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ADAD2023.03.09

DX INNOVATORS 変革を実現するTECHとTEAM

AI・データ活用で企業変革を目指すセブン銀行 データマネジメントへの挑戦が人材成長を加速させる

ATM収益が中心の事業構造から多角化へ――。
セブン銀行は中期経営計画で2021年から25年を「第2の成長の具体化期間」と位置づけ、企業変革を推進するための「データを軸としたビジネスモデル・ビジネスプロセス」に取り組んでいる。22年4月にデータマネジメントオフィス(DMO)を設立するなど着々と進んでいるが、変革の勘所はどこなのか。セブン銀行の松橋正明代表取締役社長に、伴走パートナーであるNEC 戦略コンサルティングサービス部門テクノロジーコンサルティング統括部長の川又健氏が話を聞いた。

制作:東洋経済ブランドスタジオ

既存のものを再構成する
=自己変革する企業でありたい

川又セブン銀行は現在、企業変革に取り組まれています。松橋社長は、そもそもセブン銀行をどのような銀行だと捉えていますか?

松橋セブン銀行はセブン&アイ・ホールディングスのグループの一員で、コンビニで銀行を始めたという意味で、セブン-イレブンのDNAを受け継いでいます。セブン-イレブンの強みは、変化に対応して新しいことができる点にあります。そこは私たちも同じ。世の中の変化に対して、既存のものを再構成する=自己変革する企業でありたいと考えています。

川又中期経営計画で「人材・組織・企業文化」と「データを軸としたビジネスモデル・プロセス」の両面における企業変革に取り組まれています。狙いを教えてください。

松橋正明氏

セブン銀行 代表取締役社長
松橋 正明

松橋コンビニは安定的に成長し続けています。ただ、キャッシュレスが急速に浸透しており、ATM収益が中心であった事業構造から進化させていく必要があります。現在、収益源を多角化して、さらに国内だけでなく海外にも展開していくフェーズに移っており、それを第2の成長と呼んでいます。

実はすでに中期経営計画の数年前からAIやデータ活用の研究を進めて、新しい取り組みを始めています。例えばNECと共同開発した2019年発表の次世代モデル「ATM+」は成果の1つ。セブン-イレブンの購買データの金融活用を研究したり、海外のATM設置場所の探索にAIを使うといった事例も出てきました。こうした技術を全社で使いこなせるようになれば新しい銀行になれる。そう考えて、企業変革を目指すCX(コーポレートトランスフォーメーション)のプロジェクトを立ち上げました。

小さな成功事例で
データ活用への機運を高める

川又全社横断でAIやデジタル活用を目指す際に、どのようなことを意識されていましたか。

松橋まずは小さくても成果を出すことが大切です。それを社内外にオープンにしていくと、「もっと使ってみたい」という声がほかの現場から出てきます。そうやってムーブメントができると、次は「データが手に入らない」「データはあるけど使いにくい」といった課題が浮かんでくる。そこでデータマートや、社内全体とコミュニケーションを取るデータの専門組織である DMOが必要になります。最初からDMOをつくるパターンも考えられますが、機運が高まってからのほうがうまくいくと考えています。

川又健氏

NEC テクノロジーコンサルティング統括部
統括部長
川又 健

川又DMO設立支援も含めて、AI・データ活用推進のパートナーとしてNECが伴走させていただいています。どんなポイントを評価していただけたのでしょうか。

松橋データに関する知見ですね。例えばデータマネジメントのフレームワーク「DMBOK」をすべてやるのは私たちにとって範囲が広すぎるので、企業サイズや特性に合わせて絞り込んでカスタマイズする必要があります。「全部できます」というベンダーが多い中、NECは「すべてはやらないほうがいい」とアドバイスをくれました。これは信用できるなと。

あとはドキュメントがすばらしかったですね。データを活用できるメンバーを社内で増やしていくには、ナレッジをいかにわかりやすく伝えるかが大切です。その点、NECさんのドキュメントは、デザインも含めて私たちの定量的・定性的な感覚にぴったりでした。

トライを繰り返せば
社員個人のスキルも向上

川又DMOを検討するときによく出てくるのが費用対効果の問題です。セブン銀行は遠い未来を見て変化に対応していこうとされていますが、そうすると短期的には成果が見えにくい面もあるかと思います。その点について経営者として意識されていることはありますか。

松橋データ活用に限らず、新しい取り組みはその一つひとつで採算が取れるわけではありません。しかし、さまざまな取り組みの中のいくつかが化ければ全体をカバーできます。また小さくても効率化されるものが生まれてくれば、余力をマネタイズの効果が大きそうなものに再配分できるので、全体で採算を取れればいいという発想でやっています。

またこういった取り組みは、人材の成長にもつながります。データを使うときには、これまでアナログだったビジネスのプロセスを分解して、デジタルで再構成する必要があった。当社では成果発表の場が毎週あって、自分が取り組んでいるテーマをプレゼンして、周りからもフィードバックをもらう場を設けていました。こうやって分解と再構成を繰り返すと、業務改革のコンサルティングスキルが磨かれ、個人のスキルアップにつながります。そしてスキルを高めた社員が自分の職場に戻っていくことで、各職場において変革が起こる下地が整うのです。

川又データ活用でビジネスを変革することが、「人材・組織・企業文化」の変革にもつながっていくわけですね。

松橋現場が経営層にデータ活用の提案をするときも、そこをセットにすると心に響くと思います。まず小さくても成果を出して、売り上げ増やコストダウンだけでなく、「人がどのように成長したのか」を可視化して一緒に示す。そうすると、経営層は首を縦に振りやすいと思います。

対談イメージ

データ活用成功のカギを握る
「マネジメント層のデータ理解」

川又進める取り組みと途中でやめる取り組みについて、どのように判断されていますか。

松橋リーダークラスが見て、先がないと判断したものについては棚上げにします。現場の担当はやりたいんですよ。しかし、そのままではやり遂げることが目的になってしまう。先がないのであれば、やり遂げる事だけが目的になる前に、マネジメント層が積極的に方向転換してあげるべきです。そうした判断をするには、マネジメント層自身が勉強をしなくてはいけません。そう言うとマネジメント層の皆さんは、目をそらします(笑)。しかし、やってみると面白い。ダッシュボードを見るだけでなく、自分でデータを使って、ビジネスを変え、変化を感じてみるのもいいのではないでしょうか。

川又松橋社長もデータを自身で触るのですか。

松橋自分でデータを分析することはありませんが、ツールの特性は把握しています。そうすると、分析結果を見て「これはこのツールじゃなくて、あっちのツールで分析したほうがいい」と指摘するくらいのことはできる。今はポジション的にやる時間がなくなりましたが、社長になる前は、毎週すべての案件を見てそれをやっていました。

川又マネジメント自身が理解しているからこそ、データ活用が進むということですね。実際、データマネジメントの活動の進捗状況はいかがでしょうか。

松橋「データを使える人材を増やす」「変化に対応できるようにデータのカタログみたいなものを作る」「コミュニティでナレッジを共有して、新しいことにチャレンジするマインドをつくる」「データデザインをすべての開発に取り入れる」といった取り組みを同時並行でやっています。最終的に成果が出るのは、やはり1~2年後になる。そこまで焦らず続けていくことが大切です。

対談イメージ

川又データを使ったサービス開発も進んでいるのでしょうか。

松橋私たちの金融サービスは、これから積極的にデータを活用して新サービス開発を進めているところです。

セブン銀行は「お客さまの『あったらいいな』を超えて、日常の未来を生みだし続ける。」をパーパスにしています。これは結局、オリジナリティのある商品やサービスを提供することに尽きます。そうしたサービスを生むには、固定観念を捨てて新しいことを試せる環境が必要です。社内でカルチャーや発想法が共有され、データも含めてさまざまなテクノロジーを使える環境があり、そこに多様な人が入ってくれば、おのずとイノベーションは生まれるはず。経営者の仕事は、みんなが楽しく新しいことができるフィールドを整備すること。今後もフィールドをアップデートし続けていきたいですね。

川又プロジェクトを伴走させていただいている中で、企業変革への挑戦、そして、それが人材を成長させるという好循環を生んでいること、非常に感じていました。引き続き、セブン銀行の変革に伴走させていただきたく思います。

松橋私たちはいろいろなものを組み合わせて課題を解決することを得意としています。引き出しは多いほどうれしいので、知見が豊富なNECさんには、それをどんどんぶつけてきてほしい。どんな面白いことができるのか、戦略パートナーとして今後も大いに期待をしています。

まとめ

激変するビジネス環境において、事業の構造改革は各社にとって突きつけられている喫緊の課題と言えるだろう。「データを活用することで、ビジネスを変革したい」そう両氏が話すように、セブン銀行は、NECとともに未来を見据えた前例にとらわれない変革を推し進めている。データ活用によって生まれる新たな価値は、今後ユーザーの日常をどんな便利なものに変えていくのか。両社の取り組みが世界を驚かせる日は、そう遠くないのかもしれない。

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