都道府県ごとに様式が異なる調査書(内申書)

高校入試の際、学力検査の得点と同じくらい重要なのが、中学校から志望校に提出される調査書だ。通称は内申書と呼ばれる「調査書」(以下、内申書)とは、中学校での成績と生活についてまとめた書類で、国語・数学・理科・社会・英語に実技教科を加えた9教科の成績を評価したものに加えて、出欠・健康状況、特別活動などについて記載されている。

そのほかにも観点別の学習状況や総合的な学習の時間の記録、行動の記録、スポーツ・文化・社会活動に関する記録、ボランティア活動に関する記録など記載内容は多岐にわたり、都道府県ごとに様式が異なっている(文部科学省「令和4年度 高等学校入学者選抜の改善等に関する状況調査 〈公立高等学校〉」)。

高校入試では、私立高校も含めて学力検査と内申書の評価を合算して合否判定をするところがほとんどのため、内申書の点数も高いほど有利なのは言うまでもない。得点の算出方法は都道府県ごとにばらばらだが、例えば東京都の場合は学力検査(500点満点)と内申書(65点満点)の得点を7:3の比で足し(6:4の高校もある)、今年度はそこに「中学校英語スピーキングテスト」(ESAT-J、20点満点)の結果を加えて総合得点を算出し合否判定を行った。

中学生の学校生活が調査書(内申書)に支配されている実態

こうした内申書の現状に対し、東京大学教授の中村高康氏は「中学校生活全部が評価対象になっており、教育のあり方として息苦しいのでは」と話す。2020年に中村氏が高校生約3000人を対象に実施した「入試制度と学校生活に関する調査」からも、それは明らかだ。

中村高康(なかむら・たかやす)
東京大学 大学院教育学研究科 教授
東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。専門は教育社会学。東京大学助手、群馬大学助教授、大阪大学大学院准教授などを経て2013年から現職。著書に『暴走する能力主義』(ちくま新書)、編著に『大学入試がわかる本』(岩波書店)、『現場で使える教育社会学』(ミネルヴァ書房)などがある
(写真:中村氏提供)

中学校でどのくらい内申書を意識したかについて聞いた項目では、中学校入学から学年が上がるにつれて割合が増えていき、3年生では「とても意識していた」と「まあ意識していた」を合わせて約8割近くの生徒が内申書を意識していた。

内申書に関するさまざまな経験・意識についても聞いており、「学校での日常の態度や取り組みを入試で評価してほしい」65.8%と内申書を好意的に受け止める生徒がいる一方で、「内申書を入試に使わないでほしいと感じた」という生徒も27.9%いた。中には「先生から『内申書に書くぞ』と言われた」が15.5%おり、内申書が生徒指導に使われている様子がうかがえる。

内申書をよくするために意識して取った行動について聞いた項目では、「校則を守った」「欠席をしないようにした」「定期テストの成績が上がるように頑張った」「遅刻しないようにした」「授業をまじめに聞くようにした」が6割を超え、学校行事や部活動、学級・委員会活動への積極的な参加を挙げた生徒が多かった。中には「先生に叱られないようにした」「先生に反発しないようにした」「友達と仲良くしているように振る舞った」という生徒がいたほか、内申書を意識して「学級委員に立候補した」が18.9%、「部活動の部長・副部長に立候補した」が15.3%、「生徒会長・生徒会役員に立候補した」が9%もいた。

さらに、「内申書を意識して行動した人の数」と「内申書を意識したかどうかに関わりなくなされた行動者の数」とを比べることで、内申書の支配力についても考察している(〈内申書を意識した行動者数〉/〈総行動者数〉×100=内申書支配率 )。例えば、生徒会役員に立候補した生徒のうち73.3%が、部活動の部長・副部長のうち76.4%が内申書を意識して立候補していた。そのほかの項目においても、内申書の支配率が極めて高くなっていることが次のグラフでもよくわかる(総行動数を「とても当てはまる」+「まあ当てはまる」の合計値として同様に計算)。

いかに生徒たちが、内申書を意識して、学校や教師にとって望ましい態度や行動を示そうとしているかがわかるだろう。「いちばんの問題は中学生の行動を縛ってしまうこと」と話す中村氏は、こうした「よい子競争」とも言うべき状況に苦言を呈す。

「昔から内申書の不透明さは指摘されていますが、本当に絶対評価になっているのか、学校間で差はないのか、必ずしも評価が公平であるとはいえません。学力検査で一発勝負を避けたい子がいるのもわかります。今回の調査では、そういう子が学力中間層に多い傾向が見られましたが、不登校の子など内申書に強い拒否感を示す子もいます。現在のような学校の成績も生活も受験勉強もといった総合評価を高校入試でやるべきなのか……あれもこれもでは結局バランスよくできる人が高得点になります。受験生も多様ですから、もう少し逃げ道のある制度を用意してもいいのではないか。学力検査重視なのか、日頃の生活を重視するのか、自分でアピールするポイントを選べるような多様性に配慮した入試改革をしてほしいと考えます」

多様な選抜で生徒を多面的に評価、入試制度見直す自治体続々

文科省も、公立高校の入試において生徒それぞれの個性を伸ばすことを重視し、多様な選抜方法の実施を働きかけている。内申書についても生徒の個性を多面的に捉えたり、優れている点や長所を積極的に評価して活用することとし、学校の成績以外の記録の充実を求めている。

それでは記載内容が膨れ上がってしまい、余計に生徒の行動を縛りつけることにならないか、また内申書を作成する教員の負担が増えるという懸念もある。文科省は学校ごとに合否判定に用いる教科を減らす、教科によって評定の比重を変えることなども提示する一方、内申書の内容は本当に必要なものに絞ることも求めている。確かに入試制度が複雑でわかりにくいものになってしまうのは生徒や保護者にとってもよくないし、多様でシンプルな制度がいいというのはわかるものの、ではどんなあり方が望ましいのかとなると判断が難しいところだ。

こうした課題と向き合い入試制度を見直す動きも広がっている。自治体によって、これまでの歴史や事情がそれぞれに異なることもあるが、見直しの方向性がさまざまなのも、その難しさを物語っている。

いち早く内申書の見直しに着手した広島県では、23年度の入試から調査書を簡素化し、記載内容を志望校、氏名、性別、学習の記録(評定)のみにした。併せて自分自身や高校入学後の目標などについて自分で選んだ言葉や方法で表現する「自己表現」を導入。入試当日に「自己表現カード」を記入し、面談方式で自己認識力や自分で考え自ら意思決定する力、それらを表現する力を見るという。学力検査、内申書、自己表現の得点を6:2:2の比重で合算して合否を判定する。

一方、愛知県は23年度から入試制度を大きく変更した。これまでどおり2校に出願できる制度に変わりはないが、学力検査を1回にして受験生の負担を軽減するとともに、全校で採点基準が同一となるようマークシートを導入。内申書・学力検査・面接(一部の学校)で合否を判定するが、内申書の評定(45点を2倍にした90点満点)と学力検査(22点×5教科の110点満点)の比率を3通りから5通りに増やしている。

これまでの「Ⅰ 内申書90+学力検査110」「Ⅱ 内申書135(評定を1.5倍)+学力検査110」「Ⅲ 内申書90+学力検査165(得点を1.5倍)」に加えて、「Ⅳ 内申書180(評定を2倍)+学力検査110」「Ⅴ 内申書90+学力検査220(得点を2倍)」で校内順位を決定する方式を追加した。

愛知県「校内順位の決定方式」ⅣとⅤが新たに加わった
Ⅰ 内申書90+学力検査110
Ⅱ 内申書135(評定を1.5倍)+学力検査110
Ⅲ 内申書90+学力検査165(得点を1.5倍)
Ⅳ 内申書180(評定を2倍)+学力検査110
Ⅴ 内申書90+学力検査220(得点を2倍)

23年度の各学校の選択状況は全体の約3割がIでいちばん多く、学力検査重視のⅢが22.3%、Ⅴが22.8%、内申書重視のIIが14.2%、Ⅳが7.1%だった。新たに2つの方式を取り入れた理由について、愛知県教育委員会 高等学校教育課の担当者は「中学校でふだんの学習をがんばったことや、 学力検査で実力を発揮できることなど、各高校が入学する生徒に期待するものを、これまでよりも明確に示すようにするため」と話す。

今回取り入れた学校や学科の特色を生かして選抜を行う「特色選抜」と、導入意図はまさに同じだという。「特色選抜」では農業・工業・商業などの専門高校に加え、理数、体育、外国語、国際教養に関する学科などを持つ一部の高校で面接に加えて作文、基礎学力検査、プレゼンテーション、実技検査(以上のうち1つ)によって選抜を行っている。

調査書(内申書)、出願手続きの簡素化を皮切りに高校の魅力発信へ

目下、現行の入試制度を見直している最中という自治体もある。

「何かを急に変えないといけないというわけではないが、つねに現状維持ではいけないという意識はある。静岡県では昨年、県議会で内申書の扱いなどについて指摘を受けたこともあり、現行制度について検証委員会を立ち上げ有識者から意見をいただいているところです」

こう話すのは静岡県教育委員会 高校教育課の佐藤典幸氏だ。静岡県の高校入試には、各学校が独自に設定する「学校裁量枠」と、学力検査・内申書・面接で合否を判定する「共通枠」による選抜がある。

「学校裁量枠」は、学校が独自に設定する入学枠で、ほとんどの学校が設定している(募集定員の50%まで)。部活動の実績などを評価する「文化的・体育的活動」、理数科や工業科などの専門学科が設けている「学科への適性」のほか、「中学校における学習」「探究活動」などの観点から希望制で志願者を募集している。実技検査や聞き取り検査、適応力検査、レポート・作文などで合否を判定する。

一方、「共通枠」の選抜には3段階のプロセスがあり、少し複雑だ。まず第1段階では、内申書の学習の記録における評定で校内順位を出した後、上から入学定員と同数の受験者を対象にし、学力検査の得点が高いものから合格者の75%を決定する。第2段階では内申書の9教科評定以外の記述や実績、面接に着目して10%を、第3段階ではすべての選抜資料を対象に総合的に評価して残りの15%の合格者を決定する仕組みになっている。

合格者の75%を占める第1段階で、まずは内申書をベースに対象者を決めることから内申書重視という印象があるが、佐藤氏は「第3段階では総合的に評価しており、現状では学力検査のウェートは適切と考えている。中学校段階では学力検査での一発勝負では力を出せない子がいます。現状では生徒を多面的に評価する総合型の選抜になっており、広く受け入れられていると考えています」と話す。では今後は、どのような方向で見直しを進めていくのだろうか。

静岡県の一般選抜の方法

・学校裁量枠(学校が独自に設定する入学枠、募集定員の50%まで)
文化的・体育的活動/学科への適性/中学校における学習/探究活動 など

・共通枠
第1段階:内申書の学習の記録における評定で校内順位を出した後、上から入学定員と同数の受験者を対象にし、学力検査の得点が高いものから合格者の75%を決定
第2段階:内申書の9教科評定以外の記述や実績、面接に着目して合格者の10%を決定
第3段階:すべての選抜資料を対象に総合的に評価して合格者の15%を決定

「まずは内申書の簡素化、オンラインの活用による出願手続きの簡素化など、実務的なところから着手していきます。また生徒が、高校選びをしやすくなるように地盤を整えたい。単に成績に基づいて学校を選ぶのではなく、スクールポリシーやミッションを参考にしながらよりベストな学校を選べるように、ホームページでの情報発信など地盤を整えて引き続き課題に取り組んでいくつもりです」(佐藤氏)

この内申書の簡素化は、長時間労働が常態化する学校現場で教員負担の軽減として考慮すべき視点であり、今後もほかの自治体に広がっていく可能性がある。その中で、生徒の個性を多面的かつ総合的にどう評価するのかとなると、入試の多様化や評価ポイントを学校ごとに変えるなどの方法が併せて広がっていくのではないだろうか。

大学入試においても推薦入学の拡大をはじめ、学力検査のみならず調査書や小論文、面接などを活用して、受験生の能力や適性などを多面的かつ総合的に評価しようという方向にある。だが入試の方法が多様化する一方で、複雑化してわかりにくいという声も多い。

「高校入試も大学入試も、定員を超える志願者がいるために仕方なく選抜を行っている。入試制度を変えて教育改革をしようと考えるのは本末転倒です。受験生の負荷を増やさないことが肝要であり、入試制度を変える際には受験生のことを第一義に考え、有識者や関係者に広く意見を聞きながら改革を進めてほしいですね」(中村氏)

入試ゆえに公平性や透明性を担保するのはもちろんだが、受験生や学校現場の負担を軽減しながら、いかに生徒の個性や適性と高校を結び付けるのか。自治体の手腕が問われるところだろう。

(文:編集部 細川めぐみ、注記のない写真:各自治体資料より)