歌舞伎町にある店らしく、実にさまざまな客が訪れるという。
「『お母さん、食べに来たよー』って、毎日ウインナーエッグとご飯を注文するホストの方がいるんですよ。『飽きないの?』って聞くと、『飽きないよ、ウインナーが大好きなんだ』って。今日もこの後、来ると思いますよ」(文江さん)
店を手伝っている娘の円(まどか)さんはこう続ける。
「常連の20代のお姉さんたちが、ご飯を食べながら、『昭和にタイムスリップをしたら何をしたいか』って話をずっとしてたんです。この店に来ると昭和を想像するのでしょうね」
近年、昭和レトロがブームになっている。ひょっとこの雰囲気はまさに昭和レトロだが、作られたそれではなく、70年以上の年月によって築かれたもの。若者たちが心躍らせる気持ちはとても理解できるし、筆者のような昭和生まれはたまらなく落ち着く。実家に帰ってきたような安心感もあり、客たちが文江さんを「お母さん」と呼ぶのも納得だ。
終戦後、「新宿駅前の闇市」から始まった
文江さんは、“歌舞伎町の子どもたち”への思いをこう口にする。
「料理を食べて、『これ、おばあちゃんの味だ!』って言ってくれる子もいます。『若いのに煮物が好きなの?』って聞くと、『大好き』って。実家に戻れない子もいるだろうし、なるべくいろいろなものを作ってあげたいと思っています」
ひょっとこを開店したのは、「おばあちゃま」。後に文江さんの夫となる茂さんの親戚だ。終戦後、新宿駅前の闇市からその歴史が始まった。1950年頃に区役所通りに移転し、おばあちゃまと茂さん、茂さんの叔父と叔母とで切り盛りをする。ひょっとこという店名は、俳句をたしなんでいた叔父がつけたという。

