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いまから20年前の2006年9月19日、タイで軍がクーデターを決行し、憲政史上最強とされたタクシン政権を崩壊させた。21世紀に入り順調に発展していたタイ経済はこれを契機に変調に転じ、「中進国の罠」から抜け出せない状況がいまも続く。
タイは、アジアの民主化を逆回転させるきっかけになった
東南アジアで唯一植民地化されず、地政学的、経済的にも地域の中核だったタイで起きた武力による政権転覆は、近隣の権威主義的指導者に強権の免罪符を与えた。経済発展すれば中間層が厚みを増し、民主化が進む、という仮説に大きな疑問符が付きつけられ、アジアで民主化の歯車が逆回転するきっかけにもなった。
首相だったタクシンはその後長きにわたり、逃亡先の海外から自派政党を指揮して総選挙で勝利を重ねたものの、民主主義を前面に押し出す新興政党が勃興すると、王党派に寝返り、選挙による民意はないがしろにされ続けた。
経済発展のみならず民主化の進展の面でも「失われた20年」を経験したタイ。その現在地はどこにあるのか。対立してきた既得権層と取引することで帰国を果たしたタクシンの時代は終焉を迎えたのか。
平和だった首都バンコクの街角に戦車が現れた!
20年前のその夜、私は新聞社の特派員として駐在していたバンコクの居酒屋で取材先と会食していた。携帯電話に知人から「クーデターでは」との連絡が入った。戦車が首都の街角に出現しているという。だが私は「いやあ、訓練でしょ」と言って電話を切った。
数日前から不穏な動きが噂されていたが、軍は訓練をするとの予防線を張っていた。
冷戦が終わってアジア各地で民主化が進み、なかでも経済的に豊かになりつつあったタイで軍による政権奪取があるとは端から信じていなかった。
しばらくして別の知り合いからも同趣旨の電話が入り、午後9時過ぎにはテレビが通常の番組を停止して国王賛歌を流し出した。「こりゃあかん」と食事を打ち切り事務所に向かった。対応の鈍さと不明を恥じるほかなかったが、ほとんどのメディアや外交関係者も意表を突かれたことは間違いなかった。


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