北海道から九州まで｢ローカル私鉄気動車｣の記憶 戦前生まれや｢バスそっくり｣など個性派ぞろい

北陸地方には、数ある非電化私鉄の中でも筆者にとって思い出深い路線である尾小屋鉄道（石川県）があった。この鉄道の魅力は、何よりも軌間762mmの非電化軽便鉄道だったことである。筆者は1969年12月の初訪問以来この軽便鉄道の魅力に取りつかれ、1977年3月の廃止まで何度も訪れた。

軌間762mmの軽便鉄道、尾小屋鉄道。雨の尾小屋駅にたたずむ気動車（撮影：南正時）

うれしいのは、この鉄道が映画『男はつらいよ 柴又慕情』（1972年）のタイトルバックに登場したことである。荷台の付いた「バケットカー」の気動車、キハ2に乗り込む寅さんがこの鉄道を全国にアピールした。

尾小屋鉄道の新小松駅に停まるキハ2。ここは現在北陸新幹線のホームに当たる場所だ（撮影：南正時）

近畿地方のレアな気動車たち

近畿地方にも個性的な非電化私鉄がいくつもあった。京都府の丹後地方にあった加悦鉄道は、重要文化財に指定された1873年英国製の2号機関車（123号機関車）が有名だが、現役時代の気動車も貴重な車両が揃っていた。同鉄道の顔的な存在だったのがキハ08 3（元国鉄キハ08形）で、1960年にオハ62形客車を改造してつくられた気動車である。国鉄で廃車後、1971年に加悦鉄道に転じ、1985年の廃止まで活躍した。

加悦鉄道のキハ08は元国鉄の客車改造気動車。晩年まで活躍した（撮影：南正時）

和歌山県にあったミニ私鉄、有田鉄道でもほかでは見られない気動車が活躍していた。国鉄キハ58形の両運転台版といえるキハ58003だ。電化私鉄の富士急行（現・富士山麓電気鉄道）が1962年に、当時気動車での運転だった中央本線の急行「アルプス」に併結して新宿に直通する急行運転のために導入した車両だった。同線は2002年に廃線となった。

有田鉄道のキハ58003は元富士急行の車両で、国鉄キハ58形の両運転台版といえる車両だった（撮影：南正時）