経営層の意識改革と「DX人材」育成を推進するには DX実現に不可欠なのは「経営者と社員の熱量」

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北九州市にある三井ハイテック本社
企業に根付くアナログ業務の刷新、デジタルやデータを活用したDXの重要性は、もはや自明の理だろう。しかし、本気でDXに取り組もうとすると、途端にやるべきことの解像度が下がり、後手に回ってはいないだろうか。DXを成し遂げるには、特定の部門任せではなく組織全体を動かす熱量が必要だ。その熱量は、組織にエンゲージメントするヒトによって醸成される。ICT業界を牽引してきたNECは、DXを稼働させるうえで不可欠な「人材の育成」にフォーカス。自社の教育ノウハウを基に、独自のソリューションサービスを開発した。どのような課題を解決できるのか、サービス導入企業の実例から探る。

市場環境の変化に備えるべく、DX基盤の整備へ

「ものづくりの街」北九州市に本社を置く三井ハイテック。その始まりは、戦後間もない1949年に開始した金型の製造販売業にさかのぼる。創業者の強靭なチャレンジ精神を推進力に、業界の既成概念を打ち破る数々の技術開発に成功。技術開発型グローバル企業として、確固たる地位を築いてきた。

「世界の人々に役立つ製品をつくる」を社是に掲げ、世界有数の高度な超精密加工技術をベースにプレス用精密金型、モーターコア、工作機械、リードフレームなどの事業を展開。日本のものづくりの根幹を支えてきた企業といえる。

(写真左上から時計まわり)工作機械、モーターコア群、リードフレーム、モーターコア用打抜き金型

昨今は、カーボンニュートラルやICT化の加速に伴い、電気自動車や省資源・省エネ製品の需要拡大を受けて、顧客ニーズに応える製品供給も強化。売り上げは好調を維持している。目まぐるしく変わる市場環境に柔軟に対応できるのは、真摯に顧客の要請と向き合い、類まれな技術を磨き続けてきた姿勢があったからにほかならない。

その三井ハイテックにも、かねて解決策を模索してきた課題があった。社内業務のデジタライゼーションやDXによる新価値の創造だ。社内のITインフラ整備を中心に担ってきた経営企画本部 調達・IT改革統括部 IT改革推進部長の中村康博氏は、次のように話す。

「新たな製品やサービスの創造に向けて、デジタルやデータを有効活用できなければ、今後の市場競争では生き残れないと感じていました。この問題意識は私個人のみならず、社長も含めた全社で持っていたものです。ところが、事業成長を持続的に支えるためのDXが急務であるという認識はあるものの、それ以前に企業文化や業務プロセスにアナログな運用が多々存在。実情を踏まえると、本格的にDXに取り組む前のベースづくりとして、IT技術を活用したデジタイゼーションの必要性がありました」(中村氏)

NECの支援を受け、DX人材の発掘から育成に着手

三井ハイテック
経営企画本部
調達・IT改革統括部
IT改革推進部長
中村康博

社内のデジタイゼーションの遅れを改善するべく、2019年2月には IT改革推進部が立ち上がり、中村氏はトップを務めることに。従来からある情報システム部門の保守運用業務とは別に、スマートファクトリーの推進などを手がけるようになった。だが、新しい取り組みに着手する過程で、中村氏は壁にぶつかる。

「全社的な改革を行うにはわれわれの部門だけではなく、社内のあらゆる部門で変革を推進するDX人材の育成が必要だと感じました。DXを推進できる人材を事業部門や営業部門に配置しなければ、変化を加速させることは難しい。ただ、これまでの業務の進め方が定着しているので、内側から変えるのは現実的ではなさそうでした」(中村氏)

とはいえ、人材市場でもDX人材は不足しており採用のハードルは高い。こうした壁を超えるには、DXに精通した専門家の協力が要るだろうと考え、まずは自社内にDX人材を増やすことを念頭にDX人材育成のパートナー探しを開始。複数社を比較検討した結果、NECへの依頼を決めたという。

「NECは自社でDX人材育成に取り組んできた実績が豊富なので、より実態に即した提案をもらえるのではないかと期待しました」(中村氏)

かくして2021年5月からスタートした三井ハイテックの育成支援を担当したのは、NECのDX戦略コンサルティング事業部に所属する松尾貴彦氏。コンサルティング会社を経て人材開発パッケージの開発に従事した経験を持ち、ITや製造業にも精通したエキスパートだ。松尾氏は、具体的な支援の中身について、こう説明する。

「三井ハイテック社のビジネス特性を踏まえ、意見交換を重ねてDX人材を定義するところから着手しました。それを踏まえてキャリアパスを作成し、本人の志向やスキル評価を実施。DX人材とのマッチングを進めました。これまでに全社の各部門から20名ほどを選抜し、現場のDXをリードするうえで必要なリテラシーやテクノロジー研修のプログラムを受講していただきました」

経営層向け研修で、DXへの理解を促進

DX人材育成のプロジェクトに端を発した両社の共創は、さらに一歩踏み込んで、経営幹部層向けの研修やワークショップに発展した。開催を進言した中村氏はこう話す。

「DXは単にデジタル改革にとどまらず、新しい製品やサービスの創出につながる取り組みです。今後の経営戦略の根幹を成す領域ですので、経営層にも理解を深めてもらうことが大事だろうと考えました」(中村氏)

NEC
DX戦略コンサルティング事業部
シニアマネージャ
松尾貴彦

DXを全社的な課題だと捉える経営層は少なくないはずだ。しかし、三井ハイテックのように経営層が研修やワークショップに前のめりになるケースは珍しいと松尾氏は言う。

「DXをめぐる世の中の動きや、DXの全体像についての座学やディスカッションを実施しました。経営層の方々が全社的な課題だと思っているからこそ、実現したことだと思います。デジタル改革やDX推進に関連する組織づくりは、経営層のビジョンや戦略をエンジンに前進するもの。われわれとしては、まず経営層にDXの理解を深めていただくことが不可欠だと考えました」(松尾氏)

ワークショップでは活発に意見が交わされ、課題感を共有できたことはよかったと中村氏は振り返る。終了後のアンケートでも、DXの理解が深まったと好評だったとのこと。

DXの実現に向けて土台となる組織風土の改革や戦力としての人材の育成に取り組んでいる三井ハイテック。今後は基礎研修や専門研修を織り交ぜながら、松尾氏を筆頭にNECのエキスパートたちがメンターとなり、DX推進メンバーとして選抜された20名の社員をサポートしていくという。中村氏はこれからをこう展望する。

「一般の社員を含め全社的にDXの必要性を浸透させていくことが必要だと思っています。継続した支援をしていかないとDXに向けた取り組みが停滞してしまうので、NECには引き続きパートナーとして伴走してもらいたいです。デジタルやデータを柔軟に活用し、多角的なアイデアを出せる人材を社内にもっと増やしたいと考えています」(中村氏)

データドリブン企業へ変わらなければいけないーーそう意気込む中村氏。これからの経営を展望するに当たってDXは不可避だ。前向きに捉えるならば、DXは企業に長らく根付いた価値観や意識を一新する起爆剤になるだろう。必要なのはDX実現までのプロセスやメカニズムを体系化すること、そして経営者や社員の心に火をつけること。三井ハイテックの事例は、その重要性を示している。
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