世界27位「日本のデジタル化」は、本当に進むのか

「立ち上げるまでのスピードは、これからも続くと思っている」

9月1日に行われたデジタル庁の発足式で、こう話した平井卓也デジタル大臣は「日本を変えるぐらいの気持ちで取り組めと首相に言われている。まさにスタートアップのような新しいやり方で、スピード感を持って進めていく」と決意を見せた。

デジタル庁は昨年9月、菅義偉首相の就任とともに看板政策として掲げられ、平井氏がデジタル改革担当大臣に任命されてから1年という異例のスピードで発足にこぎ着けた。陣容は全体で約600人。各省庁から集めた“官”と、新たに登用したおよそ200人の“民間”の人材で、マイナンバーカードの普及など行政のデジタル化をはじめとする日本全体のDXを強力に推進していく予定だ。

だが、その船出は多難と言わざるをえなかった。事務方トップのデジタル監として、ほぼ内定していた元米マサチューセッツ工科大学のメディアラボ所長 伊藤穰一氏の起用見送り、さらにその後に就任した一橋大学 名誉教授の石倉洋子氏による画像無断利用問題。そして、デジタル庁創設を掲げた当人である菅首相は退陣する意向を表明している。こうした中、世界27位といわれる日本のデジタル化(スイス国際経営開発研究所〈IMD〉世界デジタル競争力ランキング2020による)は、本当に進んでいくのだろうか。

デジタル庁の事務方トップに就いたデジタル監 石倉洋子氏

10月10日と11日を「デジタルの日」に設定

まず、最初の目玉ともいえるのが「デジタルの日」の創設だ。デジタル庁は、今年10月10・11日の両日を「デジタルの日」に設定。デジタル庁がミッションとして掲げる「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」の実現のため、デジタルに触れ、使い方や楽しみを見つける機会を広く提供するという。

このアイデアは、デジタル庁の創設に当たったデジタル改革関連法案ワーキンググループにおいて、メディアアーティストで筑波大学准教授の落合陽一氏の意見をきっかけに、座長で慶応義塾大学名誉教授の村井純氏らが議論する中で創設を決めたという。10月10・11日の両日を選んだ理由は、2進数の数字である「1(イチ)」と「0(ゼロ)」を組み合わせたデジタル技術に由来する。

デジタル庁の創設に携わったデジタル庁企画官の津脇慈子氏は、「デジタルの日」創設の狙いを次のように語る。

「社会全体で『誰一人取り残さない、人にやさしいデジタル化』を実現したい。そのためにも官民、個人が一体となってデジタルを振り返り、体験し、見直す日としたい。防災の日やバレンタインデーのように毎年定期的にデジタルについて考えたり、アクションしたりする契機の日としたい。そんな思いから創設することになりました」

来年以降の将来的な日程については今後、広く意見を聞きながら決定していくが、今年は自治体や民間企業などの産官学が連携し、関連セミナーやイベントなどを開催する予定だ。

現在、デジタル庁が募集している「デジタル社会推進賞」受賞者の発表や、「日本全国のデジタル度」の発表、エンタメコンテンツなどをオンラインで生配信するほか、各業界の著名人から「#デジタルを贈ろう」というメッセージ動画をSNSで発信するキャンペーンを展開する予定だ。こうしたデジタル庁が中心となる取り組みに加えて、賛同企業500社ほどが各地で同時多発的にイベントを行うという。

教育分野の縦割り打破は進むか

「デジタルの日は第一歩になる、期待している」

平井聡一郎(ひらい・そういちろう)
情報通信総合研究所 ICTリサーチ・コンサルティング部 特別研究員
茨城県の公立小中学校で教諭、中学校教頭、小学校校長として33年間勤務。その間、茨城県総和町教育委員会、茨城県教育委員会で指導主事を務める。茨城県古河市教育委員会で参事兼指導課長として、 全国初となるセルラー型タブレットとクラウドによる ICT 機器環境の導入を推進。2018年より現職。茨城大学非常勤講師、文部科学省教育 ICT 活用アドバイザー、2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会ワーキンググループ委員、総務省プログラミング教育事業推進会議委員を歴任。経済産業省の「未来の教室」とEdTech研究会にオブザーバーで参加。戸田市、下仁田町、小国町など複数の市町村、私立学校のICTアドバイザーも務める
(撮影:今井康一)

こう話すのは、自治体や学校でICT活用アドバイザーとして活躍する情報通信総合研究所の平井聡一郎氏だ。小中学校の教員、校長、教育委員会の指導主事として33年間の現場経験を持つ平井氏は、「デジタルの日」検討委員会のデジタル社会形成ワーキンググループに参加予定で、教育分野の取り組みについて積極的に発言を行っていくという。「デジタルの日」に向けては「経済産業省が行っている『未来の教室』実証事業と連携したイベントの開催を検討している」と話す。

実際、教育分野におけるデジタル庁への期待は、かなり大きい。各省で教育に携わってきたキーパーソンが異動、また兼任という形でデジタル庁に深く関わっており、縦割り行政、設置者主義でなかなか進んでこなかった教育のデジタル化を加速する起爆剤になると考えられているからだ。

その発足第1弾として見せたのが、デジタル庁をはじめ総務省、文部科学省、経済産業省が一緒に行ったGIGAスクール構想の調査だ(デジタル庁「GIGAスクール構想についてのアンケートの取りまとめ結果」)。児童生徒約21.7万件、教職員・保護者約4.2万件の意見を集めた大規模なアンケートで、GIGAスクール構想で配備された「小中1人1台」タブレットの使用で困っていることや課題、工夫などについて聞いている。

興味深いのは、自由記述式の回答をAIなどによってテキスト解析していることで、意見の内容も具体的、詳細に開示されているのに加え、回答の傾向についても細かく分析されていることだ。

「ネットワーク回線が遅い」「持ち帰れない、使う授業が限られている」「教科書をデジタル化してほしい」「教職員のICT活用のサポートが必要」「教職員端末が未整備・古い」「効果的な活用事例を発信してほしい」などの主な意見については、それに対する施策の方向性も示されている。これまで見られなかった調査形態、技術も取り入れて、タブレット活用の現状を広く、詳細に把握してスピーディーに対策を講じるとともに、現場ならではの工夫やアイデアを吸い上げて全国に共有しようということだろう。

まさにデジタル庁が音頭を取って進めた最初のアウトプットといえるが、やはり最も期待されているのは教育データの利活用である。GIGAスクール構想によってインフラが整った今、教育のDXはようやくスタートラインに立ったばかりだが、ここからが本番というわけだ。

「まずはデジタルデータの規格統一をしなければならないが、それ以前に校務データをデジタルデータにする必要があり、クラウドに上げてもらわないとならない。例えば、児童生徒の出欠情報や、身長・体重などの保健情報がデータ化されれば、教員の負担軽減になるし、遅刻や早退の増加を早めにつかむことができれば不登校を予見できるかもしれない。だが、いまだに反対意見も多く、データを蓄積、活用することが子どものよりよい指導やトラブルの未然防止につながるなどのメリットを理解してもらう必要がある。その意味でも各省庁のキーパーソンが集まり、関係省庁を束ねることができるデジタル庁の存在は大きい」

こう平井氏も期待を寄せる。データを蓄積、分析して活用するとなると漠然とした不安を抱く人が多いことも事実だが、日本は教育分野におけるICTの利活用が世界で圧倒的な最下位(PISA〈国際学習到達度調査〉2018)にある。多難な船出となりはしたが、デジタル庁には教育のデジタル化にもスピードを緩めることなく取り組んでいってほしい。

(文:編集チーム 細川めぐみ、國貞文隆、注記のない写真:風間仁一郎)