日本のエリート層に「武士の姓」が多いという衝撃 身分を固定化する「社会的流動性」の低さとは
ここまでは、1世代間(つまり親と子)の社会的流動性の話だったが、別の手法を使えば、多世代間の流動性を見わたして、支配層が固定化していないかどうかも調べられる。
社会的流動性の長期的な傾向を明らかにするため、経済学者グレゴリー・クラークはめずらしい姓に着目して、社会的な身分が固定化していないかどうかを調べている。
ピープスという姓を例に取ろう。17世紀に英海軍の書記官を務め、詳細な日記を残したことで知られるサミュエル・ピープス(1633~1703年)の姓だ。
過去5世紀にわたり、ピープスという姓は一般母集団より20倍以上高い割合で、オックスフォード大学とケンブリッジ大学に入学してきた。
資産価値の閲覧可能なデータを見ても、ピープス姓は英国人の平均より5倍以上多くの財産を子孫に残している。
ひとつの姓がこのようにエリート層に存続しているのは、社会的流動性が極端に低い証拠だと考えられる。
100年経ってもエリート一家?
めずらしい姓がエリート層に存続している例は、ほかの国でも見られる。米国の税務当局が1920年代初頭に高額所得者の氏名を発表した。
それから100年後、それらと同じ姓を持つ者は、医師や弁護士になる割合が平均で3~4倍高い。
中でもカッツという格式の高い姓を持つ米国居住者は、6倍も高い割合で医師や弁護士になっている。
日本では、武士の姓は1868年の明治維新以前まで遡る。現在、それらの姓を持つ者は一般よりも4倍以上高い割合で、医師、弁護士、学術書の著述家になっている。
中国では、19世紀の清朝のエリート層に多かった姓を持つ者が、やはり一般よりも高い割合で、現在の企業の取締役や政府の役人に名を連ねる。
チリでは、高収入の職業に従事する者には1850年代の地主階級に多かった姓を持つ者がいまだに多い。
スウェーデンでは、17世紀から18世紀にかけて、「高貴な姓」が定められた。現在、それらの姓を持つ者は、医師になる割合が2倍、弁護士になる割合が5倍ふつうより高い。
社会的な身分は、わたしたちの想像以上に固定化している。10世代にもわたって受け継がれることすらある。
(翻訳:黒輪篤嗣)
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