今回登場するのは、都内の私立小学校から難関中高一貫校へ進み、現在は私立大学の医学部に通うTさん(仮名)である。父親は東大理三出身の医師。母親も東大の文系学部を卒業した、いわゆる「東大一家」に生まれた。
一人っ子のTさんにとって、「東大に行くこと」は、目標ですらなかった。
目標とは、本来、自分で決めて目指すものだ。しかし彼にとって東大は、家族の歴史の続きとして、生まれたときから用意されていた場所だった。
※本記事は本人の意向により、学校名や時期など、個人の特定につながる情報をぼかし、一部の事実関係を変更して構成しています。
「私も、パパも、おじいちゃんも、みんな東大で学んだのよ」
Tさんは都内の私立小学校に通い、早い段階から難関私立中学を目指す子どもたちが集まる進学塾に通い始めた。塾での成績は、ほぼ常にトップだった。
本人によれば、小学3年生の時点で、すべての科目について小学6年生までの内容をひととおり終えていたという。
「頭は良かったと思います。少なくとも、勉強で困った記憶はほとんどありません」
家庭では、ゲームと漫画は禁止されていた。ただ、それを窮屈だと感じた記憶もない。
「別に観たいとも思っていませんでした。そういうものだと思っていました」
テレビは許されており、『コード・ブルー』などの医療ドラマをよく観ていた。親戚の集まりはホテルで開かれるのが常で、子どもながらに、自分は裕福な家庭に生まれたのだと理解していた。
そんな小学3年生のある日、Tさんは母親に連れられ、学園祭で賑わう東京大学のキャンパスを歩いていた。
そのとき、母親が言った。
「私も、パパも、おじいちゃんも、みんなここで学んだのよ。あなたもここで勉強して、お医者さんになるのよ」
その言葉を、Tさんはいまでもはっきりと覚えている。
「自分の人生は、そんな先まで決まっているんだな、とぼんやり思いました。でも、違和感はありませんでした。それでいいと思っていたんです」


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