同じ研究グループはまた、演劇やコンサート、美術館など文化活動に親しむ人ほど、その後10年間の認知機能の低下が緩やかだったことも、2018年に報告しています。さらに、約9550人を12年間追跡した2020年の別の解析では、こうした文化活動を定期的に楽しんでいる人は、そうでない人よりおよそ4割、認知症になる割合が低かったという結果も出ています。
もちろん、これは「フェルメールやファン・ゴッホ、モネを見れば認知症が防げる」ということを言っているわけではありません。研究者たちが注目しているのは、作品そのものよりも「芸術を楽しむ生活」です。
絵の前に立つと、人は自然と作品を観察し、自分の経験や記憶と照らし合わせます。同行者と感想を語り合う人もいるでしょう。何より展覧会へ行くには家を出て歩き、電車に乗り、人と交わることになります。
つまり、芸術鑑賞とは知的刺激だけでなく、身体活動、社会との交流、感情の動き、記憶の想起といった、認知症予防に重要とされる要素が驚くほど自然に詰まった活動なのです。実際、国際的な指針を示すランセット認知症委員会も、運動だけでなく、社会的孤立やうつ病への対策を重要な予防戦略に位置付けています(関連記事:超有名医学誌が示す「脳の健康を害する」14のリスクの中身)。
スポーツ応援も脳の健康に貢献
今年、認知症医療の分野で話題になったのが、「阪神タイガース優勝」と認知症に関する研究でした。
大阪のクリニックが通院する認知症患者855人を対象に、2023年のリーグ優勝前後で症状の変化を調べた探索的な研究です。熱心な阪神ファンだった患者19人では、優勝後に抑うつや無気力、興奮といった認知症に伴う行動・心理症状が有意に改善していました。
一方、阪神以外のチームを応援していた患者ではこうした変化は見られず、一部は悪化した例もありました。
この研究だけで「応援するチームが優勝すると認知症が改善する」と結論づけることはできませんし、対象は19人と少なく、記憶力そのものが回復したわけでもありません。それでも多くの専門家の関心を引いたのは、改善したのが「記憶」ではなく「心」だったからです。


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