込む必要はありません。純粋に自然を楽しむ姿を見せてあげれば、子どもはその背中を見て自然と成長しますから、もはや言葉も不要かもしれませんね。ただ、終始つまらなそうにしてスマホばかりいじっているのでは、せっかく自然の中にいるのにもったいないです。自己主体性を持って子どもと共に発見を楽しみ、疑問に思ったことは調べる姿勢を大切にしてほしいです。
――親は、自然体験を通して愛着のきっかけをつくり、自己主体性を体現することができるのですね。
瀧:はい。自然体験の何よりの魅力は、人間の心を揺さぶるところです。雄大な自然や不思議な植物、本物の生き物を前にしたときの言葉にならない感動を親子で共有することは貴重な体験です。ちなみに私は、子どもと一緒に虫捕りをするときは、夢中で楽しむことだけを考えています。子どもは親自身が主体的に楽しんでいるかどうかを雰囲気から敏感に感じ取るもの。親との自然体験が子どもの成長に作用することは事実ですが、だからといって「子どもの教育のため」などと難しく考えず、とにかく自然を満喫してもらいたいです。
グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。
フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から、創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志の下、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。
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環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。
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