成長し続ける人とそうでない人の差はどこにある? 元競泳日本代表×脳医学者「自分も人も認めて」

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元競泳日本代表の「ハギトモ」こと萩原智子さんと、脳医学者の瀧靖之氏
仕事のパフォーマンスや人生の満足度を上げるうえで、重要な要素の1つとされる自己肯定感。子どもが自己肯定感を基盤にポジティブなマインドセットを維持するために、親にはどのような意識が必要なのか。元競泳日本代表の「ハギトモ」こと萩原智子さんと、脳医学者の瀧靖之氏が語り合った。

小2の夏、海に溺れたときの親の一言が、人生の転機に

萩原 智子(以下、萩原) もともと私は、まったく泳げませんでした。転機になったのは小学校2年生の夏。父と一緒にゴムボートで海に出た際、その美しさに感動して思わず飛び込んで、溺れかけてしまいました。でも、父はなぜか笑顔。しばらくして助けてくれたんですが、「なんですぐに助けてくれなかったの」と問い詰めると、「一生懸命泳ごうとしている姿がうれしかったから」と言ったんです。

父の本当の意図は不明ですが、父は大学時代にボート部員だったので、水に対する理解があり、助ける準備ができていたのかもしれません。または困難に立ち向かう大切さを知っていたのかも。その出来事が私の中で大きな転機となり、「泳げるようになって父を驚かせたい」という気持ちが芽生えたんです。その後、すぐ両親に「スイミングスクールに通いたい」とお願いしました。

日本知的障害者水泳連盟副会長・スポーツアドバイザー 萩原智子氏
日本知的障害者水泳連盟副会長・スポーツアドバイザー 萩原智子氏

瀧 靖之氏(以下、瀧) お父様の対応がすばらしいですね。幼少期に見聞きした「大人のとっさの反応や一言」は、その後の人生を大きく左右します。もしお父様が焦ったり、怒ったりしていたら、萩原さんの脳裏に「泳ぐのは怖い」と焼き付いたかもしれません。

子どもは周りの人を模倣して能力を身につけるので、最も身近な存在である親の影響を強く受けます。性格や能力は遺伝の要因もありますが、環境も非常に重要です。遺伝は変えられませんが、周囲の影響で意識は変わります。親が大きな心で構え、見守り、時には自らが楽しんで実践する姿勢を見せるだけでも、子どもの意識が大きく変わります。

医師・医学博士・東北大学加齢医学研究所 教授・CogSmart代表取締役 瀧靖之氏
医師・医学博士・東北大学加齢医学研究所 教授・CogSmart代表取締役 瀧靖之氏

コーチのある言葉で、自分の原点に立ち返った

――小学校から水泳を続けて、競泳日本代表にも選出されました。さまざまなプレッシャーがあったと思いますが、どのように乗り越えたのでしょうか?

萩原 私は日本代表に選ばれるようになってから、いつしか周囲の期待やプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。「活躍したい」という気持ちが、次第に「活躍しなければならない」という義務感に変わり、その結果、自分の本心がわからなくなってしまったのです。このプレッシャーから解放されるために休養を決断しました。

その期間中、コーチから「いちばんやりたいことは何?」と問われて。そこでようやく、自分がもともと水泳をやりたくて始めたこと、日本代表を目指してやってきたことを再確認することができました。両親も心配だったと思いますが、何かを尋ねることも強制することもなく、安心できる家庭をつくってくれていたことに感謝しています。

日本知的障害者水泳連盟副会長・スポーツアドバイザー 萩原智子氏
子どもを一人の人間として尊重する親や支援者がいてこそ、物事を極めていく人が育つのかもしれない

 萩原さんのお話は、主体性と自己決定力の重要性を示唆していると思います。自分で考える力を養うためには、何かを決める際に「〇〇はどうしたい?」「どっちがいい?」と子どもに委ねることが大事です。「自分で決めた以上、その決定に対する責任を持つ」という考え方が自然に身につき、これが主体性の育成につながります。

――萩原さんのように、一つのことをやり抜くためには、自己肯定感が必要だと言われています。子どもの自己肯定感はどのようにして育まれるのでしょうか。

 自己肯定感を育むためには、いくつかの重要な要素があります。まず、自己肯定感の基盤は、子どもの自尊感情を高める温かい親子関係です。また、運動も自己肯定感を育む効果があるとされています。例えば、水泳で何メートル泳げるようになるという目標を設定し、トレーニングを経て目標を達成する経験は、自己肯定感を高めます。

さらに、自然体験も自己肯定感を育む重要な要素です。圧倒的な自然の美しさや壮大さに触れることで、自分の存在を肯定的に感じることができます。例えば、山に登って日の出を見る、美しい海辺を散歩する、広大な森林を探検するなどの体験は、心を癒し、自己肯定感を高める効果があります。自然の中でのさまざまな感覚刺激が、感受性や創造性を豊かにし、自己表現力や自分の価値を再認識する助けとなります。

医師・医学博士・東北大学加齢医学研究所 教授・CogSmart代表取締役 瀧靖之氏
自然の中でのさまざまな感覚刺激が、自己表現力や自分の価値を再認識する助けに

――その観点から考えると、萩原さんが実施されている、体験型の授業「水ケーション」は、自己肯定感の向上につながりそうですね。

萩原 私は海のない山梨県で育ったのですが、父母に連れて行ってもらった美しい湖や川を通じて、自分の街が「水が生まれる場所」であることを知り、自信を得ました。水泳は、水がたくさんあることを前提とした、とても贅沢なスポーツです。森(水源)での活動や水泳を通じて、当たり前にある水の貴重さや大切さを子どもたちに伝えたいと、「水ケーション」を考案しました。

 自然は、同じ場所でも時間や天気、季節によって異なる動植物と出合うことができ、その無限の組み合わせが知的好奇心を最大限に伸ばします。知的好奇心は学業成績にもつながってきますので、自己実現や将来の職業選択の幅を広げるためにも、アウトドアや自然体験は非常に有益です。とくに水は、歴史や物理などさまざまな角度から学びを深められるテーマです。その意味でも「水ケーション」はほかの教科と結びつきを深め、学びの広がりをもたらす活動だと思います。

「4位には4位の意味があった」と思える生き方をしたい

――萩原さんは、2024年7月に絵本『ペンギンゆうゆ』を刊行されました。水泳大会を目指してコーチや仲間から刺激を受けながら成長する、主人公のペンギン「ゆうゆ」の姿が生き生きと描かれた作品です。この絵本で伝えたかったことは何でしょうか?

24年7月に刊行された絵本『ペンギンゆうゆ』
24年7月に刊行された絵本『ペンギンゆうゆ』

萩原 コンプレックスで苦しんでいる子がいたら、自分を受け入れて、褒めてほしい。絵本にはそんな思いを込めています。実は、競泳生活の中で自分を認められなかった時期がありました。国際的な競技大会に日本代表として出場した際に4位だったのですが、メダルに届かなかったことがずっとコンプレックスだったんです。でも、北島康介くんに「自分を褒めてあげなよ」と言われて。素敵な言葉をもらったなと思い、そこから少しずつ自分を認められるようになりました。

メダルは取れなかったけれど、今は幸せです。だからこそ、「4位には4位の意味があった」と思える生き方をしたいと思います。

また「人を認める」姿勢も、自分を認めることと同様に大事だと感じています。印象的だったのは、息子が柔道の試合で負けてしまったときのこと。同い年の子が決勝戦で勝ったのですが、息子が誰よりも喜んでガッツポーズをしていたんです。その姿を見て、泣きそうになるほどうれしかったです。

 「人を認める」のは本当に難しいですが、成長し続ける人とそうでない人の差は、まさにそこにあると考えています。そして自分を受け入れ認められるからこそ、他人を認めることができますから、やはり自己肯定感は重要です。

私の子どもは中学生ですが、常日頃から愛情を直接言葉で伝えるようにしています。そうすることが、子供の自己肯定感を高めると思っているからです。何歳になっても、子どもには愛情が必要です。愛情を伝えることで、子どもの自己肯定感は高まり、人生の困難にも立ち向かう力が養われると信じています。

グローブライドは、世界有数のフィッシング総合ブランド「DAIWA」で知られるスポーツ関連企業だ。このフィッシングを主力事業に、ゴルフやラケットスポーツ、サイクルスポーツの4事業を手がけている。またグローバル企業として、国内および海外(中国、タイ、ベトナム、英国)に生産拠点を有し、米州、欧州、アジア・オセアニアを含む世界4極で主力事業を展開している。

フィッシングの「DAIWA」とともに広く浸透してきた「ダイワ精工」から、創業50周年を機にグローバル企業への成長といった強い意志の下、2009年10月に現在の「グローブライド」へと社名を変更した。

withコロナ時代において、中核事業の「フィッシング」は「3密」を避けたアウトドアスポーツ・レジャーとして評価され、「ニューノーマル」が定着する中、その業績も好調だ。

環境活動にも積極的に取り組んでおり、CO2を吸収する森林保全や環境配慮型製品の開発なども推進している。

40年以上続くD.Y.F.C(ダイワヤングフィッシングクラブ)の運営にも力を入れており、未来を担う子どもたちと釣りを楽しみつつ、自然体験を通し「自分で考え、自分で工夫し、自分で動く」学びの場を提供している。

「グローブライド」という社名には、地球を舞台にスポーツの新たな楽しみを創造し、スポーツと自然を愛するすべての人に貢献したいという思いが込められている。

世界中の人々に人生の豊かな時間を提供する「ライフタイム・スポーツ・カンパニー」として、今後も地球を五感で楽しむ歓びを広め、アウトドアスポーツ・レジャーの未来を拓いていくユニークな企業だ。