「働き方改革」が好意的に受け入れられていない?!
学校現場の過酷な実態が明らかになって以降、「働き方改革」が文部科学省から教育委員会を通じて急速に推進されている。
しかし、学校現場に身を置いている者としては、「働き方改革」が多くの教師に好意的に受け入れられているとは言い難い。管理職による強制的なノー残業デーの設定や定時退勤の勧奨は、教職員の反感を買う危険性さえはらんでいるというのが、多くの小中学校の実態ではないか。
「山のようにある仕事を放り出して退勤などできない」「課題を抱える児童生徒や家庭が多いため、早く退勤するなんて不可能」と、はなから定時退勤に否定的になっている教師は少なくない。
今、社会の変化に伴って、教育現場にも急速な変化の波が押し寄せており、教師の多忙を招く一因になっている。また、保護者や地域住民からの要望にも応えなければならないという「空気」が、教師の時間を奪う原因にもなっている。
確かに、教師の仕事には際限がなくなってきているものの、時間も無限にあるわけではない。本来、最も時間を割かなくてはならない授業研究や子どもと触れ合う時間を確保するためにも、時間の効率的な使い方が重要になる。
マインドセットの見直しを、まずは心がけから
例えば、宿題チェックやテスト採点などは、授業の合間にできるわずかな時間を使って少しずつ進めるよう心がける。校務分掌の仕事も、職員室に戻ってくるわずかな時間に、できるものから少しずつ片付けていけば負担なくやり終えることができる。
「時間がないから……」と、ほんのわずかな時間を無駄に過ごすと、結局10分間も20分間も何もできずに、無駄にしてしまうことになりかねない。「すき間時間に、少しでも何かをやろう」と意識して行動することで、たとえわずかな時間であっても、ある程度の仕事を進めることが可能になる。
できる仕事にはすぐに手を付けることも重要だ。後回しにすることで、日が経つにつれてほかの仕事と重なり、時間の余裕も気持ちの余裕も奪われることになる。また、「書類を10分間で終わらせる」「この時間にできるところまでやる」など、時間を意識することが仕事の効率化を促し働き方を変えることにつながる。
こうした学級事務や校務分掌の仕事は、効率化と時間の捻出方法を工夫することでクリアできるはずだし、できるよう努力しなければならない。
問題になるのが、喧嘩やケガなど学校で生じたトラブル対応のために、勤務時間外に保護者と連絡を取らなくてはならないような場合である。学校外での児童生徒の問題行動で、夜遅くまで地域や警察などの関係機関への対応が必要になる場合もあるだろう。突然生じたトラブルで、勤務時間内に仕事を終えることが難しい場合は起こりうる。
しかし、たとえ児童生徒のトラブルや保護者・地域対応が多い学校であっても、定刻を大幅に超えて勤務しなくてはならない状況が、毎日続くわけではないはずだ。トラブルの多い学校に勤務していても、働き方を変える努力から逃れてはならない。何のトラブルもない時に、教師それぞれが定時退勤を心がけることが大切である。
定時退勤を実現させるための重要なポイント
昔から教育現場には、子どものために労力を費やすのが当たり前という暗黙のルールが存在する。現在も「子どものため」だからと時間を費やしている教師は少なくない。
もちろん、子どものために時間を費やすことで、やりがいと充実感を得るのはすばらしいことである。しかし、とくに若い時分は、限界に気づかず時間を費やしてしまう危険がある。限界を超えてまでする仕事は、単なる自己満足に過ぎない。体力と気力を蓄えて、元気に子どもに臨むことが真に「子どものため」であろう。
そのためにも、自分の能力や生活リズムを把握したうえで、仕事に費やす時間を考える必要がある。そうすることにより、限られた時間でいかに効率的に仕事をするか、真剣に考えるようになるはずである。
こう考えると、定時退勤を実現させるための重要なポイントが見えてくる。
トラブル対応に割く時間と労力を削減して、教材研究や事務処理など自分のペースで進めることができる仕事に時間を充てられる状態を作り出すことが、定時退勤を実現させる条件である。では、このような状態を作るためにはどうすればよいか。
それは、児童生徒の学校生活を安定させることに尽きる。
児童生徒の学校生活の安定を保証するためには、教師の学級経営力量や授業力量、そして生徒指導力量を高めることが必要である。登校しても授業がつまらない、クラスに居ても居場所がない、相談したくても教師が頼りない……。そのような状態の学校で、児童生徒のトラブルが起きないはずがないのである。
授業力量や学級経営力量といった教師に必要な力量を高めることによって、児童生徒は安定した学校生活を送るようになり保護者からの信頼も得られる。結果、トラブル対応にかける労力は不要になる。
児童生徒や保護者と良好な関係が構築され、トラブルが少なくなることで、定時退勤可能な状態が日常になっていく。定時退勤を実現する重要なポイントは、教師力量向上へのたゆみない努力である。
働き方改革を実のあるものに導くのは管理職
長時間勤務になってしまう原因の一つに、児童生徒が下校した後に行われる学年部会や専門部会などの会議(話し合い)がある。
それらの会議が、退勤時刻を過ぎても当たり前のように行われる学校があると聞く。ひどい場合は、退勤時刻を過ぎてから会議がスタートすることもあるようだ。職員の中には、子育てや親の介護などさまざまな家庭事情を抱えている者も多いはずである。
働き方改革における管理職の役割とは、職員が充実感とやりがいを持って仕事に取り組む環境をいかに実現するかだ。時間外勤務短縮のために管理を強化したり効率重視の働き方を徹底したりすることではない。慣例的に行われているさまざまな働き方を精査して、改めるべきは改めてすべての職員が負担なく働くことができる体制を作ることも、その1つだ。
例えば、職員が互いの立場を理解し合い、それぞれのペースで仕事に取り組み、自己都合と自由意志で退勤時間を選択することができる職場にすることである。
教師一人ひとりが、未来を担う子どもたちを育て導くという教職に誇りを持って働くように導くことである。協同的な教職員組織や力量を高め合うことのできる関係を築くことが、働き方改革を実のあるものに導く管理職の務めである。
「真」の働き方改革のために
子どもの成長と笑顔に、喜びと生き甲斐を感じるのが教師だ。「子どものためであれば」と、誰に命じられることなく進んで時間と労力を費やすのが教師の「性」である。
だから、時間外勤務を短縮するだけが働き方改革ではないと私は考えている。喜びと生きがいを感じられるのであれば、時間外勤務が少々多くなったとしても、心身の負担を感じることは少ないだろう。もちろん、自分や家族の時間を確保するために、より効率的な働き方を工夫しなければならないという前提でのことである。
問題なのは、保護者や管理職、同僚など周囲の評価を気にして行う仕事のやり方や、教師として意味を感じられない仕事ではないだろうか。そして、「教職はブラック」と言わしめる最大の原因にもなっているトラブル対応や保護者対応である。
児童生徒の学校生活で生じる人間関係のトラブルやケガなどに対しては、昔では考えられないほど丁寧な対応が求められるようになった。少しでも対応を間違えると、保護者から想像以上に激しい苦情が出る危険性がある。
そのため多くの教師は、神経をすり減らしながら細心の注意を払って仕事をしているのが現状である。現在、学校現場は、過度とも思われる期待と責任に必死で応えようともがいている。
このような、保護者を過剰に意識した「懇切丁寧」な児童生徒への対応は、本来、成長のために必要な人間関係や危機回避を学ぶ大切な機会を、子どもから奪ってしまっているようにも思われる。
私たち教師を含め、子どもと関わるすべての人が、学校教育本来の役割とは何か、教師の仕事の本質とは何かを真剣に考える時期が来ているのではないだろうか。それこそが、「真」の働き方改革を実現する重要なファクターとなるはずである。
(注記のない写真:Graphs / PIXTA)