地域活性化のカギを握るのは
「人材」と「地域金融機関」
全国に、人材育成や企業同士のマッチングの場をつくる
実際に、「トーマツ地域金融活性化推進室」ではどのような取り組みを進めようとしているのか。木村氏は「地域経済活性化を達成するには、地域での経営の担い手を増やすことが急務。さらに、その人材育成の場に地域金融機関が積極的に携わる仕組みをつくっていきたい」と話す。
木村氏によれば、各地域の経済に関する情報が自治体や地域金融機関、商工会議所などに存在する一方で、地域のベンチャー企業や中堅中小企業の経営者、あるいは大都市圏の産業界や投資家などとの連携は十分とは言えないという。さらに前述したように、金融機関の中にも、企業の将来の目利きができる人材が不足している。
森川氏は「地域金融機関に加え、当社グループはじめとする民間企業の知見を結集し、地域の将来を担う人材を育成することを目指します」と説明する。
全体像としてのスキームも描かれつつあるようだ。たとえば、地域金融機関や商工会議所などが事務局となり、地域の人材育成の場をつくり、ベンチャー企業の経営者や二代目経営者などの育成を行うとともに、新規事業の創出などもきめ細かくサポートしていく。
若手経営者向けのセミナーや講演会は数多く開かれているが、実務的な効果という点では疑問だ。それに対してトーマツでは、事業化につながる具体的な運営助言のほか、大手企業とのマッチング、将来のIPOなども含め、地域活性化につながる実践的な仕組みづくりを支援していく考えだ。
木村氏は「まずは有力な地銀とともに、いくつかの拠点に事務局を開設したい。いずれは、全都道府県に展開するのが目標」と力を込める。
大手監査法人として
地域活性化支援の知見を蓄える
政府が重要視するように、地方の人口減少問題や活性化対策は喫緊の課題であることは間違いないが、この解決のために「民」の側から、さらに大手監査法人が行動を起こしたという点は注目に値する。
木村氏は「もはや、監査法人が監査だけをやっていればいいという時代ではありません。企業の成長、ひいては地域や国の成長戦略に寄り添いながら、私たちならではの提言を行うことが求められていると感じています。『官』とは異なる『民』ならではのサポートを実現したいと考えています」と話す。
地方自治体は少子高齢化傾向など厳しい状況にさらされている。予算も限られている中では、民間との連携が不可欠になるだろう。と言っても、金融機関など民間企業を取り巻く環境も楽観できない。地銀の再編などの話題を聞くことも多くなっている。
森川氏は「市場が縮小するから金融機関を減らそうというのは後ろ向きに思えてなりません。地域を代表するような企業がこれからたくさん生まれてくれば、資金需要も増え、雇用も創出できます。当グループではそのような本来あるべき地域活性化を実現したいと考えています」と話す。
東日本大震災の復興支援などにおけるトーマツの取り組みを見ると、それが決して夢ではないことがわかる。大手監査法人が、このような地に足の付いた支援を行い、すでに知見を蓄えているというのも頼もしい。「まち・ひと・しごと創生」など地方創生の支援においても、大いに期待が高まるところだ。
これまで4回にわたり、「世界で負けない金融機関の条件」と題して、日本経済のさらなる発展のために、金融機関が果たすべき役割や解決すべき経営課題、先進的な取り組み事例を有識者に解説してもらった。金融機関の関係者はもちろんのこと、多くのビジネスパーソンにとって参考になったのではないだろうか。