よく知られていない高校卒就職システムの実態

求人倍率からわかるように、今は1人の高校卒就職者をおよそ4社が取り合っている状況だ。圧倒的な働き手不足である一方、その離職率は高い。

厚生労働省が2024年に発表したデータによると、2021年3月に高校を卒業した就職者の3年以内離職率は38.4%。近年、上昇傾向にある大卒者の34.9%と比較して高い。

さらに、リクルートワークス研究所の「高校生の就職とキャリア」の調査(2021年発表)では、半年以内に離職する高校卒者は10.7%にのぼり、4人に1人(24.1%)が卒業後に入社した会社について10点満点中「0点」と評価している。こうしたデータは、高校卒者の就職に大きなミスマッチが生じていることを示している。

この問題をはじめ、高校生の就職やキャリア支援のあり方を考えるにはまず、高校卒時の就職活動は大卒時のそれとはまったく異なる仕組みであることを知る必要がある。

「高校生の就職システムは非常に特殊で、就職活動というより就職指導という表現のほうがフィットします。要は学校が丁寧に生徒のサポートをして就職していくやり方で、高校生自身が決めるというよりは学校の先生が提案する会社の中から就職先を決めるケースがほとんどです。

基本的な仕組みとしてはハローワークと先生が紙の求人票を使い、生徒に『この会社はどうか?』と提案をして、その1社だけ面接を受けて、合格すれば内定を得られる形です。

そのため生徒は応募を検討する会社が少なく、われわれの調査では『1社だけを調べ見て、1社だけを受けて、1社に内定した人』が55.4%と過半数にも上ります」

リクルートワークス研究所の古屋星斗氏はそう説明する。

古屋 星斗(ふるや・しょうと)
リクルートワークス研究所 主任研究員
2011年一橋大学大学院社会学研究科 総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、未来予測、若手育成、キャリア形成研究を専門とする。著書に『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』(中央公論新社)、『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日本経済新聞出版)、『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事
(写真:本人提供)

応募する企業を1社に限る慣行に代表される高校生の就職活動システムは、各都道府県の教育委員会や地元の経済団体などとの申し合わせで決められている。

これは学校が生徒に安心して就職できる企業を紹介する狙いもあるが、教員は大卒者で、その多くが高校卒業時に就職活動をしたことがない。そのため高校卒者の就職システムを教員が知るのは高校卒で就職する生徒がいる高校に赴任してから、という事態になりやすい。

つまり、必ずしも高校卒就職に詳しくない高校の先生が就職指導を担っているという問題もあるわけだ。

転職が当たり前の今、長期的なキャリア設計が必要

もともとこの仕組みは、高校卒で就職する人が多かった時代に効率的に企業と生徒をマッチングするために生まれたものだという。

「かつては高校卒業後に就職する若者が現在の5倍以上おり、多数の求職者と求人を短期間で効率的にマッチングする必要があったのです。また、工業高校のように就職希望者がたくさんいる高校と、数人しか就職しない普通科の高校で今や状況がまったく異なっているにもかかわらず、たくさん就職希望者がいた時代の指導がスタンダードになり続けている奇妙さがあります。

しっかりした就職をすること自体はとてもよいことですが、現在はかつてのように長期雇用慣行で大企業に就職できれば一生安泰というわけではない。40代や50代の転職希望率が20代に迫ってきている時代です。18歳での就職が人生最後の選択ではなく、最初の選択になっているわけです。

高校生と企業を短期間で効率的にマッチングしていく仕組みは、卒業後の職業人生の設計に脆弱性を生み出しているといえます」

外部との継続的連携がキャリア支援のカギに

高校卒者の離職率を細かく見ていくと、実は就職した企業の規模による差が大きい。つまり、大企業より規模の小さい中小企業のほうが離職率は高くなる傾向があるが、高校卒者の就職先としては中小企業が多いため、高校生全体の離職率は高くなりやすい。

就職する業種でも同様の構図がある。製造業と比べると宿泊業・飲食サービス業などのほうが離職率は高いが、高校生の就職先としては後者のほうが多いため、高校生の離職率は高くなりやすくなる。

こうしてみると高校卒就職者を一くくりにして離職率が高いというのは本質的でなく、規模や業種の違いから来る就職先企業の「育てる仕組みや育てる余裕のなさ」(古屋氏)が高い離職率の大きな要因といえよう。

では、高校卒者が短期離職せず、生き生きと働けるようにするにはどうすればよいだろう。

「私たちの調査では、1社だけを見て就職するより、たくさんの会社を見て悩んだうえで納得し、就職した高校生のほうがその後のキャリアは幸福になっています。つまり、就職活動の仕方によってエンゲージメントが大きく変わってくる。

一方、高校の先生はキャリアづくりの専門家ではありませんが、生徒一人ひとりの個性やバックグラウンドを把握し、進路を指し示すファシリテーターになり得る唯一の仕事です。例えば、学校の先生を起点として、キャリア教育に継続的に伴走できる外部人材を学校教育の場に招く。また、地域企業と連携して生徒が企業や仕事に接し、検討する機会を提供していくのです。

地域企業にとっても、大手企業と賃金格差が開いていく中で確実に採用していくには、インターンシップや職場見学の受け入れ、探究学習への協力などで高校と長期的に連携していくことが採用の種まきになるでしょう」

神奈川県田奈高等学校の包括的なキャリア支援体制

高校入学以前に思うように力を発揮できなかったり、家庭環境や経済的に困難な状況にあったりする生徒の学び直しを後押しするクリエイティブスクール、神奈川県立田奈高等学校では、在学中から卒業後までを見据えた包括的なキャリア支援体制づくりに取り組んでいる。

同校では1年次に職業インタビューや職業ガイダンス、2年次に進路に関する情報収集や職場体験などを実施し、3年次に自分の関心や個性を生かせるような進路目標を設定し、その実現のための方策を考え、実践していく。

クラス担任が中心となって生徒の個別相談・面談を行うとともに、スクールキャリアカウンセラーやNPO法人、地域サポートステーション、地域の経営者組織などと連携し、教員だけではカバーしきれない部分はその力を借りながら支援を進めている。

また、「田奈Pass」という支援機関もあり、卒業後も仕事や家庭の問題など、地域のサポートステーションにさまざまな相談ができるようになっている。

古屋氏によると、1年生や2年生の段階から週単位のインターンシップを提供するような高校も出てきているという。

「高校の就職支援の取り組みを見ていると、外部の人とのつながりにポイントがあると感じています。先生は生徒の個性や特性を把握してファシリテーション能力を生かし、どんな外部人材と組めば個々の生徒たちの人生がよりよくなるのかという観点で、どんどん外部の人を頼っていただきたいと思います」

参照:リクルートワークス研究所 「高校に聞く。キャリア教育と就職指導 Casefile.2 神奈川県立田奈高等学校」

(文:宮内健、注記のない写真:pearlinheart / PIXTA)