演奏する楽曲ごとに、作曲年・作曲国・時代背景・同時代の出来事を1枚のカードにまとめる活動を取り入れてみるのもいいかもしれない。ホルストの『吹奏楽のための第一組曲』(1909年)なら、日露戦争後の国際秩序の変容やイギリスの教育改革運動との関係が浮かび上がってくるだろう。
「なぜこの曲はこの時代に書かれたのか」。その問いを持って楽譜に向き合うとき、演奏の説得力は根底から変わる。社会科の教師に監修を依頼すれば、分野横断の協働となり、指導者が1人で抱え込まない仕組みづくりの第一歩にもなる。
顧問も限界、「吹奏楽文化」をつなぐために
スポーツ庁や文化庁による「部活動の地域移行」のガイドラインでは、吹奏楽をはじめとする文化部活動が担ってきた教育的意義を、地域社会でも継承・発展させる重要性を掲げている。しかし、この豊かな資産を未来につないでいくためには、1つの現実を直視しなければならない。5教科を身体で統合するという高度なSTEAM型の教育的営為を、学校の先生が1人で抱え込み続けることは、もはや限界を迎えているということだ。
次期学習指導要領が示す「調整授業時数制度」の創設や「デジタル学習指導要領」の構想は、教師の負担軽減と教育の質向上の両立を志向している。吹奏楽の指導もまた、同じ転換を迎えるべきだろう。
指導者に必要なのは、STEAMの視点を持ち、テクノロジーの知見を更新し続けること。そして地域の専門家、例えば、音響工学の研究者、プロの演奏家、歴史や語学の専門家らとネットワークでつながっていくことだ。1人の顧問がすべてを担う旧来型モデルから、多様な専門性が連携して支える開かれた吹奏楽モデルへ。それが、この国の教育的資産を次世代に手渡す現実的な道筋である。
スポーツの世界で最新のデータ分析や運動生理学を学んだコーチが選手を飛躍させるように、吹奏楽の指導者にも新たな学びが求められている。音楽の背後にある科学や歴史なども深く理解し、生徒に還元していく指導者の「学び直し」こそが、日本の吹奏楽文化を世界に誇る文化芸術へと引き上げるカギとなるはずだ。
この国が誇るべき教育的資産を、「情操教育」の一語で片付け続けるのか。それとも、その真の価値をSTEAM教育の最前線として再定義し、世界に発信していくのか。夏のコンクール熱が冷めた今だからこそ、指導者1人ひとりが「最初の学び手」になってみてはどうだろうか。そこから、日本の吹奏楽の新しい章が始まる。


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