一方で、心の負担が脳へ及ぼす影響を示す研究も報告されています。
2026年にアメリカの専門誌に掲載された台湾からの研究では、約95万5000人という非常に大規模なデータが解析されました。
その結果、配偶者が認知症と診断された人は、そうでない人に比べて自身も認知症と診断される割合が高いことが明らかになりました。5年間で認知症と診断される人の割合で比べると、男性は6%から9%、女性は3%から6%へ上昇したのです。
なぜこのような結果になるのでしょうか。
夫婦は何十年も同じ生活を送り、食事や運動習慣、睡眠時間も似通うため、もともとの生活習慣が似ていることは1つの理由でしょう。しかし、それ以上に大きいと考えられているのが、介護の負担です。
認知症の介護は24時間続きます。夜中に何度も起こされ、外出や趣味が制限され、友人と会う機会が失われ、体調が悪くても自分の通院を後回しにしてしまう。そうした生活が何年も積み重なれば、血圧や血糖の管理が難しくなり、睡眠不足や抑うつも起こりやすくなります。
認知症予防は本人だけでなく、介護している家族の負担に配慮することも重要な一部なのです。
脳は鍛えるのではなく…
2024年、ランセット認知症委員会は、教育、難聴、高血圧、糖尿病、喫煙、運動不足、うつ病、社会的孤立など14の改善可能な危険因子に対策を講じることで、世界の認知症のおよそ45%は発症を遅らせたり防いだりできる可能性があると報告しました。
この報告に「芸術鑑賞」「スポーツ観戦」「笑い」という言葉は出てきません。しかしよく見れば、ここまで紹介した研究はすべて危険因子とつながっています。
美術館へ出かければ歩きます。誰かと作品を語り合えば孤立を防げます。好きなチームを応援すれば次の試合が楽しみになります。笑いは人との交流と前向きな感情を育みます。芸術も野球も笑いも、それ自体が薬なのではありません。しかし、それらが人を社会と結びつけ、心を動かし、生活にリズムと目的を与えることが認知症予防につながるのです。


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