記事の目次
「スクラップ&ビルド」ができない教員が多い
保護者から24時間対応を要求、見下されることも
「タダ働き」する姿を子どもに見せるべきではない

「スクラップ&ビルド」ができない教員が多い

土佐兄弟・卓也(以下、卓也):今日は集まっていただきありがとうございます。ぜひ、先生方がリアルに感じている教育現場の課題や、仕事のやりがいなどを聞きたいです! よろしくお願いします。

先生一同:よろしくお願いします。

卓也:「教員、忙しすぎる問題」はニュースでもたびたび目にしますが、実際どのような状況なのでしょうか? 学校でも働き方改革が進められているようですが、ぶっちゃけ成果は出ていますか?

A先生

正直、業務量に対してそもそも教員数が足りないので忙しさに変わりはないです。最近はICT教育も始まっており、いずれ軌道に乗れば楽になるのでしょうが、現状はやることが山積の状態。予算も人も増えない中で、社会から現場の物理的なキャパを大幅に超える内容を求められており、パンク状態です。

B先生

文部科学省の試算によれば、現在の教員の勤務実態に応じて残業代を支払うと、額は年間9000億円にも上るそうです。

「職員室に定点カメラを設置して映像を公開したら、涙なしには見られませんよ」と語る先生

卓也:まじっすか! その分タダ働きってことですよね。

C先生 

サラリーマンを経験した身としては、教員の業務は会社員とはまったく異なり、個人的には実質的な負担が大きい感覚があります。授業をプレゼンテーションに例えれば、1回50分間のプレゼンテーションを毎週20数回行うわけです。それに加えて、テスト作成や課題作成、進路の相談や保護者対応などもあります。時間さえあれば働き方を改善したい気持ちはやまやまですが、そこに割く余力が残っていないんです。

B先生

スクール・サポート・スタッフ(教員業務支援員)を採用する学校も増えていますが、実感としてはそのスタッフとのコミュニケーションに時間がかかる。いちいち仕事を教える時間があるなら「自分がやったほうが早い」ってなっちゃうんですよね。

卓也:なるほど、環境が整うまでの段取りを組む余裕もないと。とにかく目の前の業務をこなすことだけで、いっぱいいっぱいという状態なんですね。

B先生

ただ、教員側にも問題があると思っています。校務支援のICTツールをうまく活用すればもっと業務効率化を図れるのですが、教員は「スクラップ&ビルド」の発想が苦手です。とりあえず去年と同じことをしていれば間違いないだろうと考えるので、「これからどうしようか」ではなく「去年はどうだったの?」となるのです。

そのため、ツールの目的もあくまで「従来の業務をどうやりやすくするか」。業務をスクラップせずに新たな仕組みを「ビルド&ビルド」するので、ツールを入れても結局負担が変わらない。例えるなら、デジタル保存できるデータをわざわざ印刷してファイリングしているようなものなので、先生個人の範囲で業務がスクラップできることは知ってほしいです。

C先生

確かに、小テストやプリント作成、欠席連絡などは、ツールのおかげで楽になりました。ただ、学校内にはICTが苦手な先生もいます。「若手に聞けばいいや」と思っているのか、調べもせずに毎回聞いてくる人もいますね。そして「あの先生に聞けばわかる」と耳にした別の先生も集まってくる。内心、聞いてくる先生のほうが2倍ほど高い給料をもらっているのでモヤモヤしますね。正式にICT担当として任命されて、ほかの業務が減ったり、手当があったりするなら喜んでやりますが、そうではないので……。

A先生

国も学校も、教育現場は結局、教員の善意に頼りきっているんですよね。やる気のある先生とそうじゃない先生とで差があるのに、待遇は変わりませんから。とはいえ、もし毎月10万円給料が上がるなら話は別ですが、そうでもない限りは正直頑張らないほうが楽だと思ってしまうのも仕方ない気がします。

保護者から24時間対応を要求、見下されることも

卓也:僕ら芸人の世界は完全に実力主義でほとんど歩合制ですが、もしも教育界が出来高制になったら、状況は好転するでしょうか?

「社会の常識は教員の非常識、とか言っている場合じゃないですよね」と話す卓也氏
A先生

確かに活性化はするでしょうが、教員になる人は給料の安定を求めているところもあるので、圧倒的になり手が少なくなって、結局仕事が回らなくなると思います。

卓也:うーん、なかなか難しい問題ですね。

B先生

本当は、校長がもっと改革に乗り出すべきです。そもそも、文科省は校長に教育現場を変えてほしいと思っているので、改革するのに十分な権限を与えているはずなのです。なのに、アイデアが国から自治体、教育委員会、校長会、そして学校、と下りてくる間に、「うちだけ違うことはできないから、他校の様子を見よう」と保留にされてしまう。だから何も変わらないんですよね。このままだと、日本の教育やばいっすよ。

A先生

難しいのが、改革に興味があっても、校長になりたがる教員はほとんどいないことです。大変なだけなので。それに、改革に積極的な教員ほど、上から見れば厄介者ですから、評価されにくいという事情もあります。

B先生

同意です。私は、何より教室で授業をしたくて先生になったので、校長という仕事には魅力を感じないですね。卓也さん、民間校長をやってみたらどうですか?

卓也:いやいや(笑)これは根深いぞ……。実は、娘が来年から小学校に入るのですが、先生の負担には保護者関係のものも多いですよね? 僕は、学校でのことはなるべく先生に任せようと思っていますが、保護者のスタンスが変われば先生も楽になるんじゃないでしょうか。

C先生

僕、かつて保護者から「生徒は24時間生徒なんだから、先生も24時間先生でいてください」と言われたことがあって(笑)。遅い時間に連絡してくる保護者もいますし、生徒も連絡ツールのClassi(クラッシー)などで勉強や進路の真剣な悩みをメッセージで送ってくるので、なかなか無下(むげ)にはできません。とくに受験の出願期限が迫っている場合などは、真夜中でも対応しないわけにはいきませんよね。僕を含めてですが、教員は相手に尽くすのが好きな人が多いので、どうしてもボランティア精神で対応してしまうんですよね。

卓也:いや~、それは頭が下がりますね。

A先生

今の保護者のボリュームゾーンは昭和の教育を受けてきた人たちなので、若い先生たちの感覚とはギャップがあるかもしれませんね。最近よく思うのが、「保護者の方々はもっと教員のことを信じてほしい」ということです。高学歴の親御さんに多いのですが、正直「下に見られているな」と感じることもあります。それが子どもにも伝播してやがてクラス全体が教員をバカにし始めると、収拾がつかなくなってしまいます。

C先生

多様な保護者がいる中で、国からのトップダウンで対応方法が定められているのは難しい部分ですが、教員はプロとして定められた時間内・期間内で必要な教育を行っているので、信じて委ねてほしいです。

卓也:保護者も、先生のやり方を真っ向から否定するんじゃなくて、少なくとも大人同士の会話のマナーは心がけるべきだと思います。子どもは、そうした親の理不尽な要求や偏見もしっかり見ていますから。どちらのほうが教育に悪影響なんだろう、と。

「タダ働き」する姿を子どもに見せるべきではない

B先生

ただ最近は決してネガティブなことばかりではなく、教育現場の問題がメディアで取り上げられるなど情報の透明化が進んだことで、声を上げやすくなったとも感じます。例えば、労働基準法第36条に基づく労使協定などは、今まで誰にも教えてもらえませんでしたが、ネットで知識を得たことで各所に労働環境の改善を交渉しやすくなりました。学校は未来の大人を育てる場所です。そこで大人たちが滅私奉公している姿を、子どもに見せるべきではないでしょう。主張すべきことは主張する姿勢を背中で見せようという風潮も、少しずつ現場に浸透してきた気がします。

卓也:いろいろな苦労がありつつも、皆さんこの仕事が大好きで、教員という役割のすばらしさを誇りに思っていることには変わりないんですよね。僕も、誰かを笑わせたいという一心でお金儲けは二の次で芸人をやっているので、もしかしたら先生方とも似ているのかな……なんて思ったり。

お話を伺って、教育現場の労働環境も少なからず前進していることがわかりましたが、まだまだ改善点はありますね。そして僕たち保護者は先生を悪者にする前にまず、子どもの教育の第一責任者は自分だという自覚を持つべきかもしれません。そのうえで、先生と手を携えて子どもを育てる意識が必要なんですね。気づきの多いお話ばかりで、勉強になりました! 本日はどうもありがとうございました!

(文:末吉陽子、撮影:今井康一)

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