約1080万円にも及ぶ不明瞭な会計処理が出た理由

――2019年度から2022年度にわたり、内容が不明瞭な「防災事業費」が市内の保険代理店に支払われていたことが発覚し、その金額は約1080万円に及びました。第三者委員会の調査により元会長の内規違反によるものと判明したそうですが、なぜ、4年という長期間、不透明な会計処理が続いたのでしょうか。

郡島:一番の原因は、善良なボランティア精神による運営を過剰に信頼していたことにより一部の役職者やOBに権限が集中し、長期間にわたる不正会計への関与を止めることができなかったことと考えています。

第三者委員会の報告書にも記述がありましたが、2016年から2018年度にかけて当協議会の会長、2019年から2020年度にかけて顧問を務めていた人物に権限が集中し、運営を私物化していました。トップダウン体制で多くの役員に詳しい事情が知らされず、不正に気づかない状況だったと認識しています。

私は2023年度から会長を務めており当時の理事会メンバーではなかったのですが、「総会資料を見ると、予算書には入っていなかった項目が決算書に入っていたことがあった」と聞いています。毎年多くの役員が入れ替わる中で、決算への疑問を指摘できるほど事業に精通している人が少なかったことも、一因としてあげられると思います。

――役員が集まる理事会でも、元会長に対して意義を唱えにくい雰囲気だったのでしょうか。

和田:例えば個別の事業について、事業を具体的にどう行うのかなど、内容についての議論は行われていました。しかし、「この事業をなぜやるのか」という側面や「お金がどのくらいかかるのか」といった、会計的な側面からは、解像度の高い議論はできていませんでした。これは私の見方ですが、理事会での議案にお金(予算)のことが記されていなかったこと、それを疑問視し、声をあげる時間や余力がなかったことも大きいと感じています。

――PTA連合という任意団体が第三者委員会を設置し調査するという事例は類を見ませんが、あえて設置した理由をお聞かせください。

溝口:私は現在事務局長で、2022年度の1年間(2022年6月〜2023年6月)会長を務めました。任期中にそれまでの不明瞭な会計処理が発覚したので、このまま次の総会には通せないと判断しました。

不明瞭な会計が、どのように取引がされていたのか徹底的に精査することが急務であると理事会で協議し、当協議会運営に関する細則に基づき、特別委員会を設けました。この委員会での検討もふまえ、専門的かつ客観的な見地からさらに調査を進める必要があると判断し、第三者委員会を設置することにしました。

郡島:「このままではいけない」「徹底的に調べよう」と。第三者委員会設置決定後、「誰に調査してもらうのか」「調査はしてもらうが、その結果をどのように報告するか」「調査費用はどこから捻出するのか」など、役員からさまざまな意見が出て相当議論を重ねました。

その結果、専門的な分野に関しては弁護士1名、税理士1名に調査をお願いし、助言を受けながら理事会で検討、決裁していくことになりました。また、活動の透明性を保つ意味でも、調査の経緯や結果は逐一当協議会のホームページ上で公表していくことにしました。

――調査費用はどのように捻出されたのでしょうか。

郡島:当協議会の会計は、会員校からの会費(会員1人当たり年50円)や市からの補助金からなる「一般会計」と、保険事業事務手数料収入等からなる「保険事業会計」の2つに分かれています。調査費用は一般会計からではなく、2023年度の保険収入からまかないました。

「正常なガバナンスが機能していない」日Pを退会

――第三者委員会による調査の結果、「2016年から2018年度に会長を務めていた元会長は協議会を私物化し、支出を全体として主導的な立場で行っていた」「PTA活動総合補償制度において、保険代理店の選定に市P協は関与してはならないという規定があるにもかかわらず、自身と関係のある代理店を意図的に参画させた」ことが明らかになり、2024年6 月の定期総会で、貴協議会は元会長を内規違反として除名処分としました。その後、「業務上横領の疑いで逮捕」の報道がありました。また、元会長は、日Pの理事なども務め、不明瞭な赤字の計上にも関与していたそうですね。

2024年6月に退会届けを提出し、正式に日Pを退会
(資料:さいたま市PTA協議会提供)

郡島:元会長は2018年から日Pの理事などを務め、日Pの事務局を事実上統括しているとみられており、当協議会と同様のことが日Pでも起きていることは容易に想像できました。

実際、日Pは、2022年度予算の約4700万円に上る赤字を計上。3000万円を超える旅費交通費と会議費のほか、約2000万円は日P会館の雨漏りなどの修繕工事費に使われたとされていました。これらの詳細や、「日P会館の改修工事で三役や理事会が見積もりや領収書を承認していたか」などについて、2023年6月より当協議会から公開質問状を何度も送ったにもかかわらず、日Pからは誠実な回答は得られませんでした。

訪問の約束を取り付けるなどしても、何かしらの理由を付け、何度もキャンセルされています。ようやく行われた日P会館での面談においても、満足に資料の確認をすることもできない状態でした。

――2023年12月の理事会で、日P退会が決まったそうですね。

郡島:元会長が関わっている組織として信用できないこと、これまでの対応を鑑み、現在の日Pは正常なガバナンスが機能していない状態であると認定したためです。当協議会のホームページでも公表し、日Pを退会することによる当協議会会員への不利益などがないよう配慮し、そのための施策を速やかに検討・実施していくことをお伝えしました。2024年6月に退会届けを提出し、正式に退会しました。

再発防止策と新しい取り組みで再スタート

――元会長は、日P会館改修工事にからみ、自らの利益を得る目的で知人関係にあった工務店に代金を水増し請求させ、差額の約1205万円を自身が関与する会社を通じて受け取ったとみられ、2024年7月に背任容疑で逮捕されました。一連の騒動をふまえ、再発防止策にはどのように取り組んでいるのでしょうか。

右から、2024年度さいたま市PTA協議会会長・郡島典幸(ぐんしま・のりゆき)氏、副会長・和田洋樹(わだ・ひろき)氏、副会長・小日向哲典(こびなた・てつのり)氏、事務局長・溝口景子(みぞぐち・けいこ)氏。さいたま市PTA協議会ホームページ
(写真:長島氏撮影)

郡島:このような不正が二度と起こらぬよう、会計規定においては「20万円以上の支払いは理事会承認が必要」「金額によらず、項目ごとに決算額を理事会に報告する」などチェック体制を強化したことに加え、「PTA活動総合補償制度」「児童・生徒ワイド補償制度」「個人情報漏洩補償制度」の内規においては「内規の遵守」の項目を追加し、本協議会役員と保険会社との協議内容は速やかに理事会に報告し、記録すること、この内規は補償制度を委託する保険会社や代理店にも共有し、内規遵守のために協力を要請することとしました。

また、予算・決算を通じて一般会計と保険口座で実施する事業の明確化を行い、一般会計・保険口座それぞれで収支が完結するようにしました。

――日P退会後はどのように運営しているのでしょうか。新しい取り組みなどについてご教示ください。

郡島:当協議会主導で、埼玉県内の協議会同士の情報共有を目的にLINEのオープンチャットを立ち上げました。また、当協議会と同様に日Pを退会した千葉市PTA連絡協議会さんが立ち上げた、日P加入非加入問わず全国の協議会の情報共有を行うLINEのオープンチャットにも参加し、必要に応じて事例を共有したり、困りごとがあれば相談したりしています。

また、当協議会では、毎年秋に市内の小・中学校PTA役員が任意で参加する「役員セミナー」を開催しています。今年度は優良PTA文部科学大臣賞表彰の2校による事例発表、広報紙コンクール最優秀受賞校によるパネルディスカッションを行いました。今後は講演や各校取り組みの共有など役員セミナーを少しずつ拡大し、全国大会や関東ブロック大会に代わる新たなつながりの場にしていけたらと思っています。

――オンライン化も進めていらっしゃるのですね。

和田:会議資料の共有や意見交換の効率化を目的に、昨年度よりクラウドサービスkintoneを導入し、本年度から運用を始めています。これまで、会議では資料の配布や意見の整理などに時間がかかり、議事進行がスムーズに行えないことが課題でした。kintoneを活用することで、事前に資料を共有し、ある程度意見や情報を共有したうえで活発に意見を交換でき、会議時間を有意義に使うことができています。

各校PTAの役員情報の収集やセミナーの出欠なども、従来の紙ベースから脱却し、デジタル化を進めることで、情報共有のスピードアップと正確性の向上が図れるよう準備を進めています。

――ほかにはどのような取り組みを行っていらっしゃいますか?

小日向:当協議会は10の行政区に分かれているのですが、各区ではさまざまな事業が行われています。事業の頻度や内容は区により異なりますが、例えば西区では、中学生のスポーツ大会や夏休み作品展の開催など、子どもたちの活躍の場を積極的に創出しています。

このような取り組みに対し、子どもたちが直接参加できるような事業に当協議会から補助金を出す「子どもの顔が見える事業」という制度があります。各区でこのような活動をより活性化できるよう、これまでの補助上限(1事業)5万円から10万円に引き上げ、前年度3月までの申請が必要だったものを、予算の範囲内であれば当該年度なら申請できるよう変更しました。

また、当協議会のホームページ内にある各区連合会の紹介コーナーを活用し、活動事例の共有や情報交換を促進する取り組みも行っています。

――さいたま市PTA協議会は、地域のP連の役割と存在意義についてどのように考えていますか。

郡島:P連が存在し、多くの学校が連携することで、行政への働きかけや大規模な災害時の支援活動など、単独の学校では難しいことを実現できます。

現に、2023年10月、「小学校3年生以下の子どものみで外出・留守番をさせることは『放置』で虐待に当たるとして禁⽌し、県民には放置されている子どもの通報義務を課す」という埼⽟県虐待禁⽌条例の改正案が提出されました。

この改正案は、保護者への精神的・経済的負担を強いるだけでなく、子どもの最善の利益を反映したものとは考えられず、当協議会ではこの改正案反対のオンライン署名活動を行いました。2万9000を超える署名が集まり、埼玉県に対し「埼⽟県虐待禁⽌条例の⼀部を改正する条例案」に反対する意⾒書を提出。改正案は取り下げられました。

埼⽟県虐待禁⽌条例の改正案反対のオンライン署名活動の周知を行った
(写真:さいたま市PTA協議会提供)

また、2024年1月の能登半島地震においては、被災地の教育委員会と連携し、各校PTAを通じて緊急支援募金を行いました。スケールメリットを生かし、関係各所と連携を取りながら大きな動きを働きかけることができるのが地域のP連の役割であり、存在意義であると思います。これからも、各校PTAの情報共有、コミュニケーションの場として会員の皆さんと共に学び、共に成長できるPTA活動に取り組んでいきたいと思います。

(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:Andrei_R / PIXTA)