尾木ママ語る「AIが補えない非認知能力」の価値 自然体験が「知的好奇心」育み、地頭を鍛える

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教育評論家の尾木直樹氏と、脳医学者の瀧靖之氏
AIの社会実装が加速する昨今、人間の役割を代替する技術の発展も著しい。社会の不透明性が高まる中、わが子の未来を不安視する人は少なくないだろう。この困難な時代を生きる子どもには、どのような能力が求められるのか。尾木ママこと教育評論家の尾木直樹氏と、脳医学者の瀧靖之氏が語り合った。

21世紀の子どもに必要な「生き延びる力」とは

――これからの時代、子どもが力強く生きていくためにどのような能力が必要だとお考えでしょうか?

教育評論家 法政大学名誉教授  臨床教育研究所「虹」主宰 尾木 直樹氏
教育評論家
法政大学名誉教授 
臨床教育研究所「虹」主宰
尾木 直樹氏

尾木 直樹(以下、尾木ママ) 2018年にOECD(経済協力開発機構)は21世紀型スキルとして必要な力を「生き延びる力」と定義し、具体的に3つの力に整理・構成しています。1つ目は、「新しい価値を創出する力」。これは一人で考えて捻り出すのではなくて、みんなで議論していろんなつながりの中から生み出す力ね。2つ目は、「緊張とジレンマの調整力」。自然環境の破壊だとか、国や人種のぶつかり合いや戦争とか、色んな対立がある中で、これを暴力などで解決するのでなくて、バランスを取って調整する力。3つ目は、「自己を客観視する力(責任を取る力)」です。

これは見事にこれから進むべき教育の方向と本質を突いていると思います。AIが社会に浸透するスピードも速く、人間の仕事を奪うのではないかと危惧される中で、人間ならではの能力である「生き延びる力」がますます重要になっているということですね。

医学博士・医師 東北大学加齢医学研究所 教授 CogSmart代表取締役 瀧 靖之氏
医学博士・医師
東北大学加齢医学研究所 教授
CogSmart代表取締役
瀧 靖之氏

瀧 靖之(以下、瀧先生) 私は頭部のMRI画像をAIで解析するソフトウェアの開発を手がけていることもあり、まさにAIの台頭を実感する日々です。この潮流は変わらないはずなので、これからは「AIをどう活用すれば、新しい価値を生み出せるのだろう」といった観点を持つことが重要でしょう。それを考える原動力は「知的好奇心」です。先進的なAI技術に興味を持ち、不思議さや面白さを見いだし、「もっと知りたい。活用したい」という気持ちを持つことが重要だと考えます。

また、知的好奇心を伸ばすためには、自己肯定感も大切な要素です。努力によってさまざまな能力を獲得し、その能力を基に新たな挑戦をすることで、「自分が頑張れば何かを変えられる」という自己肯定感を高めることにつながります。

尾木ママ 自己肯定感を高めるうえでは、子どもの自己決定を「認める、尊重する」ということも大事ですよね。例えば保育園に行く子が、雨の日なのに、買ったばかりの新品の靴を履いて行きたいといったら、お母さんは長靴にしなさいと言いたくなる。でもそんな時でも、自分で決めさせるということを大事にしてほしいんです。新品の靴を履いて、雨が降って、びしょびしょ泥まみれになって失敗した時でも、自分が決めたことなら人のせいにはできませんからね。逆に自分が決めたことで成功すれば、自分に対する肯定感情や自信がついてきます。こうした自己決定の経験を積み重ねることがすごく重要だと思います。

子との触れ合いで親の脳も変わる不思議

――子どもの自己肯定感は、身近な大人から揺るぎない愛情を注がれることで育まれるといわれています。それはなぜでしょうか?

瀧先生 人間の脳は、感覚に関わる部分が早期に発達します。その時期にたくさん抱きしめて、目を見て語りかけることで、脳の発達の基盤が出来上がるわけです。これがいわゆる「愛着形成」に当たります。温かく迎え入れてくれる安全基地があるから挑戦できるし、自信を持って自己決定できる。愛着形成は自己肯定感を育むうえで、重要な要素だと言えます。尾木ママさんは育児にどう向き合っていましたか?

尾木ママ 僕は母乳以外の育児はほとんど担当していたのですが、いや、授乳もね、ミルクだったら哺乳瓶の消毒からやっていたこともありますよ。その経験があるせいか、今も赤ちゃんの泣き声や、子どもが騒いでいる声が大好きなんですね。お父さんも、赤ちゃんと一緒になって起きたり、お世話を焼いたり、抱きしめたりしていると、脳にもよい影響があるんですってね。

教育評論家の尾木直樹氏と、脳医学者の瀧靖之氏
(瀧先生)母乳以外の育児をほとんど担当されていたとは、さすが尾木ママさんですね

瀧先生 おっしゃるとおり、育児に関わることで子どもだけではなく、親の脳も変わります。赤ちゃんとのスキンシップで分泌される「愛情をつかさどるホルモン(オキシトシン)」は、母親に特有の出産や授乳だけではなく、父親が抱きしめることでも分泌されるんですね。またオキシトシンは抱きしめてもらった人だけではなく、抱きしめてあげた人の脳にも流れると言われていますから、男女関係なく子どもとのスキンシップで愛情が深まるはずです。

私の場合は、子どもが生まれた直後からかわいくて仕方なかったのですが、やはり赤ちゃんというのは、どこかよくわからない生き物なんですよね。ところが、積極的に関わることで、ちょっとした成長や変化をいとおしく思えるようになりました。そのときの幸福感は言葉では言い表せません。よく「父親は時間をかけて父親になる」といわれますが、こういうことなのかと実感しました。

尾木ママ 現代は、退職してから30〜40年位生きますからね。その時に子どもたちが可愛いなと思えたり、子育てのお手伝いをしようかなと思える人生は最高だと思うの。特に子どもが小さい時期は、基本的信頼感の形成という観点で、「自分を守ってくれる絶対的存在がこの地球上にいる」ことを知らせるのがすごく重要。男性も育休を取ったりするのは、パートナーのためや子どものためだけじゃなくて、「自分の人生を豊かにするためにこそ大事なんだぞ」ということを僕は叫びたいですね(笑)。

教育評論家の尾木直樹氏と、脳医学者の瀧靖之氏

予定調和ではいかない「自然体験」の面白さとは

――尾木さんは、著書『尾木ママ流自然教育論』(山と渓谷社)で、乳幼児期の段階から「五感をフルに使ったプリミティブ(原始的)な体験をすること」の重要性を説かれています。

尾木ママ 原始的な体験というのは、一般的には、「火」「水」「木」「草」「石」「暗闇(ゼロ)」「動物」の7つがよく挙げられます。例えば「木」の体験というのは、大きな木に抱きついて「ゴーッ」と音が聞こえていたり、倒木から芽が出ているヒコバエを見て自然界の生命の連鎖を感じたり。「土」は形が自由になりますから、泥んこ遊びでお団子やお城を作ったり。自分で造形できることは子どもたちの喜びや達成感につながります。「何か特別な早期教育を…!」と焦る前に、まずはこうした原体験で地頭を鍛えることが大事だと思います。

瀧先生 自然体験は、考えたり判断したり記憶するような認知機能、知的好奇心や自己肯定感や新しいものを生み出す非認知能力、さらにはメンタルヘルスなど、さまざまな脳の領域によい影響をもたらすとされています。自然の中を歩いていると、普段は使わないさまざまな五感が刺激されるんですね。川のせせらぎや鳥のさえずりを聞いたり、綺麗な蝶や昆虫を見たり、そうして五感を駆使することで、考えたり、判断したり、記憶する等の、いわゆる高次認知機能がより働きやすくなると言われています。

尾木ママ 同感です。中学校の教員をしていた頃、修学旅行で東北地方の農家さんにお世話になり、生徒たちに田植えを体験してもらったのね。最初は文句を言っていた生徒も、しだいにはしゃぎ始めて、いつの間にか夢中になっていたんです。自然界は蛇が出たり、気を抜くとジャリ道で転んだり。予定調和ではないからこそ、五感をフル活動させて反応しなくてはいけません。でも、それこそが熱中につながる面白さですよね。

教育評論家の尾木直樹氏と、脳医学者の瀧靖之氏
(尾木ママ)えっ、瀧先生、旭川出身なの?!あそこのパウダースノーは世界一よ(笑)

――お二人とも、幼少期は自然が身近だったそうですね。

瀧先生 私は北海道の旭川で育ち、幼少期から冬はスキー、夏は蝶とりと魚釣りに親しみました。自然体験は、大人になってからも続けていて、4月下旬ぐらいから北海道ではヒメギフチョウという蝶が出てきますが、それを見に行くのが本当に楽しみです(笑)。私の場合、自然体験は勉強を面白がることにも生きましたし、今も研究者や経営者など幅広い領域に興味を持ち、楽しみながら取り組むことにつながっていると思います。

また、美しい自然は審美眼も磨いてくれます。自然の原体験で美しさに感動していると、数学の数式の美しさや、ボランティアなど行動としての道徳的な美しさにも、同じように脳の「美しい」と感じる領域が働くようになります。

尾木ママ 僕も父親の影響でスキーが大好き。気象予報官として冬山の観測所で過ごすことが多かった父からスキーの技術を学びました。今も滑りたくてうずうずするわ(笑)。

あと釣りも大好きで、小学校高学年から中学3年間、夏休みはほぼ毎日、近所のため池で釣りをしていました。僕は滋賀県米原市の伊吹山のふもとの出身ですが、鮒とか鯉とか、それからモロコという滋賀県特有の魚がよく釣れて。釣りは法則性があるから、それを研究したりコツをつかめたりしたときは楽しいですね。僕は子どもを連れてよくキャンプや山登りもしましたけど、実はあまり自然体験の教育効果まで考えていなかったのね。自分が好きだから連れて行っていただけ(笑)。

瀧先生 むしろそれはすばらしいですね。親が楽しんでいることこそが、いちばん子どもにいい影響を与えるんです。人間は模倣する生き物なので、楽しんでいる親を見て自分も楽しいと思えます。親も一緒になって自然を楽しむことで、よりよい自然体験につながります。育児も自然体験も、親自身が楽しむことを大切にしてほしいですね。

教育評論家の尾木直樹氏と、脳医学者の瀧靖之氏

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から、創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志の下、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。

withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。

40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。

「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。

世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。