自然体験の「感動・好奇心」が子どもを育む 人間形成を力強く導く「自己肯定感」を養う

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子どもの健やかな成長に欠かせない自然体験が育む「自己肯定感」とは?
壁にぶつかってもへこたれず、人生を自分らしく前向きに歩むために必要とされる「自己肯定感」。具体的にはどのような感覚や状態のことを指し、どのように養うものなのだろうか。今回は、16万人の脳のMRI画像を解析・研究してきた脳医学者である東北大学加齢医学研究所 教授の瀧靖之氏と、全国28の教育拠点を持つ国立青少年教育振興機構で理事長を務め、体験活動を通した青少年の自立を目指す鈴木みゆき氏の対談から、現代に欠かせない人間形成を考察。教育を広く知るエキスパートのお二人の観点から、子どもの自己肯定感を養うためのヒントを探った。

「自己肯定感」こそ、困難を乗り越える原動力

――最初に、そもそも「自己肯定感とは何か」について教えていただけますか?

鈴木みゆき(以下、鈴木):自己肯定感は、「自分は自分でいいんだ」という感覚に近いと思います。例えば、子どもが何かにチャレンジしたい気持ちが芽生えたとき、その行動の土台を支えるのが自己肯定感です。一歩踏み出すためには、まず自分の存在に自信を持てるかどうかが重要になります。

瀧靖之(以下、瀧):私も同じ考えです。自分自身を大切に感じ、自分の存在意義を認められる感覚が自己肯定感です。その感覚を持てるからこそ、他人のことも大切にできる。つまり、人間関係を築くための基礎となる感覚とも言えます。

国立青少年教育振興機構 理事長 鈴木みゆき

――具体的にどのような場面で効力を発揮するものなのでしょうか。

:例えば、対人関係で嫌な思いをしたり、自分の思いどおりにならないことがあったりしても、自暴自棄にならずに乗り越えられるといったことでしょうか。

鈴木:いつも意識している感覚というよりは、困難を抱えたり将来に悩んだりしたときに、自己肯定感が生きるのだろうと思います。

:おっしゃるとおりで、普段の生活では、自己肯定感の有無を実感していない人が多いかもしれません。そのため、自己肯定感の本領が発揮されるのは、受験や就職など人生の試練にぶつかったとき、その状況を淡々と受け入れ、乗り越えることができるかどうかの場面だと思います。

東北大学加齢医学研究所 教授 瀧靖之

自然体験が子どもの自己肯定感を高める

――子どもが自己肯定感を身に付けるうえで、親の教育や価値観が影響することはあるのでしょうか?

鈴木:私は、比較しないことが大切だと思っています。よく育児期の保護者に、「比較三原則」という言葉を伝えています。これは何かというと、「育児書と比べない・兄弟と比べない・よその子と比べない」ということなんです。

:「比較三原則」ってとてもいい言葉ですね。日本はよくも悪くも、規律と価値観が画一的なので、大人も出る杭にならないように一生懸命。そうした文化的背景が影響を及ぼし、子どもの個性を認めることを難しくしているのだと思います。

「育児書と比べない・兄弟と比べない・よその子と比べない」

ちなみに個人的な調査ではありますが、自己肯定感が低いと自覚している人の特徴としては、自分と他人を比べがちであること、それも学歴・住まい・仕事など、比較項目が多岐にわたることがわかっています。逆に言うと自己肯定感が高い人は、誰かと比較せず、いい意味で自然とオンリーワンの道を歩めているのだと思います。

――では、自己肯定感を養うために、プラスになる親の働きかけはありますか?

鈴木:親は教師にならず、環境を用意するだけにとどめることです。無理強いせず、子どもが主体的に動き出すのを見守る。必要な情報や技術を具体的に教える「ティーチング」ではなく、自発的行動を促進する「コーチング」の姿勢を意識することが重要だと考えています。

:私も同じ意見です。親にとって、「教えない」というのは究極の忍耐ですが(笑)、子どもの興味にブレーキをかけず、関心のある方向に知的好奇心を伸ばしてあげることが大事。知れば、勝手に走り出すのが子どもです。「楽しいからやる」という自発的なサイクルが生まれれば、それは勉強や将来の仕事にもつながっていきます。

鈴木:知的好奇心を伸ばすという観点から言うと、自然は好奇心を刺激する要素をたくさん持っています。例えば、磯遊びで岩の隙間に小さな魚を見つけると、どんな子どもでも本能的に獲ろうとしますよね。でも、魚は生命の危機なので利口な動きに転じ、なかなか獲れない。「じゃあ、どうすればいいだろう」と、子どもも知恵を出そうとするわけです。

子どもの興味にブレーキをかけず、関心のある方向に知的好奇心を伸ばす

:確かに、自己肯定感を養う方法として、自然を体験させることは間違いなく有効でしょう。植物や昆虫、魚が子どもたちの知的好奇心を刺激してくれますし、感動体験を得やすい。子どもが魚好きなら、海や川に連れて行けばいいし、昆虫好きなら山に連れて行けばいい。どこかで子どもの琴線に触れるものがあるはずです。

鈴木:近くの公園に、子どもと一緒に散歩に行くだけでもいいと思います。大事なのはハードルを下げて、最初の一歩を踏み出すこと。そうして得た発見が、子どもの好奇心を大きく伸ばし、オンリーワンの道へ進むきっかけになるのではないでしょうか。

釣りはバーチャルとリアルを結び付ける希有な自然体験

――最近はテレビゲームやAI・VRなどのバーチャルな体験も増えていますよね

鈴木:自然体験には、バーチャルなゲームにない気づきや発見がたくさんあると考えています。例えば、葉っぱに触れると、同じ種類でも厚さや重み、肌触りなどが一枚一枚異なることがわかります。カブトムシだって、一匹として同じものはいません。じかに触れて感じることは、「(このカブトムシも自分も)生きている」という実感を得ることにもつながります。

また自然は、攻略本のあるゲームと異なり、自分の思ったとおりにはいきません。整えられていない山道では転んだりもするし、葉っぱで手を切ってしまうこともあるでしょう。天気ひとつとっても、急に雨が降ってきたりします。でも子どもはそうした経験を通じ、物事をあるがままに受け止め、対処する力を身に付けていきます。

自然体験を通じて、物事をあるがままに受け止め、対処する力が身に付く

:おっしゃるとおり、自然体験は子どもの非認知能力、つまり困難があってもへこたれない力や、物事をやり遂げる力も養ってくれます。例えば釣りに出かけても、魚は簡単には釣れませんから、じっと辛抱する必要がある。仕掛けを変えようか、場所を変えようか、いろいろと自分で考えることも求められます。しかしだからこそ、釣れたときの達成感はゲームとは比較にならないはずです。

鈴木:釣りでいうと、私が子どもの頃、母が釣り好きだったので、下町の公園によくフナを釣りに出かけていました。そこで、待つことの大切さや、生き物に対する感動などを得ました。ゲームとは違ってリアルの世界はリセットできません。釣ったフナを雑に扱えば、命を落とし生き返ることはないわけです。幼少期に体験した釣りを通して、命の大切さを学べたと思います。

:釣りはバーチャルとリアルを結び付ける、希有な自然体験でもあると思います。例えば、事前に図鑑で魚について学んでいた子どもが、海に行って実際に釣り上げることができたら感動しますよね。事前に知識としてインプットされていたことを実際に体験できると、学ぶ楽しさを味わえますし、好奇心の幅が格段に広がります。

――子どもだけでなく、親も一緒に自然体験をするメリットをお聞かせください

鈴木:自然の中では、子どもがそれまで見たことのない親の新しい一面を知ったりするんです。道に迷って戸惑う姿とか、きれいな石を見つけ出して喜ぶ姿とか。親子間の新しい関係が発見できるのが、いいところだと思います。

:そうして親自身が思いっきり楽しむことは、子どもの自己肯定感を育てるために必要な要素でもあります。というのも、子どもの最大の模倣対象は親なんです。親が自然に興味を持って楽しそうに過ごしていれば、子どもは勝手にその姿を模倣します。まずは自分自身がワクワクして、自然を楽しむことから始めてみていただきたいですね。自分自身の思いどおりにならない自然を相手に考え、工夫することが非常に大切なのです。

(撮影:国立オリンピック記念青少年総合センター)
子どもが自然体験を楽しむうえでお勧めしたいのが、グローブライドが運営するダイワヤングフィッシングクラブ(D.Y.F.C)だ。1976年の発足から40余年の歴史を持ち、「地球を感じ、いのちと出会い、のびのび育つ。」を合言葉に、釣りを通じて自然の豊かさやいのちの大切さを学ぶ機会を提供している。
実際のスクールでは、釣りに精通したグローブライド社員がコーチとして参加。 子どもの学年やキャリアに応じた5〜6人ずつの少人数制の指導で、年間を通して北海道から九州まで、全国約30数カ所の釣り場を巡っている。
自然との触れ合いを通じ、釣りのスキルアップだけでなく、「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く。」ことの大切さを掲げているのが魅力だ。大人も参加できれば楽しいとの要望に応え、一部のスクールでは大人も参加できる場を提供している。「安全と安心のために」を大切に考えるフィッシングスクールで、気軽に、そして何よりも楽しく、奥深い釣りの世界を体感してみてはいかがだろうか。
※2020年は新型コロナウイルスの影響によりスクール開催は休止中
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