エナジードリンクだけでない、若年層に忍び寄るリスク

そもそもカフェインにはどのような作用があり、何に含まれているのか。思い浮かぶのは、コーヒーなどのカフェインを含む飲み物で眠気を覚ましたり、仕事への集中を促したりといった作用だ。眠気覚ましを目的としたドリンク剤なども販売されている。

上條吉人
上條吉人(かみじょう・よしと)
日本臨床・分析中毒学会代表理事 埼玉医科大学医学部臨床中毒学教授・同大学病院臨床中毒センター長
1982年東京科学大 学(旧東京工業大学)理学部化学科卒、88年東京科学大学(旧東京医科歯科大学)医学部 卒。同大学附属病院や関連病院で精神科医として研鑽を積み、担当患者の自殺を転機に救 急医の道を志し、92年より北里大学病院救命救急センターへ。2012年北里大学中毒・心身 総合救急医学特任教授、14年北里大学救命救急医学教授・北里大学メディカルセンター救 急センター長、15年埼玉医科大学救急科教授を経て21年より現職。専門分野は急性中毒 。20年に「一般社団法人 日本臨床・分析中毒学会」を設立。『臨床中毒学第2版』(医学書 院)をはじめ著書多数
(画像は本人提供)

「カフェインは中枢神経に作用し、神経を鎮静させる『アデノシン』の働きを阻害します。それにより神経が興奮することで、眠気が覚めたり、身体のだるさがやわらいだりといった作用が得られます」

こうした効果を求めて多忙なビジネスパーソンなどがカフェイン入りのドリンクなどを愛飲していることも多いが、気になるのが若年層へのカフェインの浸透だ。上條氏は救命救急という臨床の場で急性中毒の患者を数多く診療しているが、カフェインによる急性中毒はあるときを境に増えているという。

「2013年にとあるエナジードリンクが自動販売機に並ぶようになった時期から、カフェイン中毒で搬送されてくる患者が増加傾向にあることに気づきました。調査をしてみると、私が勤務する救急センターだけではなく、複数の施設で同様の傾向があることがわかりました」

一見すると、エナジードリンクによってカフェインの急性中毒に陥る人が増えたと考えてしまいそうだが、上條氏はその仮説については懐疑的だ。

「ある男性が急死して大学病院の法医学教室で解剖したところ、致死濃度のカフェインが検出されました。周囲の方からは本人がエナジードリンクを常飲していたとも聞いていたようですが、同時に胃内から検出されたのはカフェインの錠剤でした。救急センターに搬送されてくる人の多くは、エナジードリンクだけでなくカフェインの錠剤を多量摂取しています。代表的な製品の『エスタロンモカ』に含まれるカフェイン量は、1錠あたり100mg。カフェインは約1000~2000mgから中毒症状を起こすとされているので、コーヒーやエナジードリンクよりも容易に過剰摂取ラインを超えてしまうんです」

カフェイン濃度
(画像は東洋経済作成)

実は、エナジードリンクのカフェイン含有量はコーヒーとさして変わらない。だが、より飲みやすいエナジードリンクで覚醒作用を感じた人が、さらに手軽で作用の強いカフェイン錠剤へと手を伸ばす――。そんな構図が、搬送件数増加の背景にはありそうだ。

「やめられない」身体依存に陥るケースも

とはいえ、エナジードリンクはコーヒーなどと比べて子どもも飲みやすい風味づけがされており、大容量の缶も販売されている。子どもが口にし続けることで、カフェインに依存してしまうリスクも気になるところだ。

「15歳以下の子どもがカフェインの錠剤を口にすることはないでしょうから、誤飲などがない限り急性中毒に陥ることはあまりないと思いますが、『眠気覚まし』などを目的に毎日のようにエナジードリンクやカフェイン飲料を飲み続けることで身体的な『依存状態』に陥ることは考えられます」

依存状態とは、どのような状態なのだろうか。

「カフェインには興奮作用があるので、適量を摂取すれば眠気やだるさを取り除くのに有効です。ところが、摂りすぎると過剰に興奮し、イライラや落ち着きのなさといった症状が現れます。小児科からは、授業中に落ち着いて座っていられない子が、よくよく聞いてみるとカフェインの摂りすぎだったという事例も聞いたことがあります」

また、カフェイン摂取をやめた際に強い頭痛やだるさ、不眠、不安、抑うつといった症状が現れ、それらに耐えかねて再びカフェインを摂取してしまうことも少なくないという。

さらに、過剰摂取による急性中毒の場合は、大人と異なる症状が起こる。

「カフェインを過剰摂取した場合、成人では不整脈や、ひどくなると命にかかわる心室細動などが起こることが多いですが、10代くらいまでの子どもはけいれんを起こすことが多いとされていて、これは成人と比較して中枢神経への刺激が強く出るためと考えられています。また、これは成人と共通ですが、嘔吐中枢へも刺激が起こり、繰り返し嘔吐するケースがほとんどです」

子どものリスクを抑えるカフェインとの付き合い方

カフェインは、同じ量を摂取しても健康に影響が出る人と出ない人の差が大きいため、摂取許容量などの国際基準は定められていない。

海外に目を向けると、成人1日あたり400mgまでを目安としているところが多い(欧州食品安全機関、カナダ保健省など)。子どもは年齢によって異なるが、10~12歳では1日あたり85mgまでが望ましいとされている(カナダ保健省)。

「一度に多量の摂取は危険ですが、例えば食後のコーヒーのように、時間を空けて摂取するぶんには健康被害のリスクは少ないといえます。カフェインは摂取後数時間で排出されていくので、3~4時間の間隔を空けることでリスクを取り除けると考えています」

カフェインは食べ物や飲み物のほか、風邪薬などの市販薬に含まれていることも多い。これらの併用にも注意してほしい、と上條氏は付け加えた。

さらに、子どもがカフェインへの依存傾向にある場合はどのように対処するのがよいかも尋ねてみた。

「カフェインを日常的に摂取していて、以前と比べてイライラしたり、興奮しやすかったりといった傾向がみられたときには、まずは小児科へ相談するのがよいでしょう。もちろん嘔吐やけいれんといった身体症状がみられるときには救急を受診してください。高校生以上の子どもであれば、かかりつけの医師や総合診療科を受診し、適切な科を受診しましょう」

コンビニエンスストアや自動販売機でも気軽に購入でき、子どもも手に取りやすいエナジードリンクをはじめとしたカフェインを含む飲み物や食品。常用するリスクをまずは大人が理解したうえで、適切な距離で付き合えるように子どもにも伝えていく必要がありそうだ。

(文:藤堂真衣、注記のない写真: Plan Shooting 2 / Imazins/  Getty)