コウケンテツに聞く「釣りと子育ての深い関係」 子どもの脳を育てる「釣りと料理の共通点」

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料理研究家コウケンテツさん(左)と脳医学者の瀧靖之教授(右)が語った「親も無理せず」の真意とは?
人間の脳は、幼児期から思春期にかけて急速に発達する。この大事な時期に、子どもの脳によい刺激を与えたいと思うのが親心というものだが、子どもにどう接し、どのような体験を積ませるのが効果的なのか。16万人の脳画像を解析・研究してきた脳医学者の瀧靖之教授と、3児の父で子ども向けの料理教室などを開催する料理研究家のコウケンテツさんに聞いた。

「料理」と「釣り」は育脳の要素にあふれている

――子どもの脳の発育に大切なことは、何でしょうか?

東北大学加齢医学研究所 教授
瀧 靖之氏

瀧靖之(以下、瀧):脳は体を動かすこと、考えること、好奇心を持つことなど、 さまざまな刺激で成長します。最近、自己肯定感や協調性の土台となる「非認知能力」の育成が注目されていますね。「非認知能力」を高めるには、目標を設定し達成に向け計画を立てることが有効とされますが、料理中にはどのような思考力を使うのでしょうか?

コウケンテツ(以下、コウ):複数の作業を同時に進めるので、マルチタスクが必要です。作る前からすでに、予算や制限時間に収まるように献立を考え、重複しないよう材料を調達するため頭がフル回転します。数学的な思考も求められますね。

:料理には、材料の切り方やゆで方などにルールが存在するので「実行機能」も強まりそうですね。「実行機能」とは、ルールに従って思考・感情・行動を調整する脳の働きで、「ごっこ遊び」などでも育まれます。この力が鍛えられると、物事をやり抜く力が備わり、目標に向けた努力ができるようになるのです。

ほかにも、知的好奇心やクリエーティビティーといった学力につながる能力が育まれます。幼少期の会話量はその後の学力に比例しますから、親子でコミュニケーションを取りながら料理ができたら最高です。料理はまさに育脳に向いています。

料理研究家 
コウ ケンテツ氏

コウ:子どもたちを見ていると、「これを作った」という満足感や達成感が成長につながっている気がします。保育園や小学校で行っている料理教室では、イベントの前後で子どもの顔つきがまったく違うんです。料理を通して自信がつくのでしょうか。子ども同士で励まし合うなどの協調性にも驚かされますね。

:決められたことをこなすのではなく、「自ら考えて計画し、実行し、やり遂げる」というプロセスで目標を達成すると、強い自信が生まれます。私はアウトドアが好きで、とくに釣りはよく行きますが、料理も釣りも思いどおりにはなりませんよね。大抵予期せぬことが起きて、そこにこそ多くの発見があるのです。

コウ:僕は世界中で釣りや漁を体験してきましたが、とても奥深いんですよ。魚の習性や地域によってまったく方法が違うので、大人ながらにワクワクしました。とくに、「アユの友釣り」は興味深かったです。アユは縄張り意識が強いという習性を利用し、おとりのアユに攻撃してきたところを釣るのですが、アユにそんな特性があるなんて初耳でした。釣りも料理と同じで、習性や特徴に合わせた段取りが大切なのだと身に染みましたね。

ちなみに僕は、用意してもらったおとりのアユを半分逃してしまい、えらく怒られました(笑)。

実体験で学んだ「命の尊さ」が自己肯定感を育む

「料理中、つい研究者の頭で『これを変えると何が変わるのだろう』と考えてしまいます」

――奥深い物事に触れることが、好奇心の高まりにつながっていくのですね。

:そうですね。釣りも料理も、目的の達成までには数学でいう「変数」が多いです。魚を釣る方法も野菜を温める方法も何通りもありますが、その一つひとつに意味があるのです。実際に体験すれば、自然とその方法が最適な理由を考えるようになります。そのため、奥深い世界を体験すればするほど、知的好奇心も生まれやすくなるのです。これは読書だけではかなわない部分かもしれません。

コウ:確かにそう思います。僕の母も料理家で、子どもの頃から料理は身近でしたが、僕は当時卵にものすごく興味を持っていました。卵って、割ると殻と黄身と白身に分かれて、混ぜると黄色になって、火を入れると固まって、形がどんどん変わるじゃないですか。なんでこんなに変わるんだろう?と疑問に感じて、事あるごとに母に尋ねたのを覚えています。

「どんどん形を変える卵が大好きで、よく母に質問していました」

:コウさんがテレビ番組などで世界各国を巡り、いろいろな文化や慣習に興味を持てるのも、こうした原体験があってこそかもしれませんね。

コウ:実体験の大切さについては、釣りも料理も「命の尊さ」を感じるきっかけでもあると感じます。わが家は、子どもたちと釣り堀に出かけ、釣った魚をその場でさばいて食べることがあります。釣りから料理までのプロセスを通し、まさに命と命のつながりを体感できるんですよね。最初は子どもたちも、魚の命を奪うことに抵抗があったようですが、「かわいそうだけどおいしい」と感じてから少し変わりましたね。「しっかり片付けて、最後まで食べないと駄目だね」と言ったのが印象的でした。命に対する責任感を学んだのかなと。

:それは「非認知能力」を育てるヒントとなるエピソードですね。自分以外の命を大切に思うことは、自分の命を大切にする感覚、つまり自己肯定感を養ううえで欠かせません。釣った魚を食べるなどの経験をすることで、身をもって命の尊さを知り、命を大切にする重要性を理解します。大人からただ「命は大事」と教えられるよりも、心を揺さぶられる経験をしたほうが、深い理解につながりますよね。

「自分を大切にできてこそ、相手のことも大切にできるんですね」

コウ:とくにわが家の長男は自己肯定感がとても高いのですが、言われてみれば、自然や命を大切に思う気持ちも人一倍強い気がします。あるとき街路樹のイルミネーションを見て、「こんなことしたら木が熱くてかわいそう」と言い出したんです。この子はそういう感性を持ってくれていたのかと感動しました。教科書だけではなかなか養えない着眼点です。

子の「小さな成功」を褒め、感謝を伝える

――では、釣りや料理などの体験を「成功体験」にするために、親はどう関わればいいのでしょうか?

「私たちが楽しく取り組めば、子どもも楽しくやるようになります」

:第1に「楽しい」と思わせることが重要です。これで成功体験として記憶に残りやすくなります。実は、感情と記憶は密接に関係しています。人間の感情をコントロールする脳の器官「扁桃体(へんとうたい)」と、記憶に関わる器官「海馬」が隣同士にあるためです。「楽しい」という「快の感情」を高めれば高めるほど記憶力は上がり、逆に、いやいや行ったことは快の感情を伴わないので、記憶に定着しにくいのです。

もう1つ、とても大事なことは、「親が楽しむ」ということです。子どもは親の模倣を通して自分の感情に気がつきます。親が楽しそうにしていないことは、子どもも楽しいと感じられないのです。

コウ:今の話を聞いて、思い出したことがあります。僕の料理教室は、いつも楽しい雰囲気で進めるのですが、あるとき「食育に力を入れているので、子どもたちにしっかり指導してほしい」と依頼を受け、少し厳しめのトーンで教えてしまったんです。結果、子どもたちが萎縮してしまい、いつもなら1回で覚えられることを、何度教えても覚えてもらえませんでしたね。親が楽しみながら体験することの大切さは、とてもよく理解できます。

また、子どもが料理したときは、完成形を褒めるだけではなく、完成までのプロセスも褒めています。例えばハンバーグなら、形作りで失敗してしまったとしても、「タマネギをみじん切りにできてすごいね」とか、「しっかり混ぜたから味はちゃんとおいしいんだよ」というように、スモールステップを褒めます。

「子どもにも得意不得意があり、それぞれ役割があります。特性を見極め、あまり押し付けないことも大事です」

:それはすばらしいですね。脳科学的にも、人間は努力を褒められることで「努力は成功につながる」と学び、成長に前向きになることが明らかになっています。一方、結果だけを褒められるとそこで充足感を得てしまい「いつでもこの力が出せる」と勘違いし、成長意欲が減退するのです。
とはいえ、極端に高いハードルを置いてしまうと、挫折体験になってしまうので注意が必要です。難しいことは要求せずに温かい目で小さな成功を見届け、しっかり褒めてあげてほしいです。

コウ:なるほど。そのためには、親も頑張りすぎないことも大事ですね。親が手いっぱいなときは無理に料理をしなくてもいいんです。「教育しなければ」と思うのではなく、例えば子どもが料理を手伝ってくれたら、素直に「手伝ってくれて助かったよ」と伝えてもよいかもしれません。これも僕の経験ですが、子どもたちは「人の役に立てた」という感覚があると、「次もやろう」と思ってくれるようです。

:研究では、利他的な行動は「自分自身が幸せだと思うこと」つまり「主観的幸福度」を高めるといわれており、脳の健康に寄与することがわかっています。ご自身の経験や気づきを踏まえて、育脳にいいことを実践されていますね。親も子どももまずは楽しみ、完璧でなくても自分を大事に思えるようになることが大切です。

「得意不得意があるのは親も同じ。いろいろなものを利用して休みつつ、親が楽しめる状態をキープすることが、実は子どもにとっても望ましいのです」

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志から、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。

withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。

40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。

「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。

世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。