ENEOS「データ活用文化」を醸成した伴走支援 着実な成果につながった「生きた経験事例」

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集合写真
データを、専門人材以外でも積極的に活用する文化を醸成したいと考える企業は多いだろう。他方、社員にしてみれば「本当に活用していいのだろうか」と及び腰になりがちだ。NECの伴走支援を受け、そうした雰囲気を変えてきたのがエネルギー大手のENEOSである。新たなカルチャー醸成という難題をどう解決してきたのか、両社のキーパーソンに取材した。

データマネジメントより機運の醸成を優先させた訳

ENEOS高田氏
ENEOS
IT戦略部 データマネジメントグループ グループマネージャー
高田 勝

ENEOSは、エネルギー・素材の安定供給とカーボンニュートラル社会の実現を両立させるため、早くからDXを推進してきた。経済産業省と東京証券取引所などが共同で取り組む「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」には3回選定。

現在は、既存事業の徹底的な最適化を進める「DX Core」、新ビジネス・新顧客基盤の積極創出を目指す「DX Next」、「カーボンニュートラルに向けたDX」を軸に、デジタル人材の育成にも力を注いでいる。これらの取り組みは、当然ながら多彩なデータを生む。ENEOS IT戦略部 データマネジメントグループ グループマネージャーの高田勝氏は次のように説明する。

「『DX Core』では、一例として、2021年12月に国内初(ENEOS調べ)となるAI技術による石油化学プラント自動運転に成功し、属人化しない安定運転と生産効率化、省エネ運転を段階的に進めています。また、モバイルアプリの活用により当社のさまざまなサービスとお客様をつなぐなどの、デジタルマーケティングを展開していく予定です」(高田氏)

こうした取り組みを実現させた背景には、17年の経営統合を機に刷新した基幹システムの存在がある。さまざまなデータを収集できるようになり、データ分析基盤も構築。データドリブン組織を支えるインフラは整ってきた。

「仕組みはできましたが、誰がどうやって使うのか、さらには使ってみようという機運をどうやって社内で醸成していくのかが、課題となりました。例えばサービスステーションの販売データにしても、運営する特約店や販売店のデータですから、セキュリティの問題をクリアしなくてはなりません」(高田氏)

こうした壁があると、どうしても消極的な思考になってしまうものである。「データ専門人材じゃない自分がデータにアクセスしてもいいのだろうか」や「自部署のデータを他部署に公開してもいいのだろうか」などと、二の足を踏むのも仕方がないといえよう。ENEOS IT戦略部 データマネジメントグループ シニアスタッフの池田聖氏はこう振り返る。

ENEOS池田氏
ENEOS
IT戦略部 データマネジメントグループ シニアスタッフ
池田 聖

「データドリブン組織への変革を実現するには、データマネジメントをしっかりしなくてはならないことはわかっていました。しかし、ルールを策定して『さあ、やりましょう』と呼びかけたところで、及び腰な姿勢は変わりません。それよりも、『データを活用したらこんなことができる』『こんないいことがある』といった機運を盛り上げていったほうが、結果的に全社での取り組みを加速させられるのではないかと考えました」(池田氏)

グループメンバーの一員として、一体となった伴走支援

データ活用の支援をしている会社はたくさんある。では、なぜENEOSはNECを支援パートナーに選んだのだろうか。池田氏は、「(NEC自身も)データドリブン組織への変革を進めており、そこで得た知見を基にお客様を支援したい」という姿勢に共感したという。

「コンサルティング実績が多数あることも、もちろん魅力でした。自ら取り組んでこられたことで、悩むポイントなどの知見を多くお持ちだろうと思ったのです。ディスカッションを交わしていく中で、こうした考えはすぐに確信へと変わりました」(池田氏)

NEC下條氏
NEC
コンサルティングサービス事業部門テクノロジーコンサルティング統括部 ディレクター
下條 裕之

実際、NECはデータ活用文化の醸成にかなりの苦労をしてきた。テクノロジーコンサルティング統括部 ディレクターの下條裕之氏はこう明かす。

「何度も試行錯誤をして、ノウハウを積み上げてきました。データ活用に限らず、人材育成や組織変革でも、まず自らが試してクライアントゼロ(NECが最初の顧客=実験台となる、の意)として得た知見を基に支援しています。ENEOS様の場合、NECもENEOS様と同じように企業規模が大きく、組織がサイロ化しやすい中で取り組んできたことについても、評価をいただきました」(下條氏)

こうしたコンサルティングは一般的に、企業の外部から指示をしている立場というイメージが強いが、NECの支援はそうではなかったと高田氏は振り返る。

「NECの方々から実際に受けた支援は一般的なコンサルティングファームとは違うものでした。同じ職場に週の半分以上常駐して共に取り組みを進めているため、グループのメンバーが増えたような感覚でした。試行錯誤を重ねてできた分厚いノウハウがあり、かつ成功事例も多くお持ちだという点だけでなく、一体感を持って進められたことは非常に心強かったですね」(高田氏)

短期間に、ある意味効率的な支援を展開するコンサルティングファームが多い中で、わざわざ常駐するのは非効率だとの見方もあるかもしれない。しかし、文化の醸成という組織の根本に関わる取り組みは、通り一遍のアドバイスで進められるものでもない。NECの下條氏も「一定のフレームワークは確かにありますが、そのまま当てはめても頭でっかちになります」と話すが、池田氏の次のコメントからは、ENEOSの自律的な取り組みを引き出す効果があったこともわかる。

「NECの方々は、何でも相談できるパートナーとなってくれています。迷っているときは迷っていると素直に口に出せますし、反対意見も率直にぶつけることができます。よりよい取り組みを実現するために、充実した議論ができるメンバーが増えた感覚です」(池田氏)

コミュニティとコンテストの両輪によるデータ活用文化の活性化

NEC伊藤氏
NEC
コンサルティングサービス事業部門アナリティクスコンサルティング統括部 プロフェッショナル
伊藤 千央

具体的に進めた取り組みとして注目したいのが、コミュニティづくりとコンテストの開催だ。NEC アナリティクスコンサルティング統括部 プロフェッショナルの伊藤千央氏は話す。

「NECでは、コミュニティ内で勉強会やイベントを開催し、各事業部門やグループ会社の方も参加しやすいようにしてデータ活用の機運を高めてきました。同じように、生成AIといったタイムリーな話題を提供し、データ分析・活用スキル向上につながるコンテストを開催するなど、このコミュニティに参加したら面白そうだと思っていただけるような働きかけのお手伝いをしました」(伊藤氏)

中にはデータ分析をしたことがない社員も当然いる。そうした社員も参加したくなるよう、コンテストと勉強会やセミナーを組み合わせて開催し、コンテスト実施後は上位入賞者のノウハウを全員に共有する発表会も実施した。

「NECさんの社内でも同様の取り組みをされていたので、運営にも安心感がありました。参加者からの問い合わせ対応もスムーズで、コンテスト参加者へのアンケート結果も良好でした」(池田氏)

参加者の数にも機運の上昇はうかがえる。コミュニティの参加人数は2024年3月末時点で約800人となり、コンテストの参加者は2年間で倍増。「少なくともコミュニティやコンテストは定着化してきた」と高田氏は手応えを語る。

「2024年4月からは、新たにデータマネジメントグループとして体制が強化されました。社内でもデータ活用文化が醸成されてきたことが認められ、さらに機運を上昇させていくという意思表示だと受け止めています。上層部も、コンテストの結果を新たなビジネスに生かすことに関心を寄せています」(高田氏)

今後は、上層部が関心を寄せているように、実際のビジネスでデータ活用の成功事例を生み出したいと意気込む高田氏。引き続きNECの伴走支援を受け、幅広くデータドリブンでビジネスを創出していきたいと語る。

「盛り上がった機運をさらに文化へと昇華させていくには、やはり成功体験が重要だと考えています。NECさんには、データ分析をお手伝いいただくとともに、『ENEOSならこういうビジネスができるのではないか』といったアイデアの討議も期待しています」(高田氏)

データドリブンといっても、ビジネスを生み出し、動かしていくのはやはり人。だからこそ機運醸成を優先する意味があるということだろう。自分たちだけでは気づきにくい強みや、機運醸成のポイントを押さえるNECの支援は、経営を強化して組織を進化させるものといえそうだ。

お客様を未来に導く、NECの価値創造モデル「BluStellar」