市内すべての小中学校で「週3日5時間授業」を導入
2020年度から順次スタートした新学習指導要領。守谷市では、その全面実施に向けて議論を進めていた当時、英語の教科化などに伴って、クラブや委員会を含めると小学4年生以上が週5日6時間授業になり、児童と教員の負担が増えることが懸念されていたという。
その負担軽減のために導入されたのが、2019年度の「第一次学校教育改革プラン」で示された「守谷型カリキュラム・マネジメント」だ。すべての市立小・中学校の小4から中3において、月・水・金曜日の週3日は5時間授業に変更したのである。
授業時数を補うため、夏休みの8月下旬に5日間の夏季授業を行い、3学期制を2学期制に移行して始業式や終業式の日にも授業を実施。休日だった創立記念日や県民の日にも授業を行うこととした。
守谷市教委参事の古橋雅文氏は、「標準授業時数は確保できることをしっかりと示したことにより、教職員からも保護者からも大きな反発はなかった」と話す。放課後児童クラブも5時間授業になる日は開始時刻を繰り上げ、大きな混乱はなかったそうだ。
これにより、小4から中3の学期中の授業時間数は1週当たり2時間15分~2時間30分減少した。この取り組みは好評で、導入後のアンケート調査では児童生徒の84%が「放課後が充実しているし、ゆとりもできた」と回答。具体的には、趣味の時間や友達と遊ぶ時間、宿題や家庭学習をする時間などが増えたとの回答が多かった。保護者からも「夏休みが1週間短くなりありがたい」とった声も聞かれるという。
また、小中学校の教職員の66%が「働き方改革に有効」と評価した。とくに大きな効果が見られたのは小学校で、2018年度には61時間だった時間外勤務の月平均時間が、2019年度には34時間へと5割近くにまで減少した。
「『夏休みが約1週間短くなるよりも、学期中の日々の時間外勤務が1~2時間減るほうが負担感は少ない』と受け止めた教員が多いようです。導入2年目の2020年度は、コロナ禍の休校明けに一時的に週5日6時間授業に戻したことがあったのですが、教員からは『毎日6時間授業だとこんなに大変なのか』という声も聞かれ、週3日5時間授業が負担軽減につながっていることを改めて現場の先生方が認識したのだと思います」
「部活動改革」も組み合わせて時間外勤務を大幅削減
ただ、中学校では5時間授業の日も部活動の時間が長くなるだけで、実は教職員の働き方改革はあまり進まなかったという。そこで2022年度からは「部活動改革」も開始した。
部活動の時間を1コマ50分とし、3シーズン制を導入。基本となる「スタンダードシーズン」では、5時間授業の月・水・金は2コマ100分、6時間授業の火曜日は1コマ50分で実施し、木曜日は部活動なし、土日はいずれかに3時間程度の実施としている。11月~1月末は「オフシーズン」とし、木曜日に加えて火曜日も部活動なし。一方、総合体育大会や新人体育大会3週間前の「チャレンジシーズン」は木曜日を除く平日は各2時間、土日はいずれかに3時間程度とし、メリハリのついた活動が行えるようにした。
この改革により、スタンダードシーズンやオフシーズンには部活動がある日も16時50分には生徒が下校するようになり、教員は17時ごろには職員室に戻れるようになったという。2021年6月には79時間だった中学校教員の時間外勤務時間の月平均は、2024年6月には43時間にまで減少し、働き方改革としても成果が出ていることがうかがえる。
当初は時間短縮により部活動の実績が下がることを心配する声もあったが、2023年度の総合体育大会の成績は前年度から下がることなく、「限られた時間を有効に使おうという意識が生徒に芽生え、練習への集中力も高まったのではないか」と古橋氏は見ている。
ただ、2024年9月の時点では中学校の52の部活のうち、外部コーチへの委託を行っているのは18の部活動に留まり、外部移行率は34%と道半ばだ。
「学校の部活動はクラブチームの活動とは異なり、勝つことを目的とするものではなく教育活動の一環なので、そのことを理解していただける委託先を選定しているため、外部人材の確保は難しいところがあります。また、吹奏楽部など、活動場所が校舎内に限られ安全面で注意が必要な部活動の外部委託をいかに進めていくかが今後の課題です」
小学校高学年で「教科担任制」導入、市費で専科教員を配置
「守谷型カリキュラム・マネジメント」を開始した翌年の2020年度からは、小学校高学年で「教科担任制」も導入した。教員の負担軽減と、より専門性の高い授業を通じた児童の学力向上を狙いとしている。具体的には、図工・音楽・理科の専科教員を各校に市費で配置。それに加えて、現在は英語の専科教員を市内の小学校9校のうち5校に県費で配置している。
これにより、高学年の教員には週6時間程度(英語の専科教員が配置されている学校では週8時間程度)の空き時間が生まれた。ただ、中学年の教員の負担感は変わらなかったため、高学年の教員が空き時間の一部で中学年の書写や英語などの授業を受け持つようにした。その結果、中学年と高学年の教員がいずれも平均して4~5時間程度の空き時間を持てるようになり、時間外勤務の減少につながったという。
児童へのアンケートでは92.8%が「専科教員の授業はわかりやすくて面白い」と回答。古橋氏は「高い専門性が必要とされる教科の授業を多くの児童が楽しいと感じているのは、一定の成果」と見ている。
中央教育審議会の「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(答申)」では、教科担任制を中学年まで拡大することが盛り込まれたが、実際に県費の予算配分が拡大すれば、「現在は市費で雇用している高学年の専科教員を県費で採用し、市費を中学年の専科教員採用に当てることもできるかもしれない」と古橋氏。現在、定年退職した元教員への声がけや公募を通じて専科教員を集めているが、今後も人材確保に努めていくという。
市独自の「いじめ予防プログラム」を始めた狙いとは?
さらに、児童生徒の人権を守るとともに、教員の時間外勤務を減らすうえでも重要だとして守谷市が力を入れているのが、いじめ対策だ。
「いじめが生じると、児童生徒からの聞き取りや保護者とのやり取りなどに時間がかかり、教員の時間外勤務が増える傾向にあります。いじめが起きてから対応するのではなく、いじめを未然に防ぐプログラムの立ち上げが必要だと判断しました」
2024年度には、道徳の教科書などを参考に市独自のいじめ対策プログラムの教材を作成し、年4回のいじめ防止授業を行っていく。何がいじめなのかを伝え、いじめが起きたときに取るべき行動などについて考える機会を設けることで、いじめの発生を防ごうという狙いだ。
各学校では月1回「いじめ発見アンケート」を実施するとともに、いじめ対策会議を開催。個別対応が必要なケースでは、守谷市総合教育支援センターのいじめ対策指導員と連携しながら対応しているという。市で2名のスクールロイヤーを採用しており、教員は日常的なトラブルへの対処法について個別にメールで相談することもできる。
また、不登校の児童生徒の居場所として、校内フリースペース(校内適応指導教室)の設置を進めており、教員免許を持つ支援員を市費で配置。2024年度からは登校が難しい児童生徒の家庭訪問などを担う「守谷型SSW(スクールソーシャルワーカー)」を、中学校区に1人ずつ配置している。
市費採用のスクールスタッフとしては、このほかに小学1・2年生がスムーズに学校生活に適応していけるよう、「学習支援ティーチャー」を配置。2024年度は小学校には2クラスに1人の割合で計28人を配置して、低学年の児童が学校に慣れてきたら、学年を問わず、支援が必要なクラスに配置する柔軟な運用を行っている。
外国語学習に関しては、全小中学校にALT(外国語指導助手)を常任で雇用。また、1回25分のオンライン英会話を小学5・6年生では年3回、中学校では年5回取り入れており、教員が外部リソースを活用しながら指導できるよう配慮している。
さらに、各中学校区に1人、守谷市教委付けで2人のICT支援員を配置。ICT機器の接続作業やトラブル対応、児童生徒に向けた機器の扱い方の説明などは、教員に代わりICT支援員が担う体制を取っている。
現在、教員全員がGoogle AI「Gemini」を使えるようにしており、今年の夏休みには各学校の情報主任を対象に、外部のAIコンサルタントによるAI活用研修を行った。「保護者向け文書の雛型などをAIで作成できれば時短になる。授業はもちろん、校務におけるAIの有効活用も進め、よい事例を共有していきたい」と古橋氏は話す。
授業時数や部活動の時間などの見直しを進め、教員の業務で減らせる部分は確実に減らしていく。その一方で、外部リソースを積極的に活用し、教員の仕事を代わりに担う“味方”を増やしていく。この両方の施策をバランスよく実行していることが、守谷市の学校教育改革が成果を上げている理由だと言えそうだ。
(文:安永美穂、注記のない写真:IYO/PIXTA)