麻辣湯人気について「一時的なブームでは」という見方もある。しかし石神さんは、その考えを否定する。
「麻辣湯そのものは、日本に完全に根付くと思っています」
理由として挙げるのは、ピザやハンバーガー、カレー、ラーメンと同じように、海外から来た料理が日本人の食生活に溶け込んできた歴史だ。さらに麻辣湯には、
・辛さを細かく調整できること
・何度も食べたくなる中毒性
・野菜をたっぷり摂れる健康的なイメージ
という複数の魅力がある。
「健康だけを前面に出した料理は、意外と流行らないんです。でも麻辣湯は、美味しさもあって、しかも健康的。その両方があるのが強いと思います」
データを見ると、30℃を超えると人は辛いものを求め始める。
実際に夏の麺市場では辛麺や酸辣湯麺が伸び、ラーメンチェーンも「辛さ」を軸にした夏商品を次々と投入している。一方で、七宝麻辣湯では夏だから売れるわけでも冬だから売れるわけでもない。季節を問わず、多くの人が自然と麻辣湯を選んでいる。
つまり、「夏だから辛いものが食べたくなる」という現象は確かに存在するものの、それだけでは辛い料理の人気を説明しきれないのだ。辛さは、汗をかいて爽快感を得るためのものでもあり、食欲を呼び覚ます刺激でもある。そして今や、季節を超えて日常的に選ばれる味にもなっている。
夏は辛いものの欲求が表に出やすくなる?
猛暑になるたび、「夏は激辛」という言葉が聞かれる。しかし石神さんの話を聞いていると、むしろ逆なのかもしれないと思えてくる。
私たちはもともと辛いものが好きで、夏になると、その欲求が少しだけ表に出やすくなるだけなのではないか。
真っ赤な一杯を汗だくで頬張る光景は、日本人の味覚が季節とともに変化していることを示すものではなく、すでに辛さが日本の食文化として深く根付いたことを物語っているのかもしれない。


