小学校「通常学級・特別支援学級・通級指導」の選び方

文部科学省が2022年に行った「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」によると、「知的な発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」発達障害の可能性があると思われる児童生徒の数は8.8%で、10年前の6.5%から増加している。

なぜこんなにも増えているのかについては、発達障害に対する認知が広がったことが理由の1つとして挙げられるが、現場の先生ならば、学校におけるさまざまな活動で困難があり、支援が必要な子どもが増えているという実感は多くが持っているのではないだろうか。

発達障害には、他者とのコミュニケーションを苦手とする自閉症スペクトラム障害(ASD)、読み書きや計算することに困難が生じる学習障害(LD)、集中力がない、じっとしていられないといった症状がある注意欠陥・多動性障害(ADHD)などがある。また発達障害の特性は見られるものの診断までには至らないグレーゾーンの子も増えている。

診断の時期は、3歳児健診で発達障害の可能性を指摘される子もいるが、保育園・幼稚園までは問題なく過ごせていたのに、小学校入学を機に困りごとが出てくるケースは多い。

「小学校に限りませんが、学校に入ると先生の話を聞く、みんなで同じ授業を受ける、決まった時間に決まったことをするなどの集団行動が増えます。発達障害の子どもの中には、それらに対応するのが難しい子もいます」

森谷一樹(もりや・かずき)
Kaien 教育事業部 TEENS
(写真:本人提供)

こう話す森谷一樹氏は、発達障害のある人の就労や自立を支援する企業、Kaienで発達障害のある子どもに向けた教育事業を行っている。森谷氏は、公立小学校に入学する際、発達障害やグレーゾーンの子には、3つの選択肢があると話す。

「1つ目は多くの子どもが通う通常学級への就学。2つ目は障害のある子どもが個々に合った指導計画の下で学べる、1クラス上限8人の特別支援学級。3つ目は通級による指導です」

通常学級は多くの子どもたちが通う一般的なクラス。児童35人に対し先生が1人と、自分のペースで過ごしにくいこともあるが、加配制度を活用して教員や支援員のサポートを受けながら通常学級で学ぶ子もいる。だが、すべての学校に加配があるわけではないため注意が必要だ。

特別支援学級では手厚いサポートが受けられ、子どもによっては通常学級の授業に一部参加できることもある。特別支援学級の数は増えており、在籍する児童生徒数も、22年度は35万人以上に達している。ただ、すべての小学校に設置されているわけではなく、学級数は自治体、学校によって異なっている。

通級は、通常学級に在籍しながら、特別な支援が一部必要な場合に通級指導教室が設置されている学校に通って指導を受けるのが一般的だ。例えば、おおむね通常学級での生活に問題はないが対人関係だけが苦手という子どもは、通級で改善や克服を目指した指導を受ける。通級による指導を受けている児童生徒の数も増えており、20年度は16万人以上に達している。

出所:文科省「特別支援教育の充実について」を基に東洋経済作成

そのほかにも発達障害の子に向けたサポートのある私立学校などがあるが、こうしたいくつかの選択肢の中で、保護者は子どもの就学先をどのようにして決めたらいいのだろうか。長田耕氏は次のように話す。

長田 耕(ながた・こう)
Kaien 教育事業部 TEENS
(写真:本人提供)

「健診などで発達障害の可能性があると診断されたり、子どもの行動に不安がある場合、自治体に就学支援について相談をすることができます。そこで専門家が面談、検査などを行い、子どもに合った就学先を提案します。ただ必ずしも提案に従わなければいけないわけではなく、最終的にどうするか決めるのは保護者です」

もし特別支援学級に就学する提案を受けても、保護者が大丈夫だと判断すれば、通常学級で様子を見ることができる。ただ通常学級では、十分な支援を受けられないことも多く、学年を重ねる中でこのままでは難しいと判断した場合、途中で所属級を変えることも可能だ。

「グレーゾーンの子どもの場合は小学校3年生くらいで、やはり通常学級では難しいと保護者が判断することがありますね。途中で変更したい場合でも、現状は希望が通らないことは少ないです。ただ学年の途中で変えるのは一般的に難しく、年度替わりで変わることになると思います」(長田氏)

中学卒業後、高校進学時に広がる選択肢

中学校でも、公立は同じように通常学級、特別支援学級、通級指導があり、私立でも特別な支援に力を入れている学校がある。私立に入学するには受験があるため、ある程度の学力が必要となるが、学べる環境を選べるというメリットがある。また不登校の子は、自治体が設置する適応指導教室や民間のフリースクールに特定の学校に所属しながら通うなどの選択肢もある。

「中学校入学時にも、保護者は公立中学校の相談室や教師と、子どもの就学先について相談する機会があります。小学校での過ごし方がポイントになっていますが、保護者の考えと行政(教育委員会)の考えが別の場合もありえます。保護者・本人の希望は受け取りつつも、行政と学校側のリソース含め、対応可能かどうかも加味して案内されています」(長田氏)

高等学校になると全日制の公立、私立に加え、通信制高校、通信制に通う生徒を支援する通信制サポート校、高等専修学校、定時制高校、専門学校などさらに選択肢は広がる。公立に進学する子が多いが、最近では通信制高校、通信制サポート校を選ぶ子も多いという。

「通信制には、発達障害の子どもが学びやすい環境がそろっています。中学校の勉強でつまずいたところはさかのぼって学習ができますし、最近は通信制といっても週に何日か通える学校もあります。1年生は週に1回、2年生は週に3回など、個人のペースや希望に合わせて幅広く選べるのが魅力です。また芸術やスポーツ、ファッション、プログラミングなど、さまざまなジャンルの専門コースがあるのもメリット。自分の興味に合うものを見つけやすく、将来にもつながりやすいと思います」(森谷氏)

早めにサポートを受け、自己理解を深めるのが大切

高校卒業後は、学びを求めて大学や専門学校へ進む、あるいは就職するなど進路は分かれる。その際の選択で大切なのは、本人の希望や適性に合っているかどうかという視点を重視することだ。

大学に進学しても、頼れる人がおらず、中退してしまう子も多くいる。大学では履修登録など主体的に考えなければならない場面が多く、友達などとのつながりも自身でつくらなければならないからだ。発達障害の学生向けに相談室を設けているなど、支援が充実している大学を選ぶのも一つの手。また必要に応じて合理的配慮を求めるなど、困ったら自分で助けを求めることも大事だという。

たとえ大学生活をうまく過ごせても、どこに就職したらいいのかわからない、就職先が見つからないという子もいる。そのため、働く準備をしてから社会に出るという選択をする子もいる。自立訓練(生活訓練)や就労移行支援など、発達障害の子が働く準備をするためのサービスがあり、自分の適性と向き合うこともできる。

ちなみにKaienでは、模擬職場での体験や訓練、書類作成の手伝いや面談練習などで、発達障害の子の就職サポートを行っている。

「このようなサービスを行っている場所はたくさんあります。私たちとしては少しでも早く自分をサポートしてくれる、人やサービスにたどり着いてほしいと考えています。発達障害やグレーゾーンの子どもの中には、高校卒業時の進路を決める直前まで、いっさいサポートを受けたことがないという子もいます。今まで周りが決定したことに従ってきたため、いざ将来について考えたときに、自分の進む道や適性がわからないという子が少なくないのです」(長田氏)

早くからサポートを受けることで、いったい何が変わるのだろうか。

「将来について考えるときに、もちろん夢に挑戦することは大切です。ただ自分のことをしっかりと理解していないと、長くは続きません。例えば、保護者が子どもを見て生活しづらそうだと感じていても、子どもはそう思っていないこともあります。この認識の差が大きいと、子どもは自分に合った道を見つけるのは難しいのです。適切なサポートの中で、子ども自身がしっかりと自分をモニタリングできるようになることが大切です。そうすることで自己理解が進み、安定して働ける場所が見つかりやすくなります」(森谷氏)

そのためにも、できるだけ小さい頃から専門の支援やサービスを受けることが重要ということだろう。自分が苦手なことを周りに伝えることができれば、適切な支援を受けられ生活もしやすくなるからだ。

現在、都市部では、発達障害のある子に向けた支援やサービスが充実している。保護者には子どもの特性を踏まえて、子どもがどこにいると安心して活躍できているか、ぜひ見てほしいという。

そういう場所で育つことで自己肯定感が伸び、自己理解が深まり、自分に合った決断ができるようになる。子どもに合った特性を早く知るためにも、保護者は子どもが小さいうちから普段の生活をよく見ておきたい。

(文:酒井明子、編集部 細川めぐみ、注記のない写真:kapinon / PIXTA)