書家として独立して以来、自身の芸術的探求としての作品制作の傍ら、様々な商業用の揮毫も手がけてきた。会社を辞めた直後は、地方のお菓子屋のパッケージやカレンダーの題字なども引き受けて糊口をしのいだ。
実は、純粋な芸術作品よりも、こうした商業用の作品のほうがはるかに難しい。私がよく口にするのは、「そば屋の品書きの札がいちばん難しい」ということ。そば屋の伝統や歴史を感じさせる風格があり、かつ、誰もが読め、食指が動くものでなければならない。クライアントの要望を満たすと同時に、「石川九楊が書いた」という私自身の書の証明・痕跡をも残さなければならない。
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