東武鉄道にとっては、共通ポイントのTOBU POINTを軸とする沿線経済圏の強化策でもある。ポイントを媒介に沿線とグループ施設の接点を増やす戦略を掲げており、毎日2回改札を通る定期券利用者との接点は、その中核に据えやすい。先行する宇都宮線では登録者が約100人、利用は1日数十人にとどまるが、池袋駅は1日約42万人が乗り降りする東武線最大のターミナルで、分母の大きさが桁違いだ。
検出精度と専用レーン、残る課題
通過速度については、ICカードの連続通過と遜色ない水準を目指した。ただし報道公開の実演で筆者が見た範囲では、数回に1回ほど顔を検出できず、通過できない場面があった。実際の運用に向けては、まだ調整が必要なようだ。Osaka Metroの顔認証改札が、精度を高めるために照明付きのアーチで通路を覆う専用機なのに対し、こちらは既存の改札機にカメラを載せた簡易な構成で、その違いが検出の安定性に影響しているのかもしれない。
制約は精度だけではない。乗車券として使えるのは定期券だけで、定期区間外の都度払いは研究課題のままだ。顔認証で入場した人は出場も顔認証で行う仕組みで、ICで入って顔で出ることはできない。
しかも東上線で対応改札があるのは池袋と上板橋の2駅だけのため、顔認証で完結する乗車は現時点でこの2駅間の移動に限られる。改札の1レーンを顔認証専用に割く現在の形は、登録者が少ないうちは駅の処理能力を下げる要因にもなる。
この点は当事者も認識している。小金井氏は、ICカードと顔認証のどちらも使える併用機について「今年度中の導入を目指して研究開発している最中」と述べた。併用機ができれば、専用レーンを1本確保する必要はなくなり、導入時の負担はもう一段軽くなる。
設置場所も広げる。2026年9月までに東武アーバンパークラインの船橋駅と馬込沢駅へ導入して3メーカーすべての改札機での稼働をそろえ、その先は池袋と上板橋の間の駅にも普及を進める考えだ。
他社への展開は、この仕組みの当初からの狙いだ。6社は全国の鉄道事業者への導入促進に取り組む方針を掲げ、2027年度以降に東武鉄道以外への導入拡大を目指すとしている。小金井氏によると、他の鉄道会社からの具体的な引き合いはまだないものの、見学に訪れる会社は出てきているという。

