観光客に押し売りをしない店
大学院で人類学を学び、ケニアのサバンナに広がるマサイの村でフィールドワークをしていた頃、私はマサイの人たちのビジネスを中心に調査していました。
その調査で出会ったマサイの女性店主のコミュニケーション術は目を見張るものがありました。
当時、村では、定期的にマーケットが開かれていました。そのマーケットには多種多様な人が出店しており、マーケット周辺の地域に住むマサイの地元住民だけでなく、ナイロビという別のエリアから物を売りにくる別の民族も来ていました。
マーケットは、ケニアでは「現金収入を得られる」数少ない機会です。会場は商売の熱気に満ちていました。
そんな中で外国人は目立ちます。商売人たちは想像通り、日本人の私を見るとすぐ、お土産を買わせようとたくさん話しかけてきます。あとで同行していたマサイの友人に聞いたところ、私には、地元の人に売る10倍の価格を提示していたようでした。
日本では店に行けば値札があるものですが、ケニアではその場で店主とお客の金額交渉があり、価格は相手によって変動します。そういう事情もあり、観光客と地元客で価格を変えられてしまうことも多くありました。
マサイの村ではそれが、あたり前の価格戦略だったのです。


