②は、ケインズの「真正インフレ」(完全雇用でのインフレ)だけを考えるということを意味する。しかし不完全雇用下でのインフレはきわめてしばしば起きるから、上の想定は現実には意味をもたない。
また、政府が財政拡大あるいは引き締めを経済状態に応じて適切に実行すること、すなわち政府が“完璧に賢明かつ公正”であることを仮定しているが、この仮定は現実離れしていることをほぼすべての人が認めるであろう。
③インフレを止めるのは容易であるとの命題も重大である。日本の例で検討しよう。
近代日本が経験したインフレとして、明治初年、第2次世界大戦後、第1次石油危機時の3つを挙げることができる。
日本が最も悪戦苦闘した戦後インフレ
明治初期のインフレは、第2回でふれたように、貨幣の過剰から起こり、その整理=インフレ抑止には松方デフレ不況という深刻な被害を伴った。
第1次石油危機時(1973~1974年)のインフレは、財政拡大・貨幣増発(田中内閣によるディマンドプル)と資源価格上昇(コストプッシュ)の複合であった。実際のインフレは両側面の複合、あるいは一方で始まり相互促進の過程へ移ることが多い。そしてこのときもインフレ抑止は深刻な不況という副作用を伴った。
最も大規模で悪性、歴史に残る悪戦苦闘を強いられたのは第2次世界大戦後インフレであったから、特に取り上げる必要がある。
インフレ抑止は容易だと主張するのなら、この重大な事例を避けて通ることはできないはずだが、MMTが取り上げている例はほとんどみられない。筆者の知る限りでは中野氏だけであり、この点で頭一つ抜けている。
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