また多くの場合、深海採掘の環境リスクが実際に進行しているのは公海ではなく、各国のEEZ内なのだという。UNCLOSは海洋環境に重大な影響を及ぼすおそれのある活動について各国に環境影響評価の実施を求めている(第206条)。しかし、その規定は「実行可能な範囲で」という緩やかなもので、具体的に何をすれば義務違反にあたるのかまでは定めていない。
つまり各国EEZ内の環境リスクについて国際的な基準で問うことができず、「最低限ここは守る」というボトムラインがどこにも存在しないまま、商業採掘が各国の判断に委ねられるということだ。すると、ある国では許されない採掘も、規制の緩い別の国の管轄内でなら合法的に進められる。
国ごとの規制の差を利用して、厳しい目を避けられる場所を選ぶという、「規制のアービトラージ(裁定取引)」が働きうる。そうして最も緩い基準が事実上の標準となり、汚れた工程を規制の弱い場所へ押しつけたまま「クリーン」な顔で利益だけを受け取ることが起こる可能性すら生まれる。
国際ルール無視で公海を掘る…アメリカ大統領令のヤバさ
一方で、本来なら各国が従うべきルールのある「公海」をめぐる脅威はすぐそこまで来ており、その弊害は日本も無関係ではない。特に際立つ事例が、アメリカによる一方的な深海採掘の動きだ。
前述のように公海はISAが管理するため、一国が勝手に採掘をできる場所ではない。ところがトランプ政権が2025年4月に出した大統領令はこの枠組みを完全に無視し、アメリカの深海底鉱物資源法(1980年)のみを根拠として公海での採掘を許可しようとするものだった。
アメリカはそもそもUNCLOSに加盟していないため、「ISAのルールには縛られない」と開き直っている状態だ。こうしたISAを迂回する動きを、シン氏は国際法違反だと明言する。
「UNCLOSの締約国にとって、ISAとUNCLOSを迂回して深海底の資源にアクセスしようとするいかなる試みも、国際法に反する身勝手な行動として扱われなければならない。締約国には、そうした活動を防ぐ義務がある。自国の管轄下でそれに参加し、幇助し、あるいは資金を提供する者に対して、必要な措置を取ることも含めてだ」(シン氏)


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