海外大学で先進分野を「長く・深く」学ぶ意義

海外トップ大学進学塾 Route H。2008年の開塾以来、米国のハーバード大学やイェール大学、プリンストン大学に10年以上連続で合格者を輩出している。塾長の尾澤章浩氏は、海外大学進学の意義を次のように説明する。

尾澤 章浩
ベネッセコーポレーション 海外トップ大進学塾 Route H塾長
(写真はRoute H提供)

「キーワードは『多様性』です。米国や英国などの名門大学は、学内にグローバルなコミュニティーを形成するため、世界各国から意図的に多様な学生を集めます。国や文化の違う仲間から受ける刺激は大きく、こうした環境で豊かな感性が磨かれます」

とはいえ、海外で学ぶには日本の大学から留学する選択肢もある。あえて直接進学するメリットはどこにあるのだろうか。

「留学後に、『もっと向こうで学びたかった』と話す学生は少なくありません。やはり、1〜2年で専門分野を深めるには限度があります。とくにITやA I、医療の研究は米国や英国のほうがずっと進んでいるので、先進技術を4年かけてしっかり学びたいと考える生徒は多いですね。実際に米国の教授陣と会話をすると、あらゆる学問領域において日本よりデータの活用が進んでいると感じます」

海外大学で広がる人脈とキャリアパスの魅力

海外大学に憧れるのは生徒だけではない。最近では保護者も強い興味を持っているという。

「とくに、仕事で海外での駐在や取引の経験がある親御さんは高い関心を持たれますね。日本の未来に何かしらの危機感を覚えて、子どもの海外進学を期待される方もいます」

とりわけ、将来は日本と海外の両方で活躍したいと考える場合には海外大学への直接進学は大きな意味がある。尾澤氏によると、海外での学びは大学卒業後のキャリアパスにも好影響をもたらすそうだ。

「海外の名門大学では、政治家やノーベル賞受賞者の講義を聞く機会が多くあります。彼らは優秀な学生をホームパーティーに招くことも。4年間あれば、こうした人脈もより広く築けるでしょう」

現に、Route Hの卒業生は米国の元財務長官でハーバード大学の元学長であるローレンス・サマーズ氏のディナーに呼ばれた。とはいえ、必ずしもハーバード大学やイェール大学などの超トップレベルの大学がすべてではない。有名ではなくても、海外大学には面倒見がよく手厚くサポートをしてくれるところが多いという。

「中には、『海外の大学に行くなら、東京大学よりもランクが高くないと意味がない』とおっしゃる方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。海外の大学はハードな授業が多く学業において鍛えられるので、海外できちんと勉強した子は就職活動や大学院進学でもよい結果を出します」

海外大学の受験に必要な8つの評価項目

では、海外大学を目指すにはどのような対策が必要なのだろう。現在、Route Hが指導する塾生の約8割は日本の一条校の生徒。インターナショナルスクールや国際バカロレア認定校、ケンブリッジ国際認定校の生徒はその他2割だという。大多数が日本の高校からの受験となるが、その主な評価材料は以下のとおり。尾澤氏に、それぞれのポイントを教えてもらった。

① 高校の成績
② TOEFL®︎やIELTSTMなど英語力を証明するテストのスコア
③ SAT® (学力統一試験)などのスコア
④ 中学3年生から高校3年生までの4年間の大会の受賞歴
⑤ 中学3年生から高校3年生までの4年間の課外活動の記録
⑥ エッセー
⑦ 面接
⑧ 高校からの推薦状(3通)

「①の高校の成績は名門大学ほど重視されます。②のTOEFL®︎やIELTSTMのスコアは高ければ高いほど有利で、私立名門校のミニマムスコアは120点中の100点ほど。③のS A T®︎は英語と数学の試験です。英語の難易度は高いものの、数学は日本の進学校でしっかり勉強していれば満点近くを取れるため、独学で対策する生徒が多い印象です。

④の大会受賞歴は数学オリンピックや模擬国連など、アカデミックな分野の国際大会での受賞が高評価となりますが、もちろん全国大会(企業・省庁の小論文コンテストなども可)評価対象です。

⑤の課外活動は、クラブ活動やボランティアなど一定期間の活動において成果を出すと評価が高くなります。10項目まで記入できますが、数合わせの一日ボランティアなどは評価されません。リーダーシップや情熱、コミットメントなどを発揮して実績が残せたかどうかが見られるのです」

①②③は早期から取り組みたい内容、④と⑤も中学3年生から高校3年生までの4年間が対象となるため学生生活をいかに過ごすかが重要になる。一方で、⑥⑦⑧は高校3年生になってから取り組むのだという。

「実はRoute Hの塾生はほとんどが高校3年生です。受験前の1年間は、テーマに沿って自分の経験や考えを英文で書くエッセーと面接対策に力を入れます。高校からの推薦状は3人の先生に書いてもらうことになるので、自分の魅力を理解してくれる先生は早めに見つけたいですね」

ちなみにRoute Hは少人数制のため入塾審査を設けており、選考に当たっては申し込み時の①〜⑤が参考にされる。

「これまで、海外大学の進学をサポートする塾は都市部に集中していました。しかしコロナ禍以降は海外大学に関するイベントがオンラインで行われるようになり、地方との情報格差は縮まりつつあります。実際に宮城県のある高校生が、地元の大学での研究や被災地でのボランティアを続けながら海外の名門大学に合格しました」

Route Hでも海外大学の受験情報をまとめた「Route Book」を提供しているほか、
Route Hの卒業生と尾澤氏の共著で米トップクラス大学の受験対策や大学紹介をまとめた『米国トップ大学受験バイブル』を出版している
(写真はRoute H提供)

海外大学と日本の大学の併願が成功する仕組み

上述のとおり、日本の大学と海外の大学では評価される項目が異なる。しかし、日本での受験勉強と海外に向けた受験勉強は、「まったく別のものというわけではない」と尾澤氏は語る。

「当塾の塾生は7〜8割が日本の大学も受験しています。併願先として多いのは、東京大学と早稲田大学と慶応大学。東大には7割程度が合格し、早稲田や慶応はほとんど合格します」

評価項目が異なるにもかかわらず、なぜこのような結果が出るのか。

「海外の名門大学を受験するには高校時代の成績が重要です。海外のトップクラス大学を志望する受験生は、ベースとして高校時代にしっかり勉強しているので、日本の大学受験にも対応できるのです。また、TOEFL®︎などは海外用の試験だと捉えられがちですが、TOEFL®︎で高得点を取れる力があれば、大学入学共通テスト、東大の2次試験や私大入試にも十分通用します。日本の大学受験のためにまるきり新しい準備が必要なわけではないのです」

裕福でなくても「奨学金」で海外大学の門戸が開く

海外の大学を目指していても、最終的に進学を断念する生徒もいる。直接進学ではとくに高額な学費がネックとなるのも事実だ。

「米国の私立大学の学費は高額で、年間で約700〜800万円かかる場合もあります。しかし近年は、柳井正財団 海外奨学金プログラムや笹川平和財団スカラシップなど、海外大学を志す人のための給付型奨学金が増えており、特段裕福な家庭でなくてもチャンスは広がっています」

ほかにも、希望の大学に届かなかった、治安への懸念で親に引き止められた、海外大学のハードな授業に不安を感じたなど、進学を諦める理由にはさまざまな事情があるが、尾澤氏は彼らにも大きなアドバンテージがあると話す。

「生徒にはすでに英語力や課外活動に取り組む力がありますし、面接やエッセーも対策済み。そのため日本の大学に進学後、希望する海外大学への留学を狙いやすいのです。交換留学の選考で優秀な成績を収めて、海外の名門大学に通う夢をかなえる生徒もいます。同様の理由で就職も比較的スムーズにいく印象です。卒業生を見ていると、中高生の時から海外を目指す大切さを実感しますね」

早くから海外大学への直接進学を意識し、主体的に英語力を高めながら学校内外の活動やコンテストにも積極的に挑戦する。進学後は、多様なコミュニティーの中で興味のある学問の最先端を学ぶ。そんな選択肢が当たり前のものとして広まる未来も、遠くはないのかもしれない。

(文・吉田渓、注記のない写真:ゲッティイメージズ)