毎年、授業の「スピード」は速くなる

新年度が始まってほぼ1ヵ月、皆様いかがお過ごしでしょうか? 西岡壱誠です。今回は、どうすれば新年度の始まりに勉強でつまずかず、1年間楽しく学んでいけるのかについて、僕なりの考えをお話しさせていただきたいと思います!

新年度。期待に胸膨らませて始まる学校生活……のはずですよね。ただ、ここでつまずいてしまう人が、意外に多いのも事実です。華々しい雰囲気がある一方で「5月病」といわれるように、新生活になじめず引きこもってしまうこともあります。せっかくの新生活、今日はそのような事態を避けるための心構えと、新しい勉強につまずいてしまったときの対処法を皆さんと共有できればと思います。

まず学生の皆さんに質問です。学生が進級したときに、勉強でつまずくポイントは何だと思いますか?

答えは「スピード」です。

基本的にどの学年においても、中1よりも中2、中2よりも中3、高1よりも高2といったように、学年が上がるほど授業の進度は速くなります。なぜならすべての科目は積み上げ型の勉強で、前学年の勉強を基礎として今年度、それを応用した勉強+新しい基礎を学んでいくからです。

例えば、数学などはそれが顕著ですよね。前学年の内容を理解しないまま、新しい概念を勉強することは難しいでしょう。また、基礎の勉強はゆっくりと進んでいくのに対し、応用段階に入ると、すでに基礎が入っている前提で進むため、より進度が速く感じることもあります。皆さんは先生が、こうやって話すのを聞いたことはありませんか?

「これは、中1の時にやりましたよね? だからここの説明は省きます」

この言葉は、学年が上がるにつれて増えていき、勉強のスピードはどんどん早くなっていきます。だから一度つまずくと、勉強についていけなくなり、苦手意識を持ってしまう。最終的に勉強が嫌いになる。ということが起こりえます。そうならないために、ぜひ皆さんにやってほしいことは、新学期に、これから学ぶ教科書をペラペラとめくってみることです。しっかりと読み込む必要はありません。とにかく見る。ぱらぱら流し読みをして、「ふーん、こんなことやるんだなぁ」と頭に入れておいてください。

もちろん、ほとんどの内容はわからないはずです。それでいいのです。ただ、「ああ、この話、去年出てきたな」と必ず前の学年に重なる話が入っています。そのときに「これ、ちゃんと覚えられているかなあ?」と復習してみてください。いったん振り返って復習し、自分のものになっているか確認したうえで、新しい知識を入れることに備えてみてほしい。これだけで、新しい勉強をするときに、理解がまったく異なってきます。

前学年の教科書と、現学年の教科書を並べて勉強する

これまで学生を見てきて感じるのは、今勉強している内容でつまずいたとき、いつまでもその部分を理解しようと頑張ってしまう学生が多いということです。

勉強でつまずいた時、するべきことは前に戻ることです。例えば高2であれば、高2の今習っている勉強ではなく、高1あるいはそれ以前の勉強に戻ることが理解への近道です。なぜなら高2の勉強は、高1までの勉強で成り立っているからなんですね。だから、高2の勉強と向き合っているだけでは、うまくいかないまま「授業についていけない!」という事態になってしまいがちです。本人はもちろん、先生も親御さんも、ぜひここをバックアップしてあげてください。

例えば先生であれば、「これは、中1の時にやりましたよね? だからここの説明は省きます」と言うのではなく「これ、中1の参考書のここの部分だよ!」と具体的に指し示してあげたり「中1の教科書の何ページ、この問題を復習して!」と言って、問題をコピーし、渡すぐらいのことをしてあげてもよいかもしれません。

一方、親御さんにもできることがあります。お子さんの学年が上がったら、前学年の教科書や参考書をしまい込んだり「捨てちゃおう」と言ってしまっていませんか? それが勉強でつまずく大きな落とし穴といっても過言ではありません。実際僕もそこで失敗して、ずっと学年ビリという状態になっていたのでよくわかります。

ぜひ親御さんは「これも使うことあるんじゃない?」というふうに、前学年の教科書を、今年の教科書と一緒に並べてあげてください。それだけで、いろいろなことが変わってくるはずです。

わからないことを「わからないと言える」雰囲気づくり

もう1つ、先生や親御さんに心がけてほしいことは、「生徒がアラートを出せる状態をつくる」ことです。1年間勉強していく中で、ひとつもつまずかず、スムーズに学習していく子はいません。必ず、わからないところや解けない問題、できないことが絶対に出てきます。

そんなときに、「ここがわからないです」と誰かに助けを求められるようにしてあげることはいちばん重要です。大人が考えているより「わからない」「できない」と言えない子どもは多いです。理由は単純で、恥ずかしいからなんですね。少し話が脱線しますが、日本にはまだまだアウトプットや自分の主張をすることが恥ずかしい、という雰囲気があるように思います。

日本語では「授業を受ける」と言いますが、英語圏では「take a class(授業を取る)」と表現します。授業というのは受け身で「受ける」ものではなく、能動的に「取る」ものであるという解釈をしているためです。僕も、講演会や会議のとき「何か質問はありますか?」と聞いても、誰も何も言わないという場面に遭遇することは多々あります。米国では、授業中は活発に質問する生徒が多いですし、社会に出てからも発言しなければ、やる気がないのではと思われ、評価が下がってしまうそうです。

もっと皆さん、たくさん質問をしましょう。わからないことは、どんどんわからないと言う。能動的に勉強して、質問をどんどんする方が断然成績は上がります。ちなみに、東大生は授業中に、非常に多くの質問をしますね。初めて東大で授業を受けたとき「こんなに頭がいい東大生なのに、わからないところがあって、質問をするのか」とびっくりしたのを覚えています。

そのとき、かつて偏差値35だった僕は高校時代の自分を思い浮かべ「そういえば、僕は成績が悪かったとき、先生に質問に行ったりしなかったな……」と思いました。ということで、「質問していい文化」をつくってあげることは、とても重要です。

例えば先生が、質問した人に対して「いい質問だね!」「質問してくれてとてもうれしい!」というスタンスを取ってくれれば、生徒は質問しやすいかもしれません。先生のほうから積極的に、何か聞きたいことがあれば何でも聞いて! という雰囲気をつくってくれるとありがたいです。

また親御さんは「自分に聞いてもいいし、思い切って先生に質問してみたら?」と言ってあげるのはどうでしょうか。とにかく「気軽に質問できる大人」の存在は勉強ができるようになる近道です。学校の先生が難しければ、年齢が近い家庭教師の先生にお願いする、生徒と先生の距離が近い塾を選んであげるのもいいかもしれません。

とにかく質問しやすい環境づくりを大人がつくってあげるべきだと思います。いかがでしたか?

「前の学年に戻る」「質問しやすい環境をつくってあげる」、この2つを守るだけでも、新年度のスムーズな学習に寄与することは間違いありません。皆さんぜひ意識して、一緒に学習を楽しみましょう!

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、オリジナルの勉強法を開発。崖っぷちの状況で開発した「思考法」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、2浪の末、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、2020年に株式会社「カルペ・ディエム」を設立。全国5つの高校で高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営、約9000人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。著書『東大読書』『東大作文』『東大思考』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計38万部のベストセラーとなっている
(撮影:尾形文繁)

(注記のない写真はiStock)