では、なぜ暑い日に辛いものが食べたくなるのか。
一般的によく言われるのは、唐辛子に含まれるカプサイシンの作用だ。辛いものを食べると発汗が促され、その汗が蒸発するときの気化熱によって体表面の熱が奪われる。その結果、「汗をかいてすっきりした」という爽快感につながるという考え方である。
さらに、暑さで落ちた食欲を刺激したり、刺激そのものを楽しんだりと、辛さには夏特有の魅力があるとも言われている。
しかし、この定説に「本当にそれだけなのだろうか」と疑問を投げかける人物がいる。全国に店舗を展開する麻辣湯専門店「七宝麻辣湯」の代表・石神秀幸さんだ。
世界中のスパイスを研究し、30種類以上のスパイスを組み合わせた麻辣湯を作り続けてきた石神さんは、意外にもこう語る。
「正直、辛いものが夏に食べたくなる理由って、まだよく分からないんですよ」
一般的には「汗をかいて涼しくなるから」と説明されることが多いが、石神さんは別の可能性も考えている。
「昔はエアコンがありませんでしたからね。本能的にそういう部分がDNAに刻まれているのかもしれません。でも今はエアコンが普及しています。そう考えると、本当にそれだけなのかは分からないんですよ」
暑い国にも寒い地域にもある辛い料理
つまり、人類が長い歴史の中で身につけた本能なのか、それとも現代人の生活環境によって別の理由が生まれているのか。その答えは、まだ誰にも分かっていないというのである。
「辛い料理というと、インドやタイのような暑い国をイメージしがちですが、寒い北朝鮮にも唐辛子を使った辛い料理の食文化がありますし、四川省では暑い夏に対して冬は厳寒ですが、一年を通して辛い料理が食べられています。
暑さも寒さも度が過ぎると感覚や思考が鈍くなりがちなので、それを強い刺激でリセットするという意味があるのかもしれませんが、これも推測の域を出ません」

