マドリードでは、工事ライセンスの規定が3カ月ごとに変わる。ヨカロカの工事も例外ではなく、途中で煙突を1メートル延長するよう指示が入った。
同じ時期、同地区では無許可工事業者が大量摘発され、連日ニュースになっていた。洋花さんはすべての許可をきちんと取って進めていた。だが近隣住民は疑心暗鬼になり、工事に反対。屋上への扉の鍵を勝手に付け替えてしまう。
「なんとか工事を進めるために、クレーン車をレンタルして、弁護士にもお願いしたんです。最後まで1メートルの煙突を設置することができませんでした」
一連の損害額は、1500万円を超えた。普通なら心が折れてしまいそうな状況だが、洋花さんは違う。
「困難にぶつかったときほど、スーパーサイヤ人みたいに燃えてきます」
違約金3000万円のリスクを背負って2店舗目をオープン
洋花さんは、すぐに次の手を打った。
1店舗目のすぐ近くに、別の物件を見つけて、再出発を決めた。アラブの水たばこバー跡地で、1890年築の建物だった。1年半の期間を経て、24年8月、2店舗目「マトゥテ店」はオープンする。
すんなり開店できたわけではない。解体工事を始めた直後、「この物件では、今後レストランを営業できなくなる」と市役所から通知が届いた。続ければ営業できない、諦めれば3000万円の違約金。前にも後ろにも進めない状態で、10カ月かけて何とか営業許可を取り付けたのだ。
この頃には、洋花さんはちょっとやそっとのことでは動じなくなっていた。
店内の装飾は、日本の大正期のアンティークで統一した。
「この建物は1890年のもので、ちょうど西洋文化が日本に入ってきた時期と重なるんですよね。だったら、その頃に日本へ入ってきた食べ物をここで出したら、面白いんじゃないかと思って」
カステラ、プリン、トンカツ、クリームソーダ――ヨーロッパから日本に渡った料理を、ヨーロッパの古い建物の中で、日本人が出す。逆輸入のような仕掛けが、店の柱になっている。
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【マトゥテ店】
