つまり、レシピは明かしても、肝心の塩と、食感や味わいの基礎となる「粉」だけは秘密。完全なコピーはできないようになっているのだ。ただ──。
「岩塩に関しては、薄々勘づいている方もいるかもしれません。それでも秘密を守っているのは、漂う“ミステリアス”さが、そのまま価値に転換されるからです。その秘密の塩を知りたい、その味を食べてみたい、そう思ってもらえたら、というちょっとした遊び心の戦略があります」
ゆえに、だろうか。塩パンが人気の韓国で、塩パンオリジナルとして店を出さないかといったオファーが、今も後を絶たない。だが将武さんはすべて断っているのだという。
「確かに、大手企業でしたら全国展開、そして世界を相手に、と考えてもおかしくないかもしれません。ですが我々は、あくまで、“小さな町のパン屋さん”なんです。手を広げすぎてしまうと、私の目がすべてに行き届かなくなってしまう。すべての店舗を、我々がやりたいお店にできなくなってしまう。弊店の創業者であり『塩パン』の開発者である父からも、キツく言われているんです。“それだけは、するな!”と」
なぜだろうか?
客はもちろん、従業員にも幸せを…の精神
その解は、パン・メゾンの理念にある。「パンで、小さな幸せを」。つまり、安くて美味しいパンで、できるだけ多くの人に幸せになってもらいたいというのが、同店の揺るがないモットーなのだ。
大人気の塩パンも、このご時世で開発時の65円からは値上がりしたが、現在も95円という破格の値段で販売している(東京の店舗では120円)。子どもが、100円のお小遣いを握りしめて、おやつに食べられる値段設定だ。パン・メゾンの根底にあるのは、あくまでも「地元の人に愛されるパン屋さん」。将武さんは利益拡大よりも、その哲学を守り抜こうとしている。
