先行各社の取り組みは、それぞれが自前のシステムを個別に築き、用途も観光客向けの企画乗車券や特急券に限られてきた。東武と日立の仕組みは、毎日改札を通る定期券利用者を対象にし、既存の改札機を生かし、事業者をまたいで使える共通基盤に載せた点で狙いが異なる。他の鉄道会社がこの仕組みを導入した場合、利用者は追加の手続きなしにその会社の改札でも顔認証を使える。
改札はサクララ経済圏の入り口
もっとも、東武と日立にとって顔認証改札は目的そのものではない。サクララは2024年4月、東武ストアのセルフレジで指静脈をかざして決済するサービスとして始まった。クレジットカードやポイントカードの情報をあらかじめ登録しておくと、生体認証だけで決済とTOBU POINTの付与が同時に完了する。
東武ストアでは決済時間が従来の利用と比べ平均で50%短縮できたという。その後、東武ホテルのチェックインや越谷・川越の商店街の飲食店などに広がり、2026年7月現在の登録者は2万人を超えた。
日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 デジタルアイデンティティ本部 本部長の池上隆介氏は取材に対し、鉄道を「生活圏内に根差した重要な社会インフラ」と表現し、改札を軸に周辺の店舗へ広げる構想を語った。改札を顔認証で抜けた人が、駅前のコンビニでも百貨店でも同じ顔認証で決済し、ポイントを受け取り、本人確認を済ませる。そうした生活圏を作ることが狙いで、なりすましを防げる特性を生かし、人気商品の1人1点販売のような用途も想定する。

