夏休みが近づくと、わが子をまだ塾に通わせていない方は試しに「夏期講習」に参加させるかどうか、わが子をすでに塾に通わせている方は、今通っている塾のオプション講座を受講するか、それとも自宅復習を進めるか、はたまた別の塾の「夏期講習」に参加するかなどと悩むケースが多くあるでしょう。そこで今回は、中学受験塾における「夏期講習」とは何をするものなのか、そして各大手塾の夏期講習の学年別の特徴と活用方法をお伝えします。

中学受験塾における「夏期講習」の意義と費用は

西村創(にしむら・はじめ)
教育・受験指導専門家
早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wings、栄光ゼミナール、明光義塾などで25年以上の指導歴がある。
(写真は本人提供)

学習塾では通常授業のほかに「春期講習」「夏期講習」「冬期講習」という3つの季節講習が用意されています。各塾では、学校の休み期間に入ると通常授業がストップし、その代わりに季節講習の授業が行われます。

各塾、通常授業では各科目1週間に1日か2日の授業ですが、夏期講習では4日間程度の期間を1セット〜5セットなど、連続して授業が行われます。連続して授業を受けることで、例えば前日の授業内容を忘れないうちに翌日の授業で確認することなどが可能になり、学習効率が上がるのです。

基本的に季節講習会はどこの塾も「必修」扱いです。そのため、塾生は講習辞退を申し出ない限りは自動的に受講するものと見なされ、指定口座から講習会費用が引き落とされます。費用は、小学4年生になると受講日数の増加に伴って低学年の倍近い金額になり、小学5年生になると10万円の大台を超えます。さらに小学6年生になると約20万円、そこから夏期講習のオプション講座も受講するとなれば約4万円〜約8万円の費用が上乗せされます。

学習塾は営利企業であるため、季節講習や講習のオプション講座の受講を勧めます。ただし、講習を受講することで、必ずしも成績がアップするとは限りません。わが子の学習状況をよく見極めて受講を検討したいものです。

各塾の夏期講習の方針の違いは小学4年・小学5年に表れる

夏期講習の授業内容は塾によって差があります。とはいえ小学校低学年の場合は、小学4年以降のようにかっちり決まったカリキュラムがあるわけではありません。各塾、小学校中・高学年につながる思考力を鍛えつつ、学ぶ楽しさも味わってもらえるような授業を提供しており、年間のカリキュラムからは独立しているといってもよい授業内容です。夏期講習を受講しなかったことが原因で2学期からの塾の授業についていけないことはないのでご安心を。

各塾の差が出るのが、小学4年・小学5年の授業内容です。小学6年の夏期講習は、どの塾も小学6年の1学期の復習を中心とした小学4年以降の授業内容の総復習です。夏を終えて2学期から入試過去問演習を元にした本格的な受験対策に入っていくためです。

各塾の小学4年・小学5年の授業内容は「復習と新単元学習のミックス型」か「完全復習型」に分かれます。そこで、首都圏四大塾のそれぞれの小学4年・小学5年の授業内容の違いを具体的に解説していきましょう。

【四谷大塚・早稲田アカデミー】
四谷大塚・早稲田アカデミーの両塾はどちらも『予習シリーズ』という四谷大塚の教材を基に年間の授業スケジュールが作られています。そのため両塾は若干の違いはあれど、授業内容の大半は同じと考えてOKです。

四谷大塚・早稲田アカデミーの小学4年・小学5年の夏期講習は、「完全復習型」に近い「復習と新単元学習のミックス型」です。例えば、18日間の夏期講習のうち約2日間は、2学期の初回授業の先取りを行います。また、小学5年の社会では、2学期から始まる「歴史」を先取りした「歴史へのいざない(歴史上の人物/時代・年代の区別)」という導入授業があります。逆に言えば、それ以外は1学期の復習になるので、四谷大塚・早稲田アカデミーの夏期講習はほぼ復習型の「復習と新単元学習のミックス型」だと考えてよいでしょう。

【日能研】
日能研の小学4年・小学5年の夏期講習は「完全復習型」です。日能研公式Webサイトには次のように書かれています。

日能研の夏期講習では、夏期講習前までに学んだ「知識」や「考え方」を学び直します。初めて授業を受ける方にとっては、今までの日能研の学びを確認しながら進めることができます。日能研に通っている方は、もう一度学び直す中で、「知識」や「考え方」を“自分で”使っていくことで、さらに学びを深めていくことができます。
(日能研公式Webサイトより引用)

 

ただし、日能研には留意点があります。日能研は校舎ごとにいわゆる本部系と関東系に分かれていて、本部系は株式会社日能研、関東系は株式会社日能研関東が運営しています。どちらが運営しているかによって、校舎の運営方針が異なるのです。ちなみに、日能研公式Webサイトは本部系が運営しているので、掲載内容は本部系の指導方針に寄っています。本部系の校舎は「生徒の自主的な学びを育むこと」を重視する指導傾向にあり、一方で関東系の校舎は「合格させること」を重視する指導傾向にあり宿題も多いです。関東系の校舎の夏期講習は、1学期に学習した単元の復習であっても、応用・発展的な内容まで踏み込んだ授業になる可能性も少なくないでしょう。

【SAPIX(サピックス)】
SAPIXの小学4年・小学5年の夏期講習は「復習と新単元学習のミックス型」で、夏期講習で初めて習う単元が出てきます。算数を例に具体的に見てみましょう。

小学4年は夏期講習算数14コマのうち、以下の単元が新単元となります

● 平面図形(1)
● 平面図形(2)
● 立体図形(1)
● 立体図形(2)
● 立体図形(3)

 

小学5年は夏期講習算数14コマのうち、以下の単元が新単元となります。

● 2量の関係
● 比と割合(1)
● 比と割合(2)
● 比と割合(3)
● 比と割合(4)
● 比と図形
● 平均算
● 線対称・点対称
● 点の移動

 

小学5年の夏期講習の算数は、授業の大半が新単元の学習になるというわけですね。

このように、SAPIXの小学4年・小学5年は夏期講習で新単元を扱うため、塾生であれば夏期講習を受講しない選択肢は基本的にありません。もし、お子さんが1学期の授業についていけていないようであれば、個別指導塾か家庭教師を併用して1学期の復習をするか、夏期講習を他塾で受講して、転塾の検討をすることをお勧めします。

夏期講習からの塾選び、塾生の夏期講習受講はわが子次第

夏休みが近づくと、夏期講習に関する悩みを相談される機会が多くなります。どの塾の夏期講習を受講するべきか、また、すでに塾生ではあるものの、夏期講習や夏のオプション講座を受講するべきかというご相談です。

どの塾の夏期講習を選ぶかは、お子さんの学力、目指す学校のレベル、そして保護者がどのくらいサポートをできるか、あるいは個別指導塾や家庭教師を追加することができるかによって変わってきます。

親身なフォローを期待しているのにSAPIXを選んだり、自分のペースで復習してじっくり学習を進めたいのに早稲田アカデミーを選んだりすると、うまくいかない可能性が大きいです。逆に、トップ校を目指していて学力上位クラス(αクラス)に入れる子ならSAPIXは頼れる塾になりますし、塾生たちと切磋琢磨しながらどんどん宿題に取り組むことにやりがいを感じられる子であれば、早稲田アカデミーで学力を伸ばせそうです。アットホームな雰囲気でじっくり学びたいという子には、本部系の日能研が向いていそうです。

すでに塾生の場合は、夏期講習・オプション講座を「受講しない」という選択肢も含めて検討するのがよいでしょう。「夏期講習を受講すれば成績が上がるだろう」というのは幻想です。夏期講習は1学期の内容の大半が頭に入っていることを前提に、日々の夏期講習の授業復習ができて成績アップにつながります。1学期の復習がほとんどできていないのであれば、弱点単元を自宅で学習するか、TOMASのような受験対策用の個別指導塾、あるいは家庭教師の力を借りることをお勧めします。

勉強は「学ぶ」というインプットと「解く」というアウトプットのバランスによって成果が変わります。夏期講習をはじめとする授業はインプットです。インプットされた知識を自分で確認し直して、実際に問題を解けるか試し、解けなかった場合はなぜ解けなかったのか、解くためにはどうすればよいか試行錯誤して考える時間は、授業と同じくらい大事な時間です。

授業を受けることに精いっぱいで、教わったことを消化したりアウトプットしたりする時間がなくなってしまうと、成績は伸び悩みます。1学期の授業の復習ができていないようであれば、この夏は夏期講習を選択せずに、自宅学習あるいは個別指導で復習をして2学期に備えることを検討してもよいかもしれません。さまざまな選択肢を視野に、お子さんの現状に合った夏を過ごしてください。

(注記のない写真:studio-sonic / PIXTA)