ノーリツがDXで「人材定義」を優先させた深い訳 真の「データドリブン経営」を実現するために
「現状のビジネスモデルの延長線上に勝機はない」の背景
ノーリツは「お風呂は人を幸せにする」を原点に1951年に創業。技術革新で生活水準の向上に貢献してきただけに、ライフラインを担っているという使命感を強く持つ。企画管理本部 DX戦略推進PJ(プロジェクト)リーダー 星野二郎氏は次のように話す。
「部品・素材の調達難や地政学リスクなど、世界的に不安定な事業環境は今後も続いていくと考えています。そんな中でも確実にお客様へ給湯器をお届けできる盤石なサプライチェーンを構築しなくてはなりません。エネルギーを取り扱うメーカーとして、カーボンニュートラルにも使命感を持って取り組んでいます」(星野氏)
その厳しい目線は、自社のビジネスにも等しく向けられている。少子高齢化に伴う市場縮小や、デジタル化による購買行動の変化を正面から受け止め、星野氏は「現状のビジネスモデルの延長線上に勝機は見いだせない」と断言。そうした環境の変化に応じて「ものづくり」と「ビジネスモデル」の2つを変革するため、DX戦略推進プロジェクトは2021年7月に設立された。
「2つの変革を成し遂げるにはどうすればいいかを考え抜いたところ、従業員のスキルや役割を大きく変革する必要性に行き着きました。もちろん、データサイエンティストなどのプロ人材を外部から確保することも重要ですし、実際に力も注いでいます。しかし、プロ人材だけで変革はできません。全社的にデータリテラシーを高め、データドリブンの組織文化を醸成しなくては、市場環境の変化に追いつけないと考えました」(星野氏)
DX人材育成に取り組む際、リスキリングに目が向くのが一般的だ。しかし、DX戦略推進プロジェクトを担う前から数々の事業変革に携わってきた星野氏は、「習得したスキルをビジネスへ活用してアウトプットを創出する一貫したストーリーなくして、組織文化は醸成できない」と判断。経験や知見を持つ外部パートナーの視点を求めた。
選ばれたのは、NECのコンサルティングサービス。DX戦略推進PJ 参事の鈴木亮太氏は、ものづくり変革の一環として取り組むPLM(製品ライフサイクル管理)最適化のプロジェクトを支援するNECの取り組みを見て、その社内文化に強く関心を抱いていたと明かす。
「若手社員を登場させるタイミングや、新たなメンバーがプロジェクトに参加したときの議論の進め方は非常に難しいものです。しかしNECさんはそのあたりが非常に巧みで、感銘を受けるシーンが数多くありました。どう社内変革をしているのかお聞きしたところ、自社の経験を基にコンサルティングサービスを展開していると知り、依頼することを決めました」(鈴木氏)
組織横断型のプロジェクト構成で社内への波及効果も
NECの展開する「人材育成共創サービス」が、「人材の要件定義」の策定を支援している点も、どう社内文化を変えていけばいいかと思い悩んでいた両氏にフィットした。その内容について、NEC 戦略コンサルティングサービス部門 オペレーションコンサルティング統括部 ディレクター 組織・人事改革グループ長の笠井洋氏は次のように説明する。
「NECも、人材への教育だけでは組織変革がうまくいかないということをさんざん経験してきました。一歩引いて、企業として持続的成長を遂げていくにはどんな人材が必要なのかを考えたところ、『どんな教育が必要なのか』『どう活躍の場をつくればいいか』が見えてきたのです」(NEC・笠井氏)
つまり、企業の未来像を見据え、そこに最適化した組織体系を構想し、構成メンバーの人材像を明らかにしていくわけだ。ともすると人材教育もDXも「手段の目的化」に陥りがちだが、目的からバックキャストするこの手法ならばその心配が少ない。経営戦略と直結しているのも、データドリブンな組織文化の醸成につながる。そこで、ノーリツでも中期経営計画に照らし合わせながら「人材の要件定義」を進めていった。
「2023年度は現在の中期経営計画の最終年度でもありますので、次期中期経営計画の策定も見据え、中長期視点でのビジネスプロセスを精査したうえでそこに不可欠なデジタルテクノロジーとスキルをひも付けていきました。同時にアウトプットを出すための組織体系と人材の定義を明確化し、必要なスキルを細かく設定しました」(鈴木氏)
見落とせないのが、DXという新たな領域で進めることの難しさだ。NEC・笠井氏は次のように指摘する。
「DXを推進する部門やメンバーは、どうしても孤立しやすくなります。しかし、データを全社で活用しようと考えたら、組織横断が不可欠ですので、DX推進プロジェクトには幅広い部門の方に参加いただくことを推奨しています」(NEC・笠井氏)
ノーリツはこのアドバイスを受けて人事やIT、マーケティングのメンバーをプロジェクトに招聘。その1人である企画管理本部 人事総務部 人事企画室の的場義朋氏は、既存の人材育成施策とのギャップに戸惑いつつ、変革の手応えを感じ取っているようだ。
「例えば、今後スマートファクトリーを目指していく際に、現在の人材育成で対応しきれないのは明らかです。現時点で、ものづくり全体を俯瞰する職種はないのですから。でも、どんなスキルが求められるかを『言語化』したことで、どの部署でも共通認識を持てるようになり、具体的な育成施策に落とし込みやすくなりました」(的場氏)
「半歩先」の支援により、変化に強い自走型組織に
NECの支援を受け、定義づけをしたDX人材像は15に上る。フレームワークによって割り出しただけではなく、ノーリツが自社の課題に向き合い、導き出した意義は大きい。自分たちで考え抜いたものであるからこそ、共通認識として社内に通じ、「各部署が対応に汗をかいている」(的場氏)状況が生まれている。
「NECさんが『半歩先』で伴走してくれたおかげです。2週間に1回のペースでミーティングを重ねましたが、答えへと導くのではなく、自分たちで考え抜けるよう巧みにファシリテートしていただきました」(鈴木氏)
NEC自身の経験も含め、成功事例や失敗事例を聞けたのも大きかったという。今後、よりシビアなデータドリブン経営へと進化させるため、グループ会社を含めた全社のデータを連携させ、経営指標と各執行部門の事業活動をつなげていく計画だ。
「それができるようになれば、従業員一人ひとりの仕事に対する価値が明確化し、それぞれの行動に変革をもたらすことができるはずです。人材像の見直しも随時行い、変革を当たり前とする企業文化を醸成していきたいと思っています」(星野氏)
予測不可能な時代、求められる価値は随時変わり、組織や人材のあり方もそれに対応していく必要がある。「変革を当たり前とする」、つまり変化に強いレジリエンスな企業体質はそのための大きな武器であり、字面だけだと変革から遠く見える「人材定義」は、それを手に入れる近道といえるのではないか。
>>NECのDX 公式サイトはこちら