米国大学や入試方法の基本知識とエッセイの課題例

山脇 秀樹(やまわき・ひでき)
米ピーター・F・ドラッカー経営大学院教授 慶応義塾大学経済学修士課程修了後、ハーバード大学で経済学博士号を取得。ベルギーのルーヴァン大学や米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で教授、客員教授を務めた後、ドラッカー経営大学院の教授、副学長、学長を歴任した

山脇秀樹氏が教授を務めるドラッカー経営大学院は、米カリフォルニア州クレアモントにあるリベラルアーツカレッジ5校と、大学院2校で構成されるコンソーシアム「クレアモントカレッジズ」の大学院の1つ。

カリフォルニア州内には、

・クレアモントカレッジズをはじめとする私立のリベラルアーツ系カレッジ

・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)など10キャンパスからなるカリフォルニア大学システム(UCシステム)

・23キャンパスで構成されるカリフォルニア州立大学といったパブリックユニバーシティー(公立大学)

・スタンフォード大学やカリフォルニア工科大学、南カリフォルニア大学などのプライベートユニバーシティー(私立大学)

と多くの大学がある。また、2年制の公立のコミュニティーカレッジもあり、そこからUCシステムの大学に編入するルートは日本人ら留学生に使われている。

総合選抜型入試では、学力テストや高校の成績だけでなく、エッセイなどを通じて示される志願者の人物像と、大学の期待する学生像とマッチしているかも大きなカギとなる。カリフォルニア州内だけでも多様な大学があり、求められる学生像もさまざまだ。山脇氏は「生徒側も、大学のブランドや難関度だけでなく、大学が求める学生像やキャンパスレビューで感じた雰囲気を重視して大学を選ぶ」と説明する。

米国大学の総合選抜型入試で、共通学力テスト(SATやACT)が考慮される平均的な割合は25%程度しかない。残り75%は、GPA(高校の成績評価)や、複数の大学共通で利用できるサービス「コモンアプリケーション」などを通じて大学に送るエッセイや推薦状などの入学願書が占める。

エッセイの課題では、

・「あなたのしたチャレンジは何ですか。どう克服し何を学びましたか」といった、チャレンジやリスクテイク

・「常識的なことについて『これは違うのでは』と思ったことがありますか。それにどうアプローチしましたか」といった、常識を覆すアプローチ

・「ほかの人に感謝されたことはありますか」といった、コミュニティーへの貢献

 

――などが問われる。

そのエッセイを通じて示される人物像が、大学が期待する学生像と合うかが重要になるわけだが、山脇氏は「コロナ禍でSATやACTが受験できない中で、学力テストを考慮しないと宣言した大学もある。大学側はリーダーシップ活動やコミュニティーへの貢献度をより重視するようになっていて、部活動の大会成績など課外活動を含め多様な要素を考慮する。学力テストの割合が下がる傾向は今後も強まるのではないか」と話した。

入試を突破するエッセイと推薦状を書くための4ステップ

エッセイでは、志願者自身のやりたいこと、ブランド、パーソナリティーを示して、「だから、この大学は自分に合っている」というナラティブ(自分の物語)で読み手を引きつける必要がある。魅力的なナラティブを書くには、自身を見つめ、将来を考える体系的なアプローチを積むことが求められる。そのアプローチを、参加者の教育関係者たちが自ら体験することで理解を深めてもらった。

ワークショップでは、ステップ1として「自分を知る」ことから始めたこの2週間で「エネルギーを感じた」「情熱を持って専念した」「没頭した」活動と、そこからパッと連想される言葉を書き留める。続けて、それらの言葉からすぐ思い浮かぶ言葉をさらに書き出す。このマインドマッピングは心理の深層をあぶり出す手法で、後から連想して書いた言葉が、本当に好きなことにつながっていると考えられる。ここから将来プランをデザインできるのだ。

ステップ2は、自分のブランドを探った。ブランディングは、ほかの志願者と自分の立ち位置の違いを戦略的に示すものであるため、「自分はこの大学に合っている」とアピールするナラティブに必要不可欠だ。参加者はチームに分かれて自分のブランドのナラティブを語り、ほかのメンバーの反応を聞くワークをした。

ステップ3は、エッセイのテーマや、大学で研究したい課題を探求した。課題・テーマは「自分が本当にやりたいテーマ」であるとともに、自分の体験や経験から見つけたものであるという点も重要になる。身近にあることの「観察」から、「体験・経験」を基に「洞察」して、「しっくりしない」という不調和を解決したり、新しいプロセスを提案したり、従来の認識を変えたりすることがイノベーションにつながる。

例えば米国では、金髪白人のバービー人形に代わって、髪、顔、肌の色や形をカスタマイズできるアメリカンガールという人形が登場している。この背景には、米国社会の人種構成の変化があると洞察できる。参加者は小グループに分かれたワークで、新しい工夫や変革、イノベーションのきっかけとなる例を探した。

ステップ4は、自身の人物像を示すうえで重要となるビジョンや世界観について扱った。企業にとって、顧客に何を提供してどんな世界をつくり、どんな会社になりたいか、というビジョンは大切だ。同様に総合選抜型入試(AO入試)のエッセイでも、「私は何になりたいのか」「達成したいゴール」を示さなければならない。ただし、自身の活動経歴と、これからの目的・やりたいことが矛盾してしまうと、大学側には志願者の人物像が伝わらない。山脇氏は「インテグリティー(統一性)が欠かせない」と強調する。

エッセイと並んで重要な推薦状について、米国の高校生は1年生の終わり頃までには推薦状を書いてもらう教師を決め、コミュニケーションを深めていくそうだ。「どう優秀なのか。具体的に掘り下げた内容が求められる」と山脇氏は説明した。

最後に、クレアモントカレッジズで教鞭(きょうべん)を執った経営学者・ドラッカーの「未来を予測する最良の方法は自分でつくることだ」という言葉を引用した山脇氏は、「生徒たちは自分で未来をつくるという気概を持ってほしい。そのためには新しい発想・やり方、イノベーション・変革が必要になる。米国的な考え方かもしれないが、それが米国の高成長を続ける原動力になっている。恐れずに前を向いて自ら進んでいく姿勢が浮き出る出願書類になればいいと思う」とまとめた。

(文:新木 洋光、注記のない写真:梅谷 秀司)