心の奥底に眠る「好奇心」少しずつ掘り起こすには 「子の自己肯定感」を育む過程に大人へのヒント

自己肯定感は「挑戦」と「愛着」で育つ
――お二人は自己肯定感をどのように定義されていますか?
あべ ようこ氏(以下、あべ)自己肯定感は、例えば小さい赤ちゃんであれば「泣いたら誰かが来てお世話してくれた」など、自分が行動を起こすことで周りから反応を得る経験を通じて、「自分はできる存在だ」「生まれてきた世界はいい所だ」と感じるところから始まります。
私が専門としているモンテッソーリ教育では、これらを“自分を支える2本足”ともいい、自己だけでなく周りへの信頼感や肯定感もセットで育まれるものと考えています。

大学時代、ポンキッキーズの歌のおねえさんとして活動。その後20年以上にわたり、モンテッソーリ教育の現場に携わる。2022年6月、東京都世田谷区に「モンテッソーリ・ファーム」を設立、オープン。2026年4月、あきる野にモンテッソーリ小学校(フリースクール形態)の「あきる野モンテッソーリスクール」をオープン予定。小学校は公園に隣接し、近隣には自然体験施設もある環境
瀧 靖之氏(以下、瀧)脳科学や心理学においても、自己肯定感は「自己効力感」と「自尊感情」の2つから成るとされています。
自己効力感は、例えば「逆上がりの練習を一生懸命したらできるようになった」とか、「算数の勉強を頑張ったらテストでいい点が取れた」など、「自分が頑張ることで何かを変えられる」という実感です。一方、自尊感情は「自分自身を大切に思える気持ち」で、これは幼少期であれば周囲の大人との愛着形成がその基盤となります。
自己肯定感こそ、困難なことが多い人生をドライブしていくエンジンになると考えています。

東北大学加齢医学研究所および東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIはこれまでに約16万人に上る。2019年に東北⼤学発の医療テクノロジー系スタートアップ企業CogSmartを創業
――自己肯定感を育むうえでは、親など周りの人の態度も重要になりますね。
あべ 親の態度ももちろん大事なのですが、新たな目標設定や挑戦をして、「できた」という満足感や達成感があると、誰かが見ていなくても、褒められなくても、自分で自分を認めることができるようになります。

私は普段、子どもたちが描いた絵を見せに来てくれたときなどに、つい「すごい」「上手」と言ってしまいたくなるのですが、モンテッソーリのクラスでは、「できたね」「どんなところを工夫したの?」「見せてくれてありがとう」と態度で称賛を表し、事実を肯定するにとどめています。
瀧 褒めたり叱ったりというのも、その時々の子どもの状況や文脈に合わせてこそ意味がありますよね。私がつねに意識するのは、「結果を褒めるのではなく努力の過程を見て褒める」こと。結果は観察なしでも褒められますが、プロセスは観察していないと褒められません。
――そのほかに、自己肯定感を高めるうえで大切なことについてどのようにお考えでしょうか。
瀧 熱中体験は、自己肯定感を育むうえで重要であると考えています。例えば図鑑に熱中できれば、スポーツ、ピアノ、勉強とどんどん熱中対象が広がっていき、ひいては人間関係や人生に熱中できるようになります。

あべ 自分で選んだことに熱中した後の達成感はすばらしいですよね。モンテッソーリでは幼児期はとくに手を使って学び取ることを重視していて、例えばボール遊びやお掃除など、頭の中だけでなく体の動きも連動させると、よりいっそう子どもたちが熱中していくように感じます。
瀧 子どもが何かに熱中しているときは、干渉しないようにすることも大事です。私は自分の息子が感情を出したときに、それを押さえつけないようにというのも意識していました。受験期などはどうしても口出ししたくなってしまうものですが(笑)。
あべ 私も子どもが小さいときから、手を使って何かしているときは極力関わらないようにしていました。娘が1歳4カ月くらいで自分の爪を切りたがったときに、とても不安でしたが、小さな爪切りを用意し、やり方を見せ、見守ったらできたんですね。大人が思っている以上に子どもはできる。今では私よりも手先が器用な子に育ちました。

親の好奇心が、子の可能性を開く
瀧 私自身が好きなことを徹底してやって、その姿を見せることも意識しています。「いかにピアノや昆虫採集、勉強が楽しいか」が伝わったらうれしいなと。本質的には子どもがやりたいことを見つけてあげることが重要ですが、そのきっかけは親でもよいと思います。
究極的には、世界の広がり、奥深さ、面白さを通じて、「人生ってすごく楽しい」ということを伝えたいんです。

あべ 激しく同意します(笑)。大人が種まきをすること、大人が世界の面白さを伝えることはとても大事で、大人が伝えなかったら子どもが出合えないことはたくさんあります。

とくに児童期は子どもが自分の頭の中だけで物事を考えられるようになり、文化を獲得していく時期です。私は、算数が好きな子には、ピタゴラスがどういう数学者でどれだけの変人だったかを話したり、子どもが埴輪(はにわ)に興味を持っていたら、博物館に見に行ったりしています(笑)。
そうすると、大人自身の興味も少しずつ広がっていきます。これまで興味がなかったことでも子どもと一緒に体験・経験してみることで、「世界を愛する大人が世界を愛する子どもを育む」ことに近づくんじゃないかと思います。
――「世界の面白さを伝えるのは、私には難しい」と感じる親御さんも多そうです。
瀧 仕事や子育てに追われていると、親は自分の好きなことをつい忘れてしまいがちです。しかし、知的好奇心は誰もが本能としてもともと備えています。なぜなら、私たち人間は、太古から生きるために食料を探し求める「食料探索行動」をしてきたからだといわれています。

大切なのは、その心の奥底に眠る好奇心を少しずつ掘り起こし、思い出していくこと。子どもの頃や学生時代、自分が何にワクワクしていたか、どんなときに心が躍ったかを思い出してみてください。自分の「好き」や「楽しい」を再発見することで、好奇心が伸びていることに気づくはずです。
あべ 好奇心はどういう形で満たすかも重要ですよね。大人のリラックスの手段の1つとして、スマホやゲームを否定はしませんが、この世界をまだ知らない子どもたちが、本当の世界を探索する前にゲームの世界を探索するのは少しもったいないと感じます。
ダンジョンマップに夢中になるのもいいけれど、現実世界のほうがずっと広いよと(笑)。かけがえのない児童期に本当の世界を探索できるように導けたらよいですよね。
非日常の自然体験が「学び」を広げる
瀧 おっしゃるとおり、ゲームの世界は人が作った有限の世界です。一方で自然は、天気も季節も出合う動植物も、行くたびに異なる、多様性の宝庫。奥深さが半端ではなく、そこに入ることほど子どもの知的好奇心を伸ばすことはないと思います。
私自身が子どもの頃に、天体望遠鏡で土星の輪を見たこと、珍しいチョウを捕まえたこと、スキーで深雪の中を雲の上を走るように滑ったことなど、スーパー非日常体験と言うのでしょうか、言葉では言い表せないほどの感動・自己超越的な体験は今でも覚えています。

あべ 自然は五感を使う最高の場所ですよね。子どもたちは自然に近い生き物ですから、学びの中に自然があってしかるべきだと思います。
小学生になると理科の中で植物や動物についても学びますが、そうした知識も、実際のフィールドで体感することで学びの振れ幅が変わってきます。例えば釣り1つとっても、実際の海や川などで体験したほうが、ダイナミックで面白い。
瀧 自然体験が自己肯定感を高めるといわれるゆえんは、学びの量、熱中できる対象の多さにあるのだと思います。とくに魚や昆虫などの生き物と相対することは、命の重みや尊さを感じることにつながります。
子どものために何ができるか、つねに悩んでいる親御さんは多いと思いますが、近くの小さな公園でも構いません、ぜひ自然の中に身を置いてみてください。親はわかることも経験してきたことも知識も限られていて当然です。自然から受け取る新たな刺激を、子どもと一緒に楽しむだけでも十分です。
私はいつも、子どもが何かに熱中するには理由がある、だからその理由を知りたいという気持ちで過ごしています。

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から、創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志の下、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。
withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。
40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。
「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。
世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。