もうすぐ今年も終わりですね。僕は映画や漫画を観賞するのが趣味なので、この冬休みも複数の動画配信サービスを駆使していろいろな作品に触れる予定です。基本的にリフレッシュを目的にコンテンツを楽しんでいますが、実は映画や漫画の中には教員の参考になるような隠れた名作があります。
そこで今回は、僕がとくに学びが多いと感じた3作品をご紹介したいと思います。もしご興味がありましたら、冬休みにでもぜひチェックしてみてください。
「書きたいように書く」を通じた「探究」の威力
まずは「書く力」や「探究」について考えを深められる作品をご紹介しましょう。それは、2007年の公開映画『フリーダム・ライターズ』。映画『ミリオンダラー・ベイビー』でアカデミー賞主演女優賞を獲得した有名俳優、ヒラリー・スワンクさんが初めてプロデュース兼主演を務めた映画です。
舞台は、ロサンゼルス暴動から2年が経った1994年当時の荒れ放題の高校。ヒラリー・スワンクさん演じる新任教師のエリンが、「書きたいことを書きたいように書く」という授業を通して生徒たちを変えていった、実話に基づいた物語です。
当時、僕は授業で「作家の時間」(関連記事)という「書く力」を育むワークショップを進めていたので、「まさにこれだ!」と思い、すぐさま視聴しました。
今、全国的に「探究型学習」への取り組みが広がりつつありますが、「作家の時間」というライティング・ワークショップは、まさに探究そのものなんですよね。興味のあることについて深掘りしながら、調べたことや想像したことを自分の言葉を使い文章で表現する学習なので、書く力を伸ばすだけでなく自分自身と向き合う機会にもなるんです。
この映画では、そんな自己探究を通じて生徒たちが成長していく姿を見ることができます。「自分を取り巻く社会なんて変えられない」と思っている生徒たちが、自分が思ったことを自由に書き表すことで自分自身について知っていく。そして、「自分にも社会を変革する力があるんだ」という気持ちへと変わっていく。新しい教育のあり方が模索される令和の今こそ、ぜひ多くの教員の皆さんに見ていただきたい名作です。
ちなみに、僕が個人的に感動したポイントは、新任教師エリンのひたむきな姿。彼女には「子どもたち自身の内に秘めた力を引き出し、子どもたち同士で高め合いながら問題解決に取り組もうとする力を育てたい」という大きな目的があると思うのですが、なかなか一筋縄ではいかない。何度も心が折れそうになりながらも立ち上がる姿に触れ、僕は勇気をもらいました。
なぜなら、この映画を見た当時、僕は正教員として約10年目にして仕事で大失敗した時期だったから。正直このまま小学校教師として働き続けられるか毎日不安で「何のために教師になったのか」と悩む日々でした。そんな中、この映画に出合って「いま一度、僕も立ち上がろう」「教師としての『何のため』をもう一度追い求めよう」という気持ちになれた。というわけで、いろいろうまくいかないことがある先生にもお薦めかもしれません。
「特別支援教育の視点」は全教員に求められている
2つ目のお薦め作品は、今年4月に公開されたドキュメンタリー映画『僕が跳びはねる理由』です。教育上価値が高いとされる「文部科学省特別選定」にも選ばれているので、ご存じの方もいるかもしれません。
この映画の原作は、東田直樹さんが13歳の時に自身の経験を書いたエッセー『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール、角川文庫、角川つばさ文庫)です。
今までは重度の自閉症者には知的障害や認知障害があるとされていたため、自閉症の立場から見た世界が言語化されたことは、日本中に衝撃をもたらしました。さらに、自閉症の子どもを持つ英国の著名作家、デイヴィッド・ミッチェルさんが本書を英訳して話題となり、現在では30カ国以上で出版されているそうです。
そんなベストセラー作家の東田さんを知ったきっかけは、2016年に東田さんを特集した「NHKスペシャル」。重度の自閉症である東田さんは、周りの人と音声でのコミュニケーションを取ることがまったくできない様子でした。しかし、文字盤を使ってタイピングの動作をすると、インタビュアーと会話することができるのです。
その様子に衝撃を受けた記憶が鮮明だったこともあり、英国で映画『僕が跳びはねる理由』が製作されたと知って早速視聴しました。
今、教育現場ではインクルーシブの考え方が広まっていますが、特別な支援の必要な子と共に学ぶ学校・教室をつくっていくうえで、まず教師自身が「知ること」から始めなくてはと考えています。世界各地の5人の自閉症の子どもたちの姿や家族たちの証言を追ったこのドキュメンタリー映画には、そのヒントがたくさん詰まっています。
僕たち大人も含め、誰にでも凹凸があります。それを互いに認め合おう、手を携えて補完し合おうという多様性社会、共生社会の実現に向け、社会は動き出しています。そんな社会で生きていく子どもたちと日々関わる僕たち教員こそ、障害や互いの特性について「知ろう」「理解しよう」と努力を重ねていくべきではないでしょうか。
特別支援教育の視点は全教員に求められていますので、この映画はぜひ教育に携わるすべての人々に見ていただきたいですね。
「読書教育」のヒントが満載、教員にも子どもにもお薦め!
最後にご紹介したいのは、漫画『図書館の大魔術師』です。たまたまTwitterで知り合いがこの漫画を激推ししていたので、「まぁ、読んでみるか」と気軽に読み始めたのですが、「こ、こんな漫画があったのか!」と一気に引き込まれました。読み進めるとタイトルどおり「図書館にまつわる話」が目白押しで、その日のうちに最新刊の5巻まで読んでしまいました。
主人公は、身体的な特徴から村で差別を受けている少年。本が大好きな彼が、本の都にある図書館の司書と出会い、人生を切り開いていくファンタジーです。もちろんストーリーも面白いのですが、この漫画には「本の歴史」「本の魅力」「本との出合い方」などなど、読書教育のヒントが満載。「人はなぜ本を読むのか」「何のために読むのか」について改めて考えさせられる作品です。
口頭で限定的に語り継がれていたことが本という形になって誰もが読めるようになったすばらしさ、あるいは、読むことで楽しさが広がったり苦しさから解放されたりすることもある本ならではの魅力などが、主人公の体験や司書の姿を通じて生き生きと感じることができます。また、本を本棚から取り出すとき、指で引っかけて取ると背表紙を傷めてしまうといった、見落としがちな「本の扱い方」などが学べる点もいいなと思っています。
僕は前述の「作家の時間」とともに「読書家の時間」(関連記事)というワークショップも授業に取り入れています。これは「読みたい本を自分で選び、読みたい場所で読みたいように読む」という活動を通して「読書家」の育成を目指す実践ですが、要は日頃から読書教育に力を入れているわけです。だから、同じく読書教育に興味のある先生や本が好きな先生には、この漫画の深さがわかっていただけるのではないかと思います。
でも、僕としてはすべての先生方に読んでいただきたい! もっと言うと、大人になった今も読書の面白さがわからない大人にこそ読んでほしいし、子どもにも読んでほしい。とくに僕は大人になって読書の楽しさに目覚めたからそう思うのかもしれませんが、もし学級文庫に漫画が認められるなら、絶対にこの作品を置きますね。読んだ先生はきっと教室に置きたくなる、そんなすてきな漫画です。
今回ご紹介した3作品、もしよかったら参考にしてみてください。それでは皆さん、楽しい冬休みを!
(注記のない写真はiStock)