「共感性」「自己効力感」に変化をもたらす高齢者との交流

「おじいちゃん子、おばあちゃん子は優しい」「子どもと触れ合うとお年寄りは若返る」など――高齢者と子どもの世代間交流を考えるとき、その効果は漠然としたいいイメージで語られがちだ。だが次につながる取り組みにするには、感情のデータも可視化して検証することが欠かせない。そうした研究を続けているのが、東京都健康長寿医療センター研究所の「社会参加とヘルシーエイジング研究チーム」の村山陽氏だ。神奈川県川崎市の小学校では、次のような取り組みを実施した。

東京都健康長寿医療センター研究所の村山陽氏
(写真:本人提供)

「小学校の国語の時間7コマを利用して、高齢者ボランティアが6年生に読み聞かせの指導をするプログラムを行いました。児童5~6人に対して、1~2人の高齢者ボランティアがチューターとして付くグループワーク形式で、最後は6年生が1年生に向けた読み聞かせの発表会を行うというもの。このプログラムで子どもたちにどんな変化があったかを、さまざまな視点から調べてみました」

村山氏がまず注目したのは、ボランティアとの交流が子どもたちの「共感性(思いやりの気持ち)」に及ぼす影響だ。授業後の子どもへのインタビューや、アンケート調査によって、明確な変化が見えてきたと言う。

「交流授業で高齢者との親密さを高めることができた子どもたちには、共感力の高まりが見られました1)。インタビューでも『今まではそこまで人の気持ちを考えなかったけれど、この人どう思ってるのかなと考えるようになった』『お年寄りは聞き取りにくいこともあるから、滑舌よくはっきりしゃべるようにした』などと答える子どもがおり、高齢者の立場になって考える機会になっていたことがわかりました」

一方で、高齢者とのコミュニケーションを積極的に行わず、表面的な取り組みに終始してしまった子どもでは、共感性への効果はほとんどなかった。

「もともと、祖父母などの高齢者と同居している子どものほうが、核家族の子どもに比べて共感性のスコアが高いという傾向がありました2)。私が面白いと感じたのは、高齢者にどんなイメージを持っているかを子どもに挙げてもらったときの結果です。高齢者との接点がない子どものほうが、『優しい』とか『物知り』とかいった理想像を挙げやすく、反対に同居している子どもはそうでもなかった。高齢者の現実の姿、ネガティブな面も理解したうえで、思いやりの点では高いスコアを示していたのです3)

村山氏はこの点に着目して、さらに調査を行った。中学生を対象にした調査で「幼児や高齢者と関わる地域活動に参加する意識が高い」傾向が見られたのは、上記の読み聞かせプログラムを小学校時代に経験し、高齢者ボランティアと親密になったことのある子どもたちだった。また、高校では地域ボランティアとの交流を通じ、生徒の自己効力感がどう変化するかを調べた4)。ここでも自己効力感を向上させることができたのは、やはり世代間交流の経験を持つ生徒たちだったという5)

男の子と高齢女性の手芸クラブが広がったきっかけは

「いろいろな年齢の子どもを調査した結果として見えてきたのは、世代間交流の場だけを作っても効果は生まれにくいということです。高齢者や異世代とのコミュニケーション経験がない子どもたちは、高齢者とどう接していいかわからず、交流を深めることもなかなかできない。育った家庭の環境や親の姿勢が、小学校での高齢者ボランティアとの接し方に反映され、そのまま中学校、高校へ持ち越されていた。年齢が上がれば自然とできるようになるものでもないのです」

場を作るだけでは、世代間交流はうまくいかない。村山氏は、それを示すもう1つの実例を挙げた。

「世代間交流を目的にした公的施設で観察調査をしていたときのことです。そこでは高齢者同士が麻雀を楽しんだり、放課後の子どもたちがカードゲームで遊んだりしていました。私は約半年間観察を続けていましたが、異世代間での交流はほぼゼロでした」

村山氏が高齢者に行ったインタビューでは「(若い人とは)話題が合わないんじゃないか」「老害とかいう人もいるでしょう」とか、「おばあさんとなんて遊んでくれないんじゃないかしら」など、こちらも異世代に対して不安を抱いていることがわかった。しかし、その状況を変えたこんな出来事もあった6)

「その施設に来ている小学生の男の子で、手芸が大好きな子がいました。彼が手芸に興味があること、高齢者のグループに手芸が得意な女性がいることを、施設のスタッフが知っていた。そこでそのスタッフは、『一緒にやってみたらどう?』と2人を結びつけたのです」

最初はスタッフを含めた3人で、小さな「手芸クラブ」がスタートした。半世紀以上の年の差がある2人は、手芸を介して徐々に仲良くなっていく。やがて施設のスタッフは退職してしまったが、2人の活動は続いた。すると今度は男の子の友達や、高齢女性の友達がクラブに参加してきた。

さらには男の子の母親、もっとほかの子どもや高齢者も加わり、交流はどんどん広がった。初期メンバーの2人がいないときでも、それぞれにコミュニケーションができる関係が成立したという7)。ここからわかることは、世代間交流においていかに「仕掛け」が大切か、そして「コーディネーター」となる人材が重要かということだ。

「成功している幼老複合施設などでは、高齢者を担当する介護士と、子どもを担当する保育士との交流も活発です。双方の資格を持っている職員がいたり、互いに勉強会を開いたり。世代間交流はとても魅力的な取り組みですが、その場をつなぐ人材をどう育成するかが非常に重要なカギなのです」

「仕掛け」と「コーディネーター」を軸に学校で取り組みを

前述の読み聞かせボランティアの取り組みでも、反省と改善が行われている。まず「仕掛け」であるコンテンツに問題はなかったか。ここでの仕掛けは6年生が1年生に読み聞かせをする技術を身に付けることだが、これには子どもたちも興味を持ち、楽しんで取り組んでいた。最終的に発表会があるという点も、彼らのモチベーションを高めている。

それならと、ボランティア団体は「コーディネーター」に着目した。その後の交流授業では、この学校の元保護者であり読み聞かせの実技指導者でもあるAさんがコーディネーターとなり、交流授業プログラムの内容を熟慮のうえに練り上げている。

「積極的に高齢者と交わらない子どもには、ボランティアの側から適度な働きかけがあるといいでしょう。それを高齢者に意識してもらうこと、一人ひとりの子どもの特性を知っておくことも必要なので、全体に目を配るコーディネーターの存在は大きいと思います」

村山氏が語るこうした役割を果たしているのがAさんだ。子どもたちにとっては自分の親に近い世代でもあり、教員にとっても高齢者より身近な存在であるコーディネーター。子どもと高齢者、高齢者と教員をもつなぎながら、例えばどのボランティアとどの子どもを同じグループにするかなど、学校と高齢者ボランティアと調整および連携しながら緻密に設計しているそうだ。

「世代間交流は場を作るだけで必ずしも夢のようにうまくいく取り組みではありませんが、近年の『居場所』の活動にも必要な発想だと思います。意志を持って取り組む人たちの増加によって、成功例も増えています。世代間交流が効果を生んでいる自治体や施設では、子どもが長じて保育士や介護士を目指したり、職員として施設に戻ってきたりするようなケースもあります」

村山氏は、世代間交流が進みにくい理由の1つとして、親世代も核家族で育っていることを指摘した。

「親自身も高齢者との接し方がわからないことが多く、そうした家庭の意識が子どもにも影響していると思います。この点をクリアできればもう少し社会も変わると思うので、そうした意味で、学校で広く取り組むことの意義は大きい。先生方がゼロから授業を作るとなると大変ですが、熱意や経験のある高齢者ボランティア団体も存在します。ぜひそうした人たちの力を借りてみてほしいですね」

参考文献
1)村山陽ほか(2021). 小学校における高齢者の読み聞かせボランティア活動が児童の共感的関心の向上に及ぼす影響,日本世代間交流学会誌 11(1) 13-22.
2)村山陽 (2009) 高齢者との交流が子どもに及ぼす影響,社会心理学研究25(1) 1-10.
3)村山陽 (2007) 子どもたちの抱く「高齢者イメージ」 : 社会的表象理論の視座からの分析, 人間と社会の探究 65 43-54.
4)村山陽ほか(2012)小学生時の世代間交流が中学入学後の地域交流参加意識に及ぼす影響,老年社会科学 34(3) 382-393.
5)Yoh Murayama et al (2022) Effects of Participating in Intergenerational Programs on the Development of High School Students’ Self-Efficacy, Journal of Intergenerational Relationships, 20:4, 406-423
6)村山陽ほか(2014). 高齢者が若者に抱く世代差意識とその対処方略についての探索的研究,日本世代間交流雑誌, 4, 95-101.
7)村山陽 (2013). コミュニティにおける世代間交流 (加藤潤三ほか(編), 『コミュニティの社会心理学』),  pp.211-228.) ナカニシヤ出版.

(文:鈴木絢子、注記のない写真:buritora / PIXTA)