デジタルの力でモノとコトを融合し新価値を創造 DX戦略に魂を込める三井E&SマシナリーとNEC
製品にデジタル価値を付加するためにDXを推進
持株会社体制への移行とともに、商号を三井造船株式会社から株式会社三井E&Sホールディングスに変更した三井E&Sグループ。その中核企業として、船舶用ディーゼルエンジン、港湾クレーン、各種産業機械などの製造・販売を行っているのが三井E&Sマシナリーである。
現在、同社は「モノ」と「コト」の融合、「すべての機械にデジタル価値を付加する企業」になることを目指してDXに向けた取り組みを加速させている。
「機械に新しい価値を付加してお客様に提供する。それを実現するうえでデータやIoT、AIといったデジタル技術は欠かせません」と同社の永井 道生氏はDXに取り組む背景を説明する。
例えば、センサーを通じてディーゼルエンジンの稼働情報を収集。それをAIで分析して早期の異常検知や予防保全サービスを提供する。エンジンというモノと、予防保全というコトを融合させることで、単に品質の高いエンジンを提供するだけでなく、船舶の安全運行や乗組員の負担軽減に貢献することができるようになる。同社は、あらゆる製品分野で、このようなモノとコトの融合を図り、新しい価値を付加しようとしている。
変革の柱となるDX戦略の策定を目指す
そのために、まず同社が行ったのがDX戦略の策定である。
「デジタル価値の付加」を特定の製品における一過性の取り組みではなく、全社を挙げた継続的な取り組みとするには、企業そのものがデジタル志向な組織に生まれ変わる必要がある。そのためには、製品の企画や開発プロセスはもちろん、人事制度、働き方、コミュニケーションの取り方といったカルチャーまでも変革していかなければならない。ただ、これらの変革がバラバラに行われると、場合によってはDXの解釈や目指す姿にズレが生じ、狙った効果が得られない可能性がある。
「社長以下全社一丸となって前進するには、揺るがない柱、迷ったら立ち返ることができる拠り所のようなものが必要。その役割を果たす全社のDX戦略を策定することにしたのです」と永井氏は話す。
絵に描いた餅ではなく、戦略に魂を込める
しかし、不安もあった。103年の歴史を持つ製造業である同社が企業そのものを変革することは容易ではない。既存の考え方や方法は隅々にまで浸透しており、これまでの成功を支え、受け継いできたDNAには大きな誇りがある。DXの土台となる戦略は、場合によっては、そのような歴史や思いを覆してでも、これからの三井E&Sマシナリーのあるべき姿を明示し、社員の共感を得なければならない。
そこで、力を借りることにしたのがNECの「DX戦略・構想策定コンサルティングサービス」である。
まず評価したのがNECの経験である。「NECとならば、専業のコンサルティングファームとは異なる『魂を込めた』DX戦略を実現できると確信しました。魂を込められるかどうかは、自身で苦労しながら取り組んだ経験があるかどうか、だと考えています。NECも当社と同様に100年以上の歴史を持つ伝統的な製造業でありながら、近年、全社を挙げてカルチャー変革や働き方改革など組織風土や人材育成まで入り込んだ根本からの変革を進めています。その経験を生かして支援してもらうことで『絵に描いた餅』ではなく、『魂を込めた』DX戦略を実現できると期待しました」と永井氏は言う。
モノ作りとコト作りの融合、つまり工場をどう変革し、ストック型ビジネスへの変革を実現できるか――、製造業ならではの経験から支援が可能だと考えた。
同時にNECがテクノロジーの企業であることにも期待した。戦略を描いた後、当然、同社は実際にAIなどのテクノロジーを活用したDX施策を進めていくことになる。このデジタル実装の局面では、ITベンダー、システムインテグレーターであるNECの力が威力を発揮する。
「例えば、洋上の船舶との通信には無線が必要です。現在、多くの船舶は衛星通信でつながっていますが、今後、5G/6Gネットワークの利用が本格化すれば、多様な通信を適材適所に利用できるようになるはずです。さらに量子コンピューティングなどの技術を活用すれば、データを軸にした海上物流輸送の最適化など『スマートマリン』が大きく前進すると考えています。このような構想には、通信技術に加えコンピューティング技術が欠かせませんが、その両方を手がけている企業は多くありません。NECは、その数少ない一社。専業のコンサルティングファームはもちろん、他のIT企業にもまねできないNECならではの強みだと評価ました」と永井氏は言う。
DXを支援する企業へとビジネスをシフト
コンサルティングと聞いて、真っ先にNECを思い浮かべる人はあまりいないかもしれないが、NECは顧客のDXに関する課題解決を支援するため、コンサルティング体制の強化に力を入れている。
「コンサルティング経験が豊富な人材を積極的に外部から招聘したり、システム開発の経験が豊富な技術者や、人事部で実際に変革をリードした社内人材をリスキルしたりして、多様な経験を持つメンバーを結集。また、『NEC DX INNOVATORS 100』を掲げて、コンサルティング人材だけではなく、AI、データ、セキュリティ、クラウドなどの幅広いDX領域のスペシャリストを育成。これらの人材により、構想を描き提案する力、その提案をテクノロジーで具現化する力の両方を兼ね備えたチームをつくり上げています」とNECの川上 隆之氏は話す。自らの変革の経験を生かしながら、構想だけでなく実装までをサポートする。NECは、自身の強みを「実践力」という言葉で表現している。
経営層から現場まで約100名にインタビュー
DX戦略策定のために三井E&SマシナリーとNECは、まず役員を対象にDXへの理解を深めるためのワークショップを開催。経営層のコミットメントを高めた。そのうえで、次は2週間をかけて役員から現場の社員まで約100名にインタビューを実施。職位や部門ごとに、どんな課題を抱えているかを洗い出した。
「そもそもDXとは何なのかといった漠然とした課題から、人事・評価、現場の仕事の進め方などの具体的な課題、取り組みを停滞させる潜在的なリスクまで幅広い課題を収集。それを基に三井E&Sマシナリーが提供すべき新しい価値、それを支える業務基盤や組織のあるべき姿、理想のカルチャーを描き、DX戦略に落とし込みました」と川上氏は言う。
経営層が一方的に策定した戦略では現場が動かない。一方、現場の声を重視しすぎると、既存のビジネスからの脱却が難しくなる。DXに取り組む中で、経営層と現場の意識のギャップに悩む企業は少なくない。それに対して、三井E&Sマシナリーは、トップから現場にまで、あらゆる立場の人の声を聞き、戦略を策定したり、トップ自らがその浸透に注力したりすることで、全員が変革を「自分ごと」と捉え、社長以下全社一丸となって取り組む準備ができた。「戦略の内容を明らかにすることはできませんが、社長以下全社が一丸となって前進できる一貫性を備えたDX戦略を策定できたと考えています」と永井氏は言う。
すでに策定したDX戦略をベースとした新プロジェクトも始動しており、モノとコトの融合を図って、あらゆる製品にデジタル価値を付加することを目指す同社の取り組みは、まさに本格化しようとしている。「モノを提供して終わるのではなく、コトを通じてお客様とつながり、継続的に価値を提供し続ける。そのようなビジネスへのシフトを加速させます」と永井氏は強調する。
製品の進化、強化ではなく、企業そのものを変革していく。三井E&SマシナリーはNECの協力を得ながら、確実に自身を変革しようとしている。日本の伝統製造業を代表する2社の挑戦は、多くの企業に勇気を与えるに違いない。
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