著作物を「例外的に」使えるのは「授業」だけ

学校の教員による著作権侵害が相次いでいる。2022年9月から23年1月の短期間に、神奈川県、愛媛県、佐賀県の小中学校が著作権者に無断で「学校通信」にイラストを掲載したとして、各自治体が約11万〜12万円の賠償金を支払った事案が次々と報じられた。また、愛媛県の別の中学校は著作権者に無断でホームページにイラストを利用していたとして、市が賠償金27万5000円を支払ったとも発表されている。

こうした事件を防ぐために押さえておきたい「著作権の基本」を、「学校著作権ナビゲーター」として研修や講演を行う元中学校教諭の原口直氏はこう解説する。

「一言で言えば、『作品は作った人のもの』ということです。日常生活でも、他人のものを使うときは相手に許可を取りますよね。それはイラストや写真、音楽や動画などでも同じなのです」

原口 直(はらぐち・なお)
学校著作権ナビゲーター
東京学芸大こども未来研究所教育支援フェロー。前職は東京学芸大学附属世田谷中学校教諭。 音楽文化事業に関する有識者委員会委員(JASRAC)。 共通目的事業委員会専門委員(SARTRAS)。学校の著作権を解説するサイト 「原口 直の一歩先ゆく音楽教育」「原口 直の学校著作権ナビ」などを運営
(写真:本人提供)

一方で著作権法第35条には、学校の授業は例外である旨が記されている。つまり「学校の授業においては、無許諾かつ無償で著作物を使用できる」ということだ。ここに、教員や児童・生徒にとっての落とし穴がある。すなわち学校の授業ではできたことが、それ以外の場では犯罪になるおそれがあるということだ。教員は、どの校務にまで例外が認められるのかを正確に把握しておく必要がある。同時に児童・生徒に対しても、学校外では同じことをしてはならないと説明しておくとトラブル防止につながる。

冒頭で紹介した小中学校の事件はいずれも、学校が著作物をインターネットに掲載したことで無断利用が顕在化した。おそらくICT活用の推進や、学校情報の透明化への要望に応えようとする中での出来事だろう。

「学校通信や学級通信、PTA会報などは保護者が読む配布物なので、現時点では学校の『例外』にあたらないとされるでしょう。学校通信などに無許諾・無償でイラストや写真を掲載した場合、インターネット上で不特定多数の人に発信したケースに限らず、学校内で配布するだけでも著作権侵害になる可能性があります。なお『著作権フリー』とある素材でも、著作者自身が記した利用規約をよく読み、条件に応じた使い方をすることが大切です」

また原口氏は、「著作権の例外規定は『授業のみ』である点も要注意です」と指摘する。同じ学校活動でも、学校説明会や教職員会議では著作権法の原則に従う必要がある。「『授業』かどうかを判別するには、『教員⇆児童・生徒』の活動かを考えます」

引用元「改正著作権法第35条運用指針 (令和3(2021)年度版) 2020年12月 著作物の教育利用に関する関係者フォーラム 」

「例えば参考書籍や新聞記事の一部をコピーした場合、授業で児童・生徒に配るのは問題ありません。しかし同じものを、無許諾のまま教職員会議や保護者会の資料として配ると著作権侵害です。『その著作物を見るのが誰か』を意識してみてください」

【2023年2月10日17時50分追記】学校通信や学級通信について、「学校内で紙のみでの配布であれば、無許諾・無償でのイラスト使用が認められる」と受け取れる表現があったため、該当部分を訂正しました。学校通信や学級通信は原則として「授業」には当たらず 、 「著作権の例外」に 該当しないため 、配布方法にかかわらず、無許諾・無償でイラストや写真を掲載した場合は著作権侵害になる可能性があります。

「オンライン授業」「行事配信」は条件あり

ICT教育の推進に伴い、オンライン授業や行事配信も増えた。ところが、実はこれらは著作権法の定める「授業」に含まれない。本来ならば、著作物の使用には著作者の許諾や使用料の支払いが必要だ。

しかし、オンライン授業や行事配信のたびに許諾を取って使用料を支払うのではあまりに煩雑で非現実的。そこで2021年度に開始されたのが、「授業目的公衆送信補償金制度」だ。小学生は1人当たり年額120円、中学生は180円、高校生は420円、大学生は720円の補償金をSARTRAS(サートラス:一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会)に支払うことで、許諾不要で使用することが可能になった。

「現在、SARTRASに補償金を支払っている学校は約8割に上ります。しかし実際の支払いは各自治体の教育委員会や学校法人などがまとめて行うため、現場の先生方や子どもがこの制度を知らない可能性も大いにあります。よくある誤解が、オンライン授業や行事配信も『授業』の例外規定で著作物の無許諾・無償使用ができるというもの。対価を支払えばこそ配信が可能であることを把握し、私生活でまねをしないよう児童・生徒にも伝えていかなくてはなりません」

教員向けの講習なども数多く実施している原口氏によると、著作物の扱いに関して、次のようなケースでの対応について質問を受けることが多いという。

「今の時代、画面キャプチャー(スクリーンショット)をSNSにアップすることは誰でも簡単にできます。技術的に可能であることは事実ですが、著作権や個人情報保護の観点で禁止なのだと理解してもらう必要があります」

「YouTubeやニコニコ動画は、プラットフォーム経由でJASRACに使用料が支払われる仕組みです。DVDの作成は、JASRAC提携の業者に頼めば問題ありませんが、教員個人が作成すると無許諾の楽曲使用で著作権侵害となってしまいます」

「YouTubeには、動画の公開前に著作権侵害の有無を確認する機能がありますが、その精度は絶対ではありません。また、著作権をよく理解していない配信者がいることも事実です。利用者側も、その動画が著作権侵害に当たらないかを意識する姿勢が求められます」

児童・生徒のSNSアイコンはキャラクターではないか?

原口氏は大学卒業後、芸能プロダクション勤務を経て中学校の音楽教師を10年間勤めていた。現在の活動を始めたのは、著作権侵害で逮捕・書類送検される子どもたちがいることに心を痛めたからだ。実際、原口氏自身が著作権を意識したのも社会人以降だったという。

児童・生徒がやりがちなのが、SNSのアイコンを芸能人の写真やアニメキャラクターの画像にしてしまうケースだ。とくに芸能人の写真は、カメラマンの著作権を侵害するだけでなく、その芸能人の肖像権をも侵害することになる。

「スマホの待ち受けにする分には、『私的利用』であって著作者への許諾が不要なため問題ありません。一方でSNSのアイコンは不特定多数の人が見るため、『私的利用』には該当しません。実際にプロカメラマンが、自分の作品を無断でアイコンにした人を訴えた例は存在します。確かにジブリやポケモンのアイコンはよく見かけますが、『ほかの人もやっているから』と周りに左右されることなく、自分の身は自分で守る必要があります」

芸能人のみならず、一般人にも肖像権はある。学校通信やホームページに写真を掲載する際も児童・生徒の肖像権に配慮しなければならないが、多くの学校は入学時に書面で掲載許諾を求めているようだ。それと同時に、児童・生徒や保護者にも肖像権の正しい知識を伝えてほしいと原口氏は語る。

「児童・生徒間でトラブルになりやすいのは、友達の変顔や隠し撮りした写真を本人に無断でSNSに投稿してしまうケース。仮によく撮れている写真であっても、本人に許諾をもらわない限り投稿はできません。友人内のグループLINEでも注意が必要です。

保護者に注意してほしいのは、学校行事の写真をSNSでシェアすること。撮影した写真は家族で私的に楽しむにとどめ、SNSやブログへのアップは控えるよう事前に説明しておく必要があります」

「ダメ」ばかりでなく、代替策も合わせて教えて

学習指導要領では、小学校の音楽、中学校の音楽、美術、技術・家庭、そして高校の音楽、書道、美術、工芸、情報といった教科で著作権に関わる記載があり、中学・高校の国語でも引用の仕方を学ぶ機会がある。原口氏は「年に1回著作権を取り上げて終わりではなく、日々の授業から、実際に配布した教材を種に著作権を意識させるとよい」と指摘する。

「例えば合唱コンクールで課題曲の楽譜を配るとき、『楽譜をコピーできるのは学校の授業だけ。みんなが使うときは1人ずつ買おう』と言い添えるだけで著作権を意識する機会になります。私も、楽曲の作詞者・作曲者には必ず触れて著作者の存在を認識してもらうようにしていました。すべての教科で著作物を教材に使うはずなので、教員自身が日々自分が使用している著作物を把握する意味も込めて、日常的かつ教科横断的に著作権の指導を行うのが望ましいでしょう」

原口氏には2点、心がけていることがある。1つは『ダメ』ばかりを教えないこと、もう1つは身近な例で説明することだ。

「『これは犯罪です』と言葉で脅すことは簡単です。しかし、著作物を楽しむこと自体が恐れられるのは著作者も不本意です。『こうすれば使えるよ』『著作者の気持ちや生活を想像してみよう』と肯定的に伝えることが大切でしょう。

実際に説明する際は、児童・生徒の語彙の範囲で具体的な事例を挙げるのがポイントです。例えば、『好きなアイドルのCD を1枚1000円で買ったら、アイドルはいくらもらえるんだろう?』などと問いかけ、『実は歌手がもらえるのは10円。残りは作詞者・作曲者や演奏者、CDを作る会社などに支払われるよ』と話せば、著作者への理解も深まります」

そうして著作者を想像できたところで、「著作物を無断・無料で使うと、彼らは収入が減って生活に困り、新しい作品を作ることもできなくなる」と訴えれば、倫理的にも著作権の意義に納得がいく。著作物の違法な利用が技術的に可能な状況でも、自分で歯止めをかけられるはずだ。

学校は著作権の例外、先生のまねでコピーはいけない

端末の向こうには無限の著作物が存在している。児童・生徒が端末を手にしたタイミングこそ、著作権を指導する好機だと原口氏は語る。とはいえ、著作権は時代に応じて頻繁に法改正をしており、つねに最新の情報をチェックする必要がある。そこで、知識のアップデートに有効な情報源を紹介してもらった。

【知識のアップデートに有効な情報源】
文化庁ホームページ 著作権
文化庁 教職員・情報通信技術支援員(ICT支援員)著作権講習会
※毎年8月に開催、リンクは令和4年度のもの
公益社団法人 著作権情報センター
一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)
JASRAC PARK(子ども用ウェブサイト)
原口 直の学校著作権ナビ
原口 直の一歩先ゆく音楽教育

「注意点は、参考にした書籍やサイトの情報がいつのものなのかを必ず確認して、最新の情報を入手することです。学校内では情報科教員・ICT支援員や学校司書が著作権に詳しいでしょう。判断に迷ったらこうした方々に聞くのも手です」

児童・生徒が、発表スライドにキャラクターやイメージ写真を用いることもあるだろう。それによって発表がわかりやすくなれば、教員からも褒められるはずだ。しかし、同じことを社会で行った途端にそれは違法行為になってしまう。原口氏は最後にこう締めくくる。「学校は正しいことを教える場です。しかし著作権に関しては唯一、『ダメな見本』となってしまいます。学校は著作権の例外であること、学校外で先生のまねをしてはいけないことを、しっかり子どもたちに教えてあげてください」。

(文:安永美穂、注記のない写真:macha / PIXTA)