日本食レストランをオープンしてからの19年。この歩みを語るとき、洋花さんは自分の成功を進んで話そうとしない。
「家賃が払えて、お客さんが喜んでくれて、日本人の先輩たちに恥ずかしくない店になっていればよかった。 売り上げの数字を本気で見るようになったのは、最近になってからです」
経営者としての自覚が芽生えた証だが、「常に自分はできていない気がする」とも語る。
「自己肯定感的なものは、たぶん、ものすごく低いんです」
そう言ってから、少し言葉を選ぶように続けた。
「でも、自分自身でいられる場所を見つけたって思えたのが、マドリードでした。海外に出て気づいたのは、答えは外じゃなくて内にあるんだ、ということです」
ゆったりとした口調で、さらに言葉を重ねる。
「多くの人は、外に答えを探しに行くじゃないですか。でも本当は、答えって自分の中にあって。すでに与えられているものに感謝できるか、今の一瞬一瞬を大切にできるか――そういうことに気づかされました」
「質問をやめてくれ」から30年以上を経て…
秋田の中学校で、ある教師が少女に言った。「質問をやめてくれ」、と。
あの日から30年以上が経って、少女は遠い街で、問い続ける場所を手に入れた。
取材中、店に一人の来客があった。日本の食品関係の会社を率いる社長だった。洋花さんは出汁について、すかさず質問を始める。社長も真剣に答える。傍らの夫、ステファンさんが厨房側から意見を挟む。
ピンクの髪の女性、日本人の社長、フランス育ちのシェフ――三者の声が、マドリードの店内で静かに重なっていく。
いま、その問いを止める人はいない。
