どういうことか、具体的に例を挙げてみましょう。
例えば、ある村で、子どもたちの就学率が低く問題になっていたとします。
その原因は、「子どもたちが日中に水汲みなどの家事を行う必要があり、学校に通う時間的余裕がない」という事情が隠れていました。
その場合、人類学の視点で考えるならば、ただ学校をつくっても意味がありません。
サポートを受ける側の視点に立つと、その子ども達の家族は、「学校には通わせたい。でも水汲みの人手はほしい」という切実な悩みがあったわけです。
この事例では結果的に、学校の近くに水汲み場を設置することで、学校に通った後に子どもたちが水汲みをして帰ってくることができるようになり、「就学率」と「水汲み」の問題を両方解決することができました。
このように、一方の視点だけでなく、問題が生じている双方の視点に立って考えること。これが「視点の移動」なのです。
日常生活でも活かせる「視点の移動」
先ほどのマサイの女性店主は、この「視点の移動」を観光客とのコミュニケーションに生かしていました。なぜなら、観光客のニーズに合う商品と、観光客が好む接客方法を理解し、その視点で商品を販売していたからです。
そして、この「視点の移動」は、私たちの日常生活でも使うことができます。
目の前の家族、同僚、お客様など、自分と違う立場や考えを持った人の考えを想像してみると、自分の行動や発言を客観的に見つめ直すことができます。
その後、相手に配慮をした行動をとると、相手はそれに気づき、相手の反応も少し変わったものになるでしょう。マサイの女性店主が大切にしていた「視点の移動」を使って相手の立場に立ってみると、仕事や日常生活で接する人と良好な関係を築くヒントになるのかもしれません。

