大東建託「スモールスタートのDX」を推進した理由 「非」専門家でも取り組めるデータ活用の秘訣
新規事業とコア事業のデータ連携に課題
建物建設・不動産事業を手がける大東建託では、近年住宅分野にとどまらず、総合賃貸業を核とした「生活総合支援企業」へのモデルチェンジを進めている。背景にあるのは、人口減を主な要因とした社会課題の増加だ。執行役員 情報システム部長 CDO 兼 DX推進部長の長野勇一郎氏は、同社のアプローチについてこう話す。
「人口や世帯が長期減少トレンドにある中で、さまざまな社会課題の解決とグループの持続的成長を結び付ける取り組みに力を注いでいます。これまでも手がけてきた介護・保育、ガス供給・太陽光発電などのエネルギー事業をさらに成長させるとともに、保険や物販を拡充するなど、あらゆる暮らしを支える新たな価値を生み出したいと考えています」
その姿勢が示されたのが2023年9月に公表された統合報告書にある「2030年のありたい姿」だ。コア事業である建設・不動産領域を「幹」、そこから派生するコア周辺事業を「枝」として、そこからまちの活性化や地方創生、循環型社会への貢献という「葉」につなげることを目的としている。それらを密接に結び付けるためには各領域のデータが必要不可欠となるが、活用においては乗り越えなくてはならない壁があったと長野氏は話す。
「この『ありたい姿』を実現するには、あらゆる事業レイヤーにおいてDXの推進が必要となります。とりわけ各領域を横断したデータ活用がこれまで以上に重要となる状況で、すべてのデータが集まる環境が自社にないことが大きな課題でした」(長野氏)
加えて、すでに「枝」となるコア周辺事業は、複数のプロジェクトが動き出していた。
「例えば暮らしに役立つプラットフォーム『ruum(ルーム)』や、自治会運営をデジタルでサポートするアプリ『My自治会』など、新たなサービスが次々に立ち上がっています。さまざまなデータが発生する中で、それぞれの仕組みに蓄積されたデータをつなげ、今までにない視点や発見、活用を生み出す統合データ基盤の構築が必要だと考えました」(長野氏)
スモールスタートでの統合データ基盤構築を提案
しかし長野氏は、すぐに製品の選定には入らなかった。「単純にデータを集約するだけでなく、全社の中でどう機能させるかという全体デザインの段階から相談できるパートナーが必要」と考えたからだ。
「実は、過去に何度かBIツールを導入したのですが、特定用途での利用にとどまり、現場に定着させることは困難でした。統合データ基盤の必要性を現場と共有できないと、せっかく構築しても使われない可能性もあります。ただ基盤を構築するだけでなく、DX推進につながるデータ活用の手法やナレッジを社内で共有していかなくてはなりません」(長野氏)
そうすることで、ゆくゆくはグループ約1万8000人の従業員全員がデータ分析をできるようにし、どの階層からでも新規事業・サービスが創出できる組織にしたいと長野氏。そうしたニーズに応えた提案をしたのがNECだった。
「スモールスタートで統合データ基盤の必要性を現場に訴求していくというNECさんのプランは、具体的なイメージがしやすく実現性が高いと感じました。また、製品ありきではなく、こちらの立場に立って適切な提案をしてくれる姿勢も、決め手となりました」(長野氏)
データ分析で「オーナーの解約リスク」を可視化
まずNECが実施したのは、現場での調査だ。コンサルタントが週2日常駐し、「どのようなデータがあり、どう活用されているか」を洗い出していった。NEC 戦略・デザインコンサルティング統括部の安藤美紀氏は、その狙いについて次のように説明する。
「現場を知らなければ、適切な提案はできません。実際の業務でどんなデータが発生し、どのように活用しているのかを理解しなければ、設計すべき統合データ基盤の形も見えてこないので、ユーザー部門をつぶさに調査することから始めました」(安藤氏)
オフィスではPCの貸与を受け、従業員と同様にイントラネットやサーバーにアクセスしてデータの動きを見るなど、深いところまで入り込んでいった。結果、現場でなければわからないことがいくつも見えてきたと常駐したNEC 戦略・デザインコンサルティング統括部の奥井朝広氏は振り返る。
「現場では想像以上に洗練されたデータ分析を日常的に行っている一方で、限られたデータを表計算ソフトに落としては手元に保管し運用する傾向が見られました」(奥井氏)
つまり、基幹システムで管理している各自部門のデータに随時アクセスし、表計算ソフトを用いて保有するデータと組み合わせてコア周辺事業など各施策の立案・実行に役立てていたということだ。裏を返すと、統合データ基盤に移行するメリットをユーザー部門が感じなければ、過去に定着しなかったBIツールと同様に使われないおそれもある。
「データを統合するメリットが感じられる活用方法を提案しなければならないと思いましたので、ユーザー部門の方がどんな課題を持っているのか詳しくヒアリングを行いました」(安藤氏)
例えばヒアリングから、オーナー様の解約リスク抑制という1つの課題が見えてきた。すぐさまその課題の解消に向けた、データ分析のワークショップを実施。「今までにない新たな発見だった」と長野氏は話す。
「NECのワークショップは、契約条件や建物の構造、空き家期間、経年条件といった複数部門のデータを掛け合わせ、今まで感覚でしか把握していなかった解約リスクを数値的に可視化してくれました。これまでになかった複数部門のデータを掛け合わせた分析というだけでなく、表計算ソフトでは難しいツリー構造の分析だったことも新たな発見につながりました」(長野氏)
データ専門人材でなくても分析・活用が可能に
このワークショップで提案した分析が、データの専門家によるものではないという点もインパクトは大きかったようだ。長野氏は次のように話す。
「データアナリストやデータサイエンティストといったデータ専門人材の育成は数年単位のロードマップが必要になりますが、NECが示してくれた取り組みは、1年目からでもある程度の成果を上げられるイメージができたのは非常に大きいですね」(長野氏)
そうした見通しがついたことで、次期中期経営計画には統合データ基盤の構築も盛り込まれる予定だ。また、ガバナンス強化の観点からもこの基盤構築を、NECが支援する。まったく新しい作業環境にするのではなく、「現在の仕様をできるだけ再現して移行していただく計画を進めている」(安藤氏)という。今まで築き上げてきたデータフローや分析のノウハウを十分に生かし、新たなデータドリブン環境へのアップデートをスムーズに図るというわけだ。
「現在、積極的に事業を横断した取り組みを増やしていこうとしています。賃貸管理戸数約122万戸、入居者様数約219万人という規模を持っているからこそ集まるデータがあると思いますし、見つけ出せる価値やサービスが必ずあると思っています」(長野氏)
データは使い方によって、無限の価値を生む。効率的かつ効果的に統合データ基盤を運用するには、適切な管理体制やルールを定めるデータガバナンスも非常に重要だ。デジタルシフトが進み、かつ予測不可能な時代を迎えている今、細かなところにまで配慮するNECの支援は、データドリブン経営の加速に大いに参考となるのではないか。