海外の子どもは軒先でレモネードを売り稼ぐ

塚本俊太郎氏は、もともと外資系運用会社などで20年以上キャリアを積んできた。その後、金融庁で高校家庭科の金融経済教育指導教材や小学生向け「うんこお金ドリル」の作成を担当。現在は金融教育家として金融リテラシーや資産形成について発信・講演を行うほか、日本金融教育推進協会理事なども務めている。塚本氏は、家庭での金融教育についてこう語る。

塚本俊太郎(つかもと・しゅんたろう)
金融教育家
日本金融教育推進協会理事、グリーンモンスター株式会社顧問、日本CFA協会執行理事
元・金融庁の金融教育担当
(写真:東洋経済撮影)

「学校で金融教育が拡充され、家庭でも対策をしなければと慌てている方もいるでしょう。しかし、肩ひじ張って考える必要はありません。日々の生活の中で、少しずつお金について触れていくだけでよいのです。例えば一緒にスーパーに行ったとき、目の前の野菜が高いのか安いのか。別の場所で買うとどのように価格が変わるのかを教える。重要なのは、将来自分でやり繰りをする際に困らないよう、いろいろな体験をさせることです。500円をあげて、どうやり繰りすれば欲しいものが買えるのか、ときには失敗しながら、自分の頭で考えることが大切です」

海外と比べて後れを取っているといわれる日本の金融教育。米国の家庭では、どのような教育が行われているのか。

イメージ(写真:bst2012 / PIXTA)

「米国の家庭ではかなり手厚い教育が行われていると感じます。よく聞くのが、自宅の軒先で自家製のレモネードを売るという体験です。子どもたちは、大人からもらった初期費用で材料を仕入れ、自分でレモネードを作り値段をつけて近所の人に売るのです。そして、どう工夫すればどのくらいの利益が出るのかを身をもって体験します。ここで興味深いのは、米国では近所の人たちが教育目的で買ってくれるということです。実際には欲しくなくても、子どもの教育に協力してあげようという意識があるのです。ほかにも、ガレージセールで要らなくなったおもちゃを売らせるなど、米国の親は積極的に子どもに商売体験をさせています。周りの大人の協力が必要となると、日本ではなかなか同じようにはいかないかもしれません」

家庭内企業やキッズフリマでお金に親しむ

では、日本の家庭ではどのように子どもをお金に親しませればよいのだろう。

「日本では比較的、子どもにお金の心配をさせたくないと思う家庭が多い気がします。例えば高校生にも、大学進学にどれくらいかかるか伝えることは少ないでしょう。でも、もし自分の進学に必要な額を知れば、もっと一生懸命勉強するかもしれないし、親への感謝も高まるかもしれない。家庭でも身近なところから積極的にお金の話をして、お金がどう使われどう回っていくのかを知ることが、社会の仕組みを知ることにもなるのです」

家庭の金融教育の一歩ともいえるのがお小遣いだろう。毎月数百円~数千円の定額を渡す、あるいはお手伝いの対価として渡すなどのやり方があるが、これはどちらも一長一短で、結局は家庭ごとの価値観に基づくので問題ないと塚本氏は語る。また、塚本氏が効果的だと言うのが「家庭内起業」だ。米国のレモネードとは異なり、子どもは家族内で店を開いたりサービスを提供したりする。

「ほかにも、小学生だけでやり取りするキッズフリマも注目されています。値付けや値段交渉、利益についても学べるため、家庭内企業と合わせて効果的な方法といえるでしょう」

株式投資や資産形成の勉強にお薦めのツールを紹介

一方で、一般的に「金融教育」と聞いて連想される株式投資や資産形成はいつ頃から教えればよいのか。

「中学生ごろから触れるとよいでしょう。ただし、あくまで経済の仕組みを学ぶことに重点を置きます。高校生になったら、『株式投資とは?』『投資信託とは?』といった個別の知識を身に付けていきます。とはいえ、社会人になって本格的に始めるまでの準備程度で問題ありません。若いときはむしろ英語やプログラミングなどの自己投資を優先してほしいです」

もし実践的な勉強をしたいときは、株式投資なら月々100円からできるつみたてNISA、資産形成の擬似体験なら証券知識普及プロジェクトの体験型教材である「金融クエスト」(学校の授業での利用を前提に、教員にのみ無償提供)や、日本経済新聞社グループの情報企業QUICKの「資産形成王」(現在は要望のある学校向けに「特別授業」として展開)。あるいは、株式投資のデモトレードツールを使うのがお勧めだという。

「金融クエスト5」の生徒用テキストの一部。テキストは学校の授業での利用を前提に、教員向けに無償提供されている(教材提供の対象者は教員のみ)
(画像:日本証券業協会提供)
資産形成や金融を学べるカードゲーム「資産形成王」。さまざまな「イベント」を乗り越えながら10ターン中に最も資産を増やした人が勝つ(教材提供については学校・金融機関の金融教育担当者・行政からの問い合わせのみ個別応対)
(画像:QUICK提供)

「株式投資の勉強においては、値動きそのものを見るよりも、実はそれぞれの企業がどんなものを作って、どうやって収益を上げているのか知るほうが役に立ちます。例えば、米国著名起業家のイーロン・マスクはどのような考えでビジネスを行っているのか、それがどのように世の中のためになっているのか、など企業を通して社会を見ることも大事なのです」

成年年齢の引き下げで被害に遭う若者が増加

そもそも、なぜ学校で金融教育を行うことになったのか。その理由の1つが、若い世代の金融トラブルの増加だ。とくにSNSを経由した詐欺まがいの事案が多発している。2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられ、クレジットカードを持つなど若くして大金を扱える時代になったことで、早くから金融リテラシーを身に付けることが必須となった。しかし、日本の金融教育には課題もある。

「金融教育の拡充が行われた点は喜ばしいのですが、家庭科の授業で金融教育に割ける時間は年に数時間程度。かなり詰め込んで教えなければならず、適切な授業構成や教え方を考える先生にとっても負担が大きくなっています。金融教育は株式投資だけでなく、住宅ローンや金利など社会人になってからも段階的に学び続けていかなければなりません。その意味でも、小学校、中学校、高校とそれぞれの成長段階に合わせて、必要なレベルまでの内容を扱うことも大切でしょう」

教材は出所に注意、授業は身近な話題から

実際に、小学校はお金の歴史から役割や重要性、中学校は経済の仕組みからクレジットカードなどキャッシュレスの意味、高校は家計管理やライフプランニング・資産形成というように、教育内容は年齢ごとに拡充されていく。それぞれの到達目標については、金融経済教育推進会議が作成した「金融リテラシー・マップ」を参考にするとよいと塚本氏は言う。

塚本氏が高校で実施した金融教育の授業の様子
(写真:塚本氏提供)

「先生方も、金融教育を難しく考える必要はありません。私の元にも教員研修の依頼がきますが、日々の生活の中からトピックを選んで授業をつくっていけばよいのです。例えば今なら、インフレでしょうか。『なぜこれほど物価が高騰しているのか』『インフレで得する人、損する人は誰か』など、身近な視点で生徒とディスカッションをするところから授業を始めてみてください。授業で使う情報やツールについては、金融庁や日本銀行など公正中立な組織が出しているかどうかを事前に確かめるようにしてください」

最後に塚本氏は、将来の金融教育の方向性を語った。

「まず重要なのは、生徒一人ひとりが金融や経済に興味を持つことです。そうした生徒が増えれば、学校で確保できる授業時間や取り組みもさらに拡充されるでしょう。その後は、大学生や社会人向けに中立的な金融教育をする場が出現してもよいはず。社会を生き抜くために、あらゆる世代が金融教育を学べる。そんなプラットフォームがつくられるべきだと思います」

(文:國貞文隆、注記のない写真:shimi/PIXTA)